ベロベロブレックファースト【消】【下】【大】【小】
「フーッ、フゥーッ……!」
それから数分後。獣道脇の深い茂みの中。いよいよ待ちに待った瞬間だった。ドクンドクンと心臓を高鳴らせるベロリンガ。獲物の足音が大きくなればなるほど鼻息が荒くなっていく。吐き掛けて動きを鈍らせるため、口の中に溜め続けていた粘着質の唾液も溢れ出る寸前だった。
相手はエスパータイプであるものの、危機意識も能力も皆無に等しいことは、一匹で森の中を歩いていること、彼の存在に全く気付く様子がないこと、野生の欠片すら感じられない贅肉だらけの醜い体をしていることから明らかだった。きっと何一つ不自由ない環境で文明の利器に頼りきって暮らしてきたのだろう。弱肉強食の世界を生き延びてきた彼にとっては餌も同然の存在だった。
そして――運命の時。足音が目の前を通過するなり、
ガサガサッ!
と、前後左右に体を動かして茂みを揺らせば、
「えっ?」
肥満体のエーフィはピタリと足を止めて振り返る。狙いどおりだった。声の方向を凝視した彼は、唇の隙間からニュッと長いベロを伸ばし――
ベチョッ! ……ヌチャァァァァァッ!
「んんんんんんっ!?」
エーフィの鼻面に舌先を押し付け、思いきり顔を舐め上げる。
「……きゃぁっ!?」
尻餅をついてリュックを落とすエーフィ。その隙に茂みから飛び出した彼は大きく口を開き――
「んべぇっ!」
ビチャッ、ビチャチャッ!
おびただしい量の唾液を吐き掛け、エーフィをベトベトにするのだった。
「いやぁぁぁぁぁっ!? なっ、なにこれぇぇぇぇぇっ!?」
前足で顔を拭いながら悲鳴を上げるエーフィ。やがて目を開けた彼女の瞳に珍客の姿が映り込む。
「なっ、なめまわしポケモンのベロリンガ……!?」
ベロリンガは元気に手を挙げる。
「合っているよ! そう言う君は……たいようポケモンのエーフィだね! こんにちは!」
「こんにちは、ですって……? あっ……アンタねぇ……!」
耳を疑う言葉だった。全身から粘液を滴らせながら青筋を浮き立たせるエーフィ。彼女の怒りのボルテージが上がっていき――そして爆発する。
「ふざけんじゃないわよ! ごめんなさい、でしょうが! こんなイタズラして許されると思っているワケ!? 足が取られて歩けないし、まだまだ水場は先だから洗い落とすこともできないじゃない! どう責任取ってくれるのよ!?」
まだ真意には気付いていないようだった。ベロリンガは薄ら笑いを浮かべる。
「とっ、というか……この液体って……!?」
クンクンと鼻を鳴らしながら表情を引き攣らせるエーフィ。彼は大きく頷く。
「そのとおり! オイラの涎さ! ネバネバのベットベトでしょ!? 何でもくっ付くから便利なんだ! それはさておき……」
これから自身を飢えから救ってくれる相手に黙っておく訳にはいかなかった。彼は熱のこもった眼差しでエーフィを見つめる。
「さっきの話だけど、心配には及ばないよ。もう君には歩く必要も体を綺麗にする必要もないからね!」
「はぁ!? なんでよ!?」
食い気味に返すエーフィ。両手を高々と上げた彼は――糸引く唾液で溢れ返る大きな口を開けて彼女に迫る。
「ここで君はオイラに食べられちゃうからさ!」
「……は? どういう意味?」
「へっ……?」
ここまで言って理解してくれなかった時はどうすればいいのだろう? なんとも不格好なポーズで固まってしまうベロリンガ。キョトンとした顔を見つめた彼の額を冷や汗が伝う。
「えぇっ!? どっ、どういう意味って……そりゃ読んで字のごとくさ。ゴハンにしちゃうって意味だよ。頭から爪先までベロベロ舐め回して、大きな口でゴックンチョして、胃袋でドロッドロに溶かして養分に変えて、お腹の底で吸収して、最後は……」
身振り手振り、そして舌振りを交えながら力説するベロリンガ。そこで四股踏みのポーズになった彼は、尻の下の地面に伸ばしたベロで三段巻きの蜷局を作ってみせる。
「ウンチにしちゃうって意味じゃないか! ブリブリッとね! ……もぉ、こんなことさせないでよ! 恥ずかしいなぁ!」
「うっ……ウンチですってぇ!?」
血の気の引いた顔で叫ぶエーフィ。ようやく分かってくれて一安心だった。ベロを巻き取って口の中に仕舞った彼はホッと溜め息を吐く。
「じょっ、冗談じゃないわ! お断りよ! 他をあたってちょうだい!」
踵を返して逃げ出そうとするも、そうは問屋が卸さなかった。ベロリンガは素早く彼女を追い越して振り向き、両手を広げて立ちはだかる。
「やだ! だって君みたいな子が大好物なんだもん! よぉく脂の乗った若い雌の獣がね! というワケで、君に残された選択肢は一つだ!」
彼は右手の親指の爪を立ててみせる。
「オイラに食べられる前にオイラを食べること。それに尽きるよ。ここは食べるか食べられるかの野生の世界だからね。まぁ、もっとも、オイラなんか食べても美味しくないだろうから、やっつけるだけでも構わないけど。要はオイラと戦って勝つしかないってことさ!」
決戦の幕が切って落とされた瞬間だった。体高の低い相手を迎え撃つべく、彼は立ち合い直前のマクノシタのように、腰を落として地面に両手をついて身構える。
「ちょっかいを出したのはオイラだから、先攻は君だ! ……さぁ、どこからでも掛かっておいで! しゃぶり尽くしてあげるよ! 文字どおりね!」
相手が誰であれ油断は禁物だった。いつでも舌を伸ばせるよう口を半開きにして集中力を高めていくベロリンガ。緊張が最高潮に達した次の瞬間――エーフィは予想外の行動に打って出る。
「ちょっ……ちょっと誰か! 誰かいないの!? いるなら助けなさいよ! 頭のおかしい奴に襲われているの!」
あろうことか自ら戦おうともせず、周囲に助けを求め始めたのだった。どうやら自衛という概念がないらしい。ズッコケる寸前のところで何とか持ちこたえた彼は、深い溜め息を吐く。
「誰もいません! いないから襲っているの! あと、オイラは断じて頭のおかしい奴なんかじゃありません! このままじゃ餓死するのも時間の問題だから君を食べて生き延びようとしているの! 君だって腹ペコになったらゴハンを食べるでしょ!? って、ちっとも聞いてないし……」
そっちのけで喚き続けるエーフィ。本来なら諸手を挙げて喜ぶべきだったが、ここまでの軟弱ぶりを見せつけられてはイライラを覚えずにはいられなかった。彼はプクッと頬を膨らませる。
「あーっ! もうあったまきた! オイラ君みたいな意気地なしなんか大嫌い! 自分の身くらい自分で守る努力をしたらどうなんだい!? というワケで、攻守交替! 君の番は終わり! ……えへへっ! お嬢様育ちの君に野生の厳しさを教えてあげる! オイラ自慢の長いベロでね!」
ジュルンッと舌なめずりをして好色な目で相手を見つめるベロリンガ。彼女は短い悲鳴を上げる。
「……ひっ!? こっ、来ないで! まさか本気で私を食べるつもり!?」
彼は嬉しそうに頷く。
「うんっ! もちろん! 食べるに決まっているじゃないか! まずは味見からだ! ……ベロォォォォォン!」
「むむむむむむぅ!?」
間の抜けた掛け声と共に舌を鼻面に押し付けるベロリンガ。これで二回目。彼は思いきりエーフィの顔を舐め上げて尻餅をつかせる。
「ベロンッ、レロンッ、ネロンッ!」
「やんっ! あんっ! ひゃんっ!」
首、胸、そして腹。舐め下げ、舐め上げ、また舐め下げて唾液に塗れさせた彼は、うんと顎を引いて――
「えいっ! ベロリンチョ!」
「んおおおおおおっ!?」
情け容赦なく股間を舐め上げる。ゴーストタイプの技はエスパータイプに効果抜群。白目を剥いた彼女の全身がビクビクと痙攣する。
弄び甲斐のありそうな獲物だった。目尻を下げ、鼻の下を伸ばした彼の大きな口から下卑た笑い声が漏れる。
「げへへっ! エッチな声で喘いでくれるじゃないか! なめまわしポケモン冥利に尽きるよ! というワケで……もっと、もっと喘がせてあげる! そぉれ! ベロベロベロベロォォォォォン!」
楽な獲物とはいえ油断は禁物。ベロを伸ばすのは体力を奪ってからだった。彼は舌先だけを使って手堅く、素早く相手を舐め回す。鈍重そうな見た目からは想像もつかない俊敏さだった。
「いやぁぁぁぁぁっ!」
頭から順番に味見されてしまうエーフィ。何枚にも見えるほどのスピードで繰り出される舌を前に手も足も出ないのだった。
「んんーっ、こりゃ凄い! 最高の肉質だ!」
舌の体温で溶けてしまうのではないかと錯覚するほどの柔らかさだった。締まりのないブヨブヨの三段腹、プルプルと揺れる巨大な尻、丸太のように太い腿。それら全てを舐め尽くした彼の舌下腺から濃い唾液が溢れ出す。それまで何とか耐えていた彼女が我慢の限界を迎えたのも同じタイミングだった。
「うぅっぷ……! くっ、臭い……!」
両前足で口を押さえながら頬をパンパンに膨らませるエーフィ。気持ち悪いのは当然のこと、鼻が曲がるほどの悪臭だった。すえた汗と垢の臭い、獣の臭い、どういう訳かトイレの臭いまで全身に塗りたくられた彼女は盛大に嘔吐いてしまう。
「あははっ! そりゃそうだ! 臭いに決まっているじゃないか!」
ゲラゲラと声を上げて笑うベロリンガ。彼は大きく開けた口の中を指差してみせる。
「ほぉら、見てのとおり! 一本も歯がないでしょ!? 磨く歯がないからオイラたちに歯磨きの習慣はないんだ! そりゃ臭くもなるよ! ベロで全身を舐め回して綺麗にするのが入浴代わりだから余計に臭くなっちゃうし、獲物は味がなくなるまで舐め回して丸呑みにするのが好きだから、食べた子の体臭がベロに染み込んじゃうんだ。あと……」
目を逸らした彼は頬を赤らめる。
「拭くものがない時はウンチした後のお尻もベロで拭いていたりして。これで臭くならない方がおかしいよ。そう考えてみると……ベロで舐めて綺麗にするのって本当に綺麗なのか怪しいよね! まぁ、臭いのも汚いのも気にしない方だから、どっちでも構わないけど! あははっ!」
股の間に長い舌を通した彼は、ベロベロと尻穴の中を舐め回してみせるのだった。
「うぶっ……! んんっ、くっ……!」
強烈すぎる精神攻撃を受けて一気に吐き気を催すエーフィ。何とか飲み込んで耐えたのが運の尽きだった。それを目ざとく見つけた彼の顔に意地悪な笑みが浮かぶ。
「おっと! そういう我慢は体に毒だよ! ゲロゲロ吐かせて楽にしてあげる!」
クルクルと舌をロール状に巻き取って口の中に仕舞うベロリンガ。森の澄んだ空気を鼻から大きく吸い込んで、そして――
「……ムッハァァァァァッ!」
茶色く淀んだ瘴気に変えてエーフィの顔に吐き掛ける。瞬時に胃の内容物を全て逆流させた彼女は――
「オロッ、オロロロロォッ!」
獣道の真ん中で小間物屋を開いてしまうのだった。彼は腹を抱えて大笑いする。
「あはぁっ! ごゆっくりどうぞ! 落ち着くまで休憩にしよう!」
逃げよう。瞬時に判断したエーフィは胃袋の中身を吐き散らかしながら立ち上がる。くるりと回れ右をして駆け出そうとした彼女だったが――
「うぐっ……!?」
途端に足をもつれさせて倒れてしまう。何故か四肢が痺れて上手く動かせなかった。訳も分からず首を傾げるエーフィ。彼女の耳にベロリンガの高笑いが飛び込んでくる。
「あははっ! その様子だと知らないみたいだね! 世間知らずの君に教えてあげるよ!」
正面に回り込んでダラリと舌を垂らすベロリンガ。大きく開かれた口から粘っこい唾液がボタボタと滴り落ちる。
「オイラの唾液には物を溶かす成分が含まれているんだ。まぁ、溶かすったって、舐められた部分を放っておくと爛れて痒くなる程度だけどね。で、この成分にはもう一つ面白い効果があって、触れた相手を麻痺させちゃうんだ。こっちは比べ物にならないほど強力でね。オイラにベロベロ舐め回されたらビリビリ痺れて動けなくなっちゃうってワケ! そこを大きな口でゴックンチョって寸法さ!」
ゼンマイのように巻いた舌を口の中に引っ込めるベロリンガ。顔を上に向けた彼はゴクリと唾を飲み下す。
「あっ、あぁっ……!」
これ以上の恐怖はなかった。腹の底へと消えていく喉の膨らみに自らの運命を重ねた彼女はガタガタと震え始める。
「ということで、休憩も要らないみたいだし……」
ニッと口角を吊り上げた彼が取ったのは珍妙なポーズだった。肩幅に足を開き、尻を突き出し、大きな尾をピンと立て、両手を高々と上げるベロリンガ。最後に顎を引いて口を半開きにした彼は――
「ベロォォォォォン!」
相変わらずの間抜けな掛け声と共にベロを伸ばす。これこそが最もベロを伸ばしやすい姿勢だった。身長の二倍もあるベロを伸ばしきった彼は、獲物の後ろ足から螺旋状に隙間なくベロを絡み付けていき、簀巻きにして持ち上げる。
「……もう食べても良いかなぁ!?」
ダラダラと涎を垂らしながら鼻が触れ合う距離で尋ねるベロリンガ。彼女は狂ったように首を左右に振る。
「いやっ、食べられたくない!」
それを聞いたベロリンガの顔に穏やかな笑みが浮かぶ。
「あははっ、よくぞ言ってくれました! いいよ、それなら食べない! 相手が嫌がることはしちゃいけないからね!」
「えっ……?」
返ってきたのは意外な言葉だった。地面に降ろされた彼女は即座に舌の拘束から解放される。
「たっ、助かった……?」
淡い期待を胸にベロリンガの顔を見上げるエーフィ。腕組みをした彼はウンウンと何度も頷く。
「分かるなぁ、それ! オイラ怖いのも痛いのも苦しいのも大嫌いだから、生きたまま胃袋の中でドロッドロに溶かされるなんて、想像するだけでオシッコ漏らしちゃうもん! なんならウンチも一緒に漏らしちゃうよ! だから……」
大口を開けて笑った彼の目がギラギラと光る。
「もっと、もっと舐め回して、体の芯まで痺れさせてから食べてあげる! そうすれば怖くも痛くも苦しくもないもんね! 舐めるのが大好きなオイラも満足できて一石二鳥だ! 食べられるのは嫌だろうけど、そこまで君の気持ちを尊重してオイラが腹ペコで死んじゃったら元も子もないから悪しからず! あははっ!」
助かってなどいなかったのである。二メートル半もある舌を真っ直ぐに伸ばすベロリンガ。その先端を目の前に突きつけられた彼女の瞳から光が消え失せる。
「ほぉら、見えるかい!? こんなにも大きくて肉厚なベロで舐め回されちゃうんだよ、君!? 気持ち良すぎて失神しちゃうかもね! さぁ、行くよ!?」
「んあぁっ……!」
本領発揮だった。獲物の頬を舌先でなぞった彼は大きく息を吸い込み、そして――
「脳味噌まで痺れちゃえーっ! ベロロロロロロロォォォォォン!」
「うきゃぁぁぁぁぁっ!」
長い舌を鞭のように振るい始める。力強くダイナミックな舌遣いで舐め回されて断末魔の叫びを上げるエーフィ。全身を麻痺させて気絶させるべく、彼は不潔な汚いベロで臭い唾液を満遍なく塗りたくっていく。相性抜群の攻撃ということもあって効果が現れるのは早かった。彼女は目に見えて動きを鈍らせていく。
「逃げ……ないと……!」
これが最後のチャンスだった。ドロドロに溶けていく意識の中で残る気力を振り絞るエーフィ。激しく痙攣する四肢に渾身の力を込めて立ち上がった次の瞬間――
ベチョッ!
「えっ」
生暖かく柔らかな感触が局部に押し当てられる。股の間にベロを通されてしまったのだった。最も敏感な部分に電撃を浴びて飛び上がった彼女は、全身の痺れも忘れて後ろ足立ちになる。前足でガードしようとした彼女だったが――
「そぉれ! ベーロ、ベーロ、ベーロ、ベーロ、ベーロ、ベロリンチョ!」
「おっ……! おぁっ、おほっ、おふぅっ……! おおおおおおっ!」
紙一重の差で股に舌を食い込まされ、ノコギリを挽く要領で急所を舐めまくられてしまう。間抜けな悲鳴を上げながら体を仰け反らせるエーフィ。トドメの一撃とばかりに力いっぱい舐め上げられた次の瞬間――
ジョロッ、ジョロロッ、ジョロロロロロロロッ……。
濃い黄色をした液体が彼女の股間から溢れ出し、足元の地面に大きな水溜りが形成される。ショックのあまりに小便を漏らしてしまったのだった。舌を口の中に仕舞った彼は大爆笑する。
「あはぁっ! オシッコ漏らしちゃったよ! 大のオトナが情けないんだ!」
ブリッ、ブリブリッ! ムリムリミチチッ! ……ボットン!
「へっ……?」
が、笑っていられたのはそこまで。突如として響き渡った汚らしい音に、彼は目を点にして鼻水を垂らす。見ると――尻の下の地面に茶色い粘土状の塊が山盛りになっていた。情けないことに大便を漏らしてしまったのである。
「えぇっ!? ウンチまで!? ……だっ、大丈夫かい、君!?」
膝から崩れ落ちていくエーフィの元に大慌てで駆け寄るベロリンガ。彼は彼女の両脇をガッチリと両手で支える。
「おぉっ、凄い量だ! しっ、しかも太い……!」
観察している場合ではなかった。彼は何度も首を左右に振るう。
「……じゃなかった! もぉ! ウンチしたかったのなら言ってよ! トイレ休憩くらい挟んだのに! そんな子を相手に勝ったって何も嬉しくないじゃないか! って、もしもし? 聞いているかい?」
異変に気付いて耳元で尋ねるベロリンガ。焦点の合わない目をした彼女の口がパクパクと動き始める。
「なんて……たく……」
「えっ? なんだって?」
聞き取れなかった。彼はグッと顔を近づける。
「ウンチになんて……なりたくない……」
吹き出さずにはいられなかった。彼は舌で作った三段巻きの蜷局をエーフィの頬に押し付ける。
「あははっ、そんな冷たいこと言わずになっちゃおう! とびっきり臭くて太くて大きなウンチにね! 運が良ければ綺麗なグルグル巻きのウンチになれるかも! 今から明日の朝が楽しみだよ!」
彼の辞書に下品という文字はないらしい。ひとしきり笑い終えて舌を口の中に引っ込めた彼は、全身を舐め尽くされてヘロヘロになった獲物を改めて観察する。
「うん、すっかり出来上がった顔だね、君。というワケで、お望みどおりウンチにしてあげるよ。もうオイラに食べられたところで怖くも痛くも苦しくもないだろうからね。でも……その前に!」
パクッ!
彼は大きな口で彼女の鼻口部を咥え、
「ここも味見しちゃおうっと!」
ヌルリッ!
半開きになっていた口の中に舌を滑り込ませる。目を見開いて足掻き始めた彼女だったが、抵抗を察知した彼に喉奥まで舌を挿入されてしまう。
「うーん、こりゃ濃厚だ! たくさんの美味しい味が染み込んでいる! 君がデブなのも頷けるよ!」
口の中を舐め回しながら感想を述べるベロリンガ。精神が崩壊するほどの衝撃を受けた彼女は――口の中を舐め尽くされると同時に目を回してしまうのだった。
これにて勝負あり。相手の舌に舌を絡めて目を閉じた彼は、獲物の体をギュッと力強く抱き締める。
「オイラのゴハンになってくれてありがとう! そして、たくさん舐めさせてくれてありがとう! 感謝するよ! それじゃあ……!」
唇を離して舌を引き抜けば、獲物の口から粘着質の唾液がドロリと溢れ出した。その光景を満足そうに眺めながら舌なめずりした彼は――
「いっただっきまぁぁす!」
食前の挨拶と共に獲物にかぶりつき、一気に頭から尻までを大口の中に収めてしまう。そのまま歯が一本もない口でモグモグと咀嚼すること数回あまり。獲物の体に唾液が十分に馴染んだのを感じ取った彼は、はみ出したままだった二本の後ろ足を舌で絡め取り、先端が二股に分かれた長い尻尾をチュルチュルと啜り取って顔を上に向け、そして――
ゴックンチョ!
静かに口を閉じて丸呑みにするのだった。ヌルヌルになるまで舐め回したお陰で食感は抜群。喉の膨らみとなった獲物は一直線に食道を滑り落ちていき、ドプンと音を立てて胃袋に収まるのだった。腹部を大きく、そして歪に膨らませた彼は幸せな気持ちに包まれる。
「ゲェェェェェップ! あぁ、満足! ごちそうさまでした!」
お腹を抱えてゲップを漏らすベロリンガ。ほぼ体重と同じ量を平らげた彼だったが、まだ胃袋には少し余裕があった。他にも食べ物がないか探すため、彼は足元に転がっていたリュックを拾い上げ、紐を解いて内側を覗き込む。
「おぉっ! 木の実とリンゴがギッシリだ! デザートに食べちゃおうっと!」
極度の肥満体らしく食べ物ばかりだった。水筒を飲み干して喉を潤した彼は、高々と掲げたリュックを逆さまにし、大きく開けた口の内側に中身を全てぶちまける。舌で強く締め上げて粉々に砕けば、甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。頬に両手を当てた彼は感激のあまり号泣する。
「あぁっ、とろけるぅぅぅぅぅっ……! 本当に、本当に生きていて良かった……!」
涙と鼻水で顔をグチャグチャにした彼は、無上の喜びを噛み締めるのだった。
あとは住処に帰って眠るだけだったが、消化が終わるまで満足に動けそうにないため、今日は野宿だった。そこら中に落ちている枝葉を拾い集めて獣道脇に山積みにするベロリンガ。尻尾の付け根に挟んで持っていた火打石で着火したら焚き火の完成だった。満腹感から猛烈な眠気に襲われつつあった彼は、用済みとなった水筒とリュックを燃え盛る枝葉の上に投げ捨て、焚き火の前に大の字で横たわる。
「よぉし、この調子で食べて食べまくるぞ! 明日も頑張ろう! まだ早いけど……おやすみなさぁぁい!」
丸々と膨らんだ自身の腹に誓い、そして挨拶して目を閉じた彼は、瞬く間に深い眠りへと落ちていったのだった。
その後も炎は轟々と燃え続け、やがて辺りはサウナのような熱気に包まれる。全身からダラダラと脂汗を流しながら大いびきをかき始めるベロリンガ。焚き火を起こしたのは体温を上げて消化を促進するためだった。食べ物の存在に気づいた彼の大きな胃袋は、強酸性の胃液を分泌しながら蠢き始め、果汁と唾液に塗れた獲物の体をグニグニと揉みしだいていく。
ゴンベやゴクリンのそれにも匹敵する強力な胃袋に消化できないものなどなかった。毛皮に擦り込まれた胃液、そして穴という穴から侵入した胃液の働きにより、体の外側と内側からドロドロに溶かされていくエーフィ。ものの数時間でベトベターのようになり、その後の数時間でベトベトンのようになった彼女は――やがて完全に溶かし尽くされてヘドロのようになる。
幽門を通って十二指腸に流し込まれ、そこで膵液と胆汁をぶっ掛けられて単なる養分となった彼女が次に運ばれたのは小腸だった。柔毛で覆われた細い管の中を奥へ進むほどに養分を吸い取られていった彼女は、長いトンネルを抜ける頃には搾りカスにされてしまう。
吸収された栄養は血管とリンパ管に乗って全身に運ばれ、彼の飢えを癒すために使われる。血は血に、肉は肉に、骨は骨になり、モツに含まれる豊富なビタミンとミネラルは内臓の機能を修復し、そして――獲物の主成分だった大量の脂肪は余すことなく全身に蓄えられ、すっかり痩せ細っていた彼を丸々と肥え太らせる。でっぷりと膨らんだお腹、むっちりとした肉付きの良いお尻、ぎっしりと脂肪が詰まった大きな尻尾。彼は見事に元どおりの体型を取り戻したのだった。
全てを搾り取られた彼女が最後に行き着いたのは大腸だった。そこで程よい硬さになるまで水分を吸い取られ、蠕動運動でネチョネチョと練り上げられて一塊にされたら出来上がり。願いも虚しく彼女は大便にされ、結腸の奥底へと送られていったのだった。
ブウゥゥゥゥッッ!
鼻提灯を膨らませながら特大の屁をこくベロリンガ。尻穴から勢いよく噴射された茶色いガスは天高く舞い上がり――やがて夏の夜空へと消えていったのだった。
それから数分後。獣道脇の深い茂みの中。いよいよ待ちに待った瞬間だった。ドクンドクンと心臓を高鳴らせるベロリンガ。獲物の足音が大きくなればなるほど鼻息が荒くなっていく。吐き掛けて動きを鈍らせるため、口の中に溜め続けていた粘着質の唾液も溢れ出る寸前だった。
相手はエスパータイプであるものの、危機意識も能力も皆無に等しいことは、一匹で森の中を歩いていること、彼の存在に全く気付く様子がないこと、野生の欠片すら感じられない贅肉だらけの醜い体をしていることから明らかだった。きっと何一つ不自由ない環境で文明の利器に頼りきって暮らしてきたのだろう。弱肉強食の世界を生き延びてきた彼にとっては餌も同然の存在だった。
そして――運命の時。足音が目の前を通過するなり、
ガサガサッ!
と、前後左右に体を動かして茂みを揺らせば、
「えっ?」
肥満体のエーフィはピタリと足を止めて振り返る。狙いどおりだった。声の方向を凝視した彼は、唇の隙間からニュッと長いベロを伸ばし――
ベチョッ! ……ヌチャァァァァァッ!
「んんんんんんっ!?」
エーフィの鼻面に舌先を押し付け、思いきり顔を舐め上げる。
「……きゃぁっ!?」
尻餅をついてリュックを落とすエーフィ。その隙に茂みから飛び出した彼は大きく口を開き――
「んべぇっ!」
ビチャッ、ビチャチャッ!
おびただしい量の唾液を吐き掛け、エーフィをベトベトにするのだった。
「いやぁぁぁぁぁっ!? なっ、なにこれぇぇぇぇぇっ!?」
前足で顔を拭いながら悲鳴を上げるエーフィ。やがて目を開けた彼女の瞳に珍客の姿が映り込む。
「なっ、なめまわしポケモンのベロリンガ……!?」
ベロリンガは元気に手を挙げる。
「合っているよ! そう言う君は……たいようポケモンのエーフィだね! こんにちは!」
「こんにちは、ですって……? あっ……アンタねぇ……!」
耳を疑う言葉だった。全身から粘液を滴らせながら青筋を浮き立たせるエーフィ。彼女の怒りのボルテージが上がっていき――そして爆発する。
「ふざけんじゃないわよ! ごめんなさい、でしょうが! こんなイタズラして許されると思っているワケ!? 足が取られて歩けないし、まだまだ水場は先だから洗い落とすこともできないじゃない! どう責任取ってくれるのよ!?」
まだ真意には気付いていないようだった。ベロリンガは薄ら笑いを浮かべる。
「とっ、というか……この液体って……!?」
クンクンと鼻を鳴らしながら表情を引き攣らせるエーフィ。彼は大きく頷く。
「そのとおり! オイラの涎さ! ネバネバのベットベトでしょ!? 何でもくっ付くから便利なんだ! それはさておき……」
これから自身を飢えから救ってくれる相手に黙っておく訳にはいかなかった。彼は熱のこもった眼差しでエーフィを見つめる。
「さっきの話だけど、心配には及ばないよ。もう君には歩く必要も体を綺麗にする必要もないからね!」
「はぁ!? なんでよ!?」
食い気味に返すエーフィ。両手を高々と上げた彼は――糸引く唾液で溢れ返る大きな口を開けて彼女に迫る。
「ここで君はオイラに食べられちゃうからさ!」
「……は? どういう意味?」
「へっ……?」
ここまで言って理解してくれなかった時はどうすればいいのだろう? なんとも不格好なポーズで固まってしまうベロリンガ。キョトンとした顔を見つめた彼の額を冷や汗が伝う。
「えぇっ!? どっ、どういう意味って……そりゃ読んで字のごとくさ。ゴハンにしちゃうって意味だよ。頭から爪先までベロベロ舐め回して、大きな口でゴックンチョして、胃袋でドロッドロに溶かして養分に変えて、お腹の底で吸収して、最後は……」
身振り手振り、そして舌振りを交えながら力説するベロリンガ。そこで四股踏みのポーズになった彼は、尻の下の地面に伸ばしたベロで三段巻きの蜷局を作ってみせる。
「ウンチにしちゃうって意味じゃないか! ブリブリッとね! ……もぉ、こんなことさせないでよ! 恥ずかしいなぁ!」
「うっ……ウンチですってぇ!?」
血の気の引いた顔で叫ぶエーフィ。ようやく分かってくれて一安心だった。ベロを巻き取って口の中に仕舞った彼はホッと溜め息を吐く。
「じょっ、冗談じゃないわ! お断りよ! 他をあたってちょうだい!」
踵を返して逃げ出そうとするも、そうは問屋が卸さなかった。ベロリンガは素早く彼女を追い越して振り向き、両手を広げて立ちはだかる。
「やだ! だって君みたいな子が大好物なんだもん! よぉく脂の乗った若い雌の獣がね! というワケで、君に残された選択肢は一つだ!」
彼は右手の親指の爪を立ててみせる。
「オイラに食べられる前にオイラを食べること。それに尽きるよ。ここは食べるか食べられるかの野生の世界だからね。まぁ、もっとも、オイラなんか食べても美味しくないだろうから、やっつけるだけでも構わないけど。要はオイラと戦って勝つしかないってことさ!」
決戦の幕が切って落とされた瞬間だった。体高の低い相手を迎え撃つべく、彼は立ち合い直前のマクノシタのように、腰を落として地面に両手をついて身構える。
「ちょっかいを出したのはオイラだから、先攻は君だ! ……さぁ、どこからでも掛かっておいで! しゃぶり尽くしてあげるよ! 文字どおりね!」
相手が誰であれ油断は禁物だった。いつでも舌を伸ばせるよう口を半開きにして集中力を高めていくベロリンガ。緊張が最高潮に達した次の瞬間――エーフィは予想外の行動に打って出る。
「ちょっ……ちょっと誰か! 誰かいないの!? いるなら助けなさいよ! 頭のおかしい奴に襲われているの!」
あろうことか自ら戦おうともせず、周囲に助けを求め始めたのだった。どうやら自衛という概念がないらしい。ズッコケる寸前のところで何とか持ちこたえた彼は、深い溜め息を吐く。
「誰もいません! いないから襲っているの! あと、オイラは断じて頭のおかしい奴なんかじゃありません! このままじゃ餓死するのも時間の問題だから君を食べて生き延びようとしているの! 君だって腹ペコになったらゴハンを食べるでしょ!? って、ちっとも聞いてないし……」
そっちのけで喚き続けるエーフィ。本来なら諸手を挙げて喜ぶべきだったが、ここまでの軟弱ぶりを見せつけられてはイライラを覚えずにはいられなかった。彼はプクッと頬を膨らませる。
「あーっ! もうあったまきた! オイラ君みたいな意気地なしなんか大嫌い! 自分の身くらい自分で守る努力をしたらどうなんだい!? というワケで、攻守交替! 君の番は終わり! ……えへへっ! お嬢様育ちの君に野生の厳しさを教えてあげる! オイラ自慢の長いベロでね!」
ジュルンッと舌なめずりをして好色な目で相手を見つめるベロリンガ。彼女は短い悲鳴を上げる。
「……ひっ!? こっ、来ないで! まさか本気で私を食べるつもり!?」
彼は嬉しそうに頷く。
「うんっ! もちろん! 食べるに決まっているじゃないか! まずは味見からだ! ……ベロォォォォォン!」
「むむむむむむぅ!?」
間の抜けた掛け声と共に舌を鼻面に押し付けるベロリンガ。これで二回目。彼は思いきりエーフィの顔を舐め上げて尻餅をつかせる。
「ベロンッ、レロンッ、ネロンッ!」
「やんっ! あんっ! ひゃんっ!」
首、胸、そして腹。舐め下げ、舐め上げ、また舐め下げて唾液に塗れさせた彼は、うんと顎を引いて――
「えいっ! ベロリンチョ!」
「んおおおおおおっ!?」
情け容赦なく股間を舐め上げる。ゴーストタイプの技はエスパータイプに効果抜群。白目を剥いた彼女の全身がビクビクと痙攣する。
弄び甲斐のありそうな獲物だった。目尻を下げ、鼻の下を伸ばした彼の大きな口から下卑た笑い声が漏れる。
「げへへっ! エッチな声で喘いでくれるじゃないか! なめまわしポケモン冥利に尽きるよ! というワケで……もっと、もっと喘がせてあげる! そぉれ! ベロベロベロベロォォォォォン!」
楽な獲物とはいえ油断は禁物。ベロを伸ばすのは体力を奪ってからだった。彼は舌先だけを使って手堅く、素早く相手を舐め回す。鈍重そうな見た目からは想像もつかない俊敏さだった。
「いやぁぁぁぁぁっ!」
頭から順番に味見されてしまうエーフィ。何枚にも見えるほどのスピードで繰り出される舌を前に手も足も出ないのだった。
「んんーっ、こりゃ凄い! 最高の肉質だ!」
舌の体温で溶けてしまうのではないかと錯覚するほどの柔らかさだった。締まりのないブヨブヨの三段腹、プルプルと揺れる巨大な尻、丸太のように太い腿。それら全てを舐め尽くした彼の舌下腺から濃い唾液が溢れ出す。それまで何とか耐えていた彼女が我慢の限界を迎えたのも同じタイミングだった。
「うぅっぷ……! くっ、臭い……!」
両前足で口を押さえながら頬をパンパンに膨らませるエーフィ。気持ち悪いのは当然のこと、鼻が曲がるほどの悪臭だった。すえた汗と垢の臭い、獣の臭い、どういう訳かトイレの臭いまで全身に塗りたくられた彼女は盛大に嘔吐いてしまう。
「あははっ! そりゃそうだ! 臭いに決まっているじゃないか!」
ゲラゲラと声を上げて笑うベロリンガ。彼は大きく開けた口の中を指差してみせる。
「ほぉら、見てのとおり! 一本も歯がないでしょ!? 磨く歯がないからオイラたちに歯磨きの習慣はないんだ! そりゃ臭くもなるよ! ベロで全身を舐め回して綺麗にするのが入浴代わりだから余計に臭くなっちゃうし、獲物は味がなくなるまで舐め回して丸呑みにするのが好きだから、食べた子の体臭がベロに染み込んじゃうんだ。あと……」
目を逸らした彼は頬を赤らめる。
「拭くものがない時はウンチした後のお尻もベロで拭いていたりして。これで臭くならない方がおかしいよ。そう考えてみると……ベロで舐めて綺麗にするのって本当に綺麗なのか怪しいよね! まぁ、臭いのも汚いのも気にしない方だから、どっちでも構わないけど! あははっ!」
股の間に長い舌を通した彼は、ベロベロと尻穴の中を舐め回してみせるのだった。
「うぶっ……! んんっ、くっ……!」
強烈すぎる精神攻撃を受けて一気に吐き気を催すエーフィ。何とか飲み込んで耐えたのが運の尽きだった。それを目ざとく見つけた彼の顔に意地悪な笑みが浮かぶ。
「おっと! そういう我慢は体に毒だよ! ゲロゲロ吐かせて楽にしてあげる!」
クルクルと舌をロール状に巻き取って口の中に仕舞うベロリンガ。森の澄んだ空気を鼻から大きく吸い込んで、そして――
「……ムッハァァァァァッ!」
茶色く淀んだ瘴気に変えてエーフィの顔に吐き掛ける。瞬時に胃の内容物を全て逆流させた彼女は――
「オロッ、オロロロロォッ!」
獣道の真ん中で小間物屋を開いてしまうのだった。彼は腹を抱えて大笑いする。
「あはぁっ! ごゆっくりどうぞ! 落ち着くまで休憩にしよう!」
逃げよう。瞬時に判断したエーフィは胃袋の中身を吐き散らかしながら立ち上がる。くるりと回れ右をして駆け出そうとした彼女だったが――
「うぐっ……!?」
途端に足をもつれさせて倒れてしまう。何故か四肢が痺れて上手く動かせなかった。訳も分からず首を傾げるエーフィ。彼女の耳にベロリンガの高笑いが飛び込んでくる。
「あははっ! その様子だと知らないみたいだね! 世間知らずの君に教えてあげるよ!」
正面に回り込んでダラリと舌を垂らすベロリンガ。大きく開かれた口から粘っこい唾液がボタボタと滴り落ちる。
「オイラの唾液には物を溶かす成分が含まれているんだ。まぁ、溶かすったって、舐められた部分を放っておくと爛れて痒くなる程度だけどね。で、この成分にはもう一つ面白い効果があって、触れた相手を麻痺させちゃうんだ。こっちは比べ物にならないほど強力でね。オイラにベロベロ舐め回されたらビリビリ痺れて動けなくなっちゃうってワケ! そこを大きな口でゴックンチョって寸法さ!」
ゼンマイのように巻いた舌を口の中に引っ込めるベロリンガ。顔を上に向けた彼はゴクリと唾を飲み下す。
「あっ、あぁっ……!」
これ以上の恐怖はなかった。腹の底へと消えていく喉の膨らみに自らの運命を重ねた彼女はガタガタと震え始める。
「ということで、休憩も要らないみたいだし……」
ニッと口角を吊り上げた彼が取ったのは珍妙なポーズだった。肩幅に足を開き、尻を突き出し、大きな尾をピンと立て、両手を高々と上げるベロリンガ。最後に顎を引いて口を半開きにした彼は――
「ベロォォォォォン!」
相変わらずの間抜けな掛け声と共にベロを伸ばす。これこそが最もベロを伸ばしやすい姿勢だった。身長の二倍もあるベロを伸ばしきった彼は、獲物の後ろ足から螺旋状に隙間なくベロを絡み付けていき、簀巻きにして持ち上げる。
「……もう食べても良いかなぁ!?」
ダラダラと涎を垂らしながら鼻が触れ合う距離で尋ねるベロリンガ。彼女は狂ったように首を左右に振る。
「いやっ、食べられたくない!」
それを聞いたベロリンガの顔に穏やかな笑みが浮かぶ。
「あははっ、よくぞ言ってくれました! いいよ、それなら食べない! 相手が嫌がることはしちゃいけないからね!」
「えっ……?」
返ってきたのは意外な言葉だった。地面に降ろされた彼女は即座に舌の拘束から解放される。
「たっ、助かった……?」
淡い期待を胸にベロリンガの顔を見上げるエーフィ。腕組みをした彼はウンウンと何度も頷く。
「分かるなぁ、それ! オイラ怖いのも痛いのも苦しいのも大嫌いだから、生きたまま胃袋の中でドロッドロに溶かされるなんて、想像するだけでオシッコ漏らしちゃうもん! なんならウンチも一緒に漏らしちゃうよ! だから……」
大口を開けて笑った彼の目がギラギラと光る。
「もっと、もっと舐め回して、体の芯まで痺れさせてから食べてあげる! そうすれば怖くも痛くも苦しくもないもんね! 舐めるのが大好きなオイラも満足できて一石二鳥だ! 食べられるのは嫌だろうけど、そこまで君の気持ちを尊重してオイラが腹ペコで死んじゃったら元も子もないから悪しからず! あははっ!」
助かってなどいなかったのである。二メートル半もある舌を真っ直ぐに伸ばすベロリンガ。その先端を目の前に突きつけられた彼女の瞳から光が消え失せる。
「ほぉら、見えるかい!? こんなにも大きくて肉厚なベロで舐め回されちゃうんだよ、君!? 気持ち良すぎて失神しちゃうかもね! さぁ、行くよ!?」
「んあぁっ……!」
本領発揮だった。獲物の頬を舌先でなぞった彼は大きく息を吸い込み、そして――
「脳味噌まで痺れちゃえーっ! ベロロロロロロロォォォォォン!」
「うきゃぁぁぁぁぁっ!」
長い舌を鞭のように振るい始める。力強くダイナミックな舌遣いで舐め回されて断末魔の叫びを上げるエーフィ。全身を麻痺させて気絶させるべく、彼は不潔な汚いベロで臭い唾液を満遍なく塗りたくっていく。相性抜群の攻撃ということもあって効果が現れるのは早かった。彼女は目に見えて動きを鈍らせていく。
「逃げ……ないと……!」
これが最後のチャンスだった。ドロドロに溶けていく意識の中で残る気力を振り絞るエーフィ。激しく痙攣する四肢に渾身の力を込めて立ち上がった次の瞬間――
ベチョッ!
「えっ」
生暖かく柔らかな感触が局部に押し当てられる。股の間にベロを通されてしまったのだった。最も敏感な部分に電撃を浴びて飛び上がった彼女は、全身の痺れも忘れて後ろ足立ちになる。前足でガードしようとした彼女だったが――
「そぉれ! ベーロ、ベーロ、ベーロ、ベーロ、ベーロ、ベロリンチョ!」
「おっ……! おぁっ、おほっ、おふぅっ……! おおおおおおっ!」
紙一重の差で股に舌を食い込まされ、ノコギリを挽く要領で急所を舐めまくられてしまう。間抜けな悲鳴を上げながら体を仰け反らせるエーフィ。トドメの一撃とばかりに力いっぱい舐め上げられた次の瞬間――
ジョロッ、ジョロロッ、ジョロロロロロロロッ……。
濃い黄色をした液体が彼女の股間から溢れ出し、足元の地面に大きな水溜りが形成される。ショックのあまりに小便を漏らしてしまったのだった。舌を口の中に仕舞った彼は大爆笑する。
「あはぁっ! オシッコ漏らしちゃったよ! 大のオトナが情けないんだ!」
ブリッ、ブリブリッ! ムリムリミチチッ! ……ボットン!
「へっ……?」
が、笑っていられたのはそこまで。突如として響き渡った汚らしい音に、彼は目を点にして鼻水を垂らす。見ると――尻の下の地面に茶色い粘土状の塊が山盛りになっていた。情けないことに大便を漏らしてしまったのである。
「えぇっ!? ウンチまで!? ……だっ、大丈夫かい、君!?」
膝から崩れ落ちていくエーフィの元に大慌てで駆け寄るベロリンガ。彼は彼女の両脇をガッチリと両手で支える。
「おぉっ、凄い量だ! しっ、しかも太い……!」
観察している場合ではなかった。彼は何度も首を左右に振るう。
「……じゃなかった! もぉ! ウンチしたかったのなら言ってよ! トイレ休憩くらい挟んだのに! そんな子を相手に勝ったって何も嬉しくないじゃないか! って、もしもし? 聞いているかい?」
異変に気付いて耳元で尋ねるベロリンガ。焦点の合わない目をした彼女の口がパクパクと動き始める。
「なんて……たく……」
「えっ? なんだって?」
聞き取れなかった。彼はグッと顔を近づける。
「ウンチになんて……なりたくない……」
吹き出さずにはいられなかった。彼は舌で作った三段巻きの蜷局をエーフィの頬に押し付ける。
「あははっ、そんな冷たいこと言わずになっちゃおう! とびっきり臭くて太くて大きなウンチにね! 運が良ければ綺麗なグルグル巻きのウンチになれるかも! 今から明日の朝が楽しみだよ!」
彼の辞書に下品という文字はないらしい。ひとしきり笑い終えて舌を口の中に引っ込めた彼は、全身を舐め尽くされてヘロヘロになった獲物を改めて観察する。
「うん、すっかり出来上がった顔だね、君。というワケで、お望みどおりウンチにしてあげるよ。もうオイラに食べられたところで怖くも痛くも苦しくもないだろうからね。でも……その前に!」
パクッ!
彼は大きな口で彼女の鼻口部を咥え、
「ここも味見しちゃおうっと!」
ヌルリッ!
半開きになっていた口の中に舌を滑り込ませる。目を見開いて足掻き始めた彼女だったが、抵抗を察知した彼に喉奥まで舌を挿入されてしまう。
「うーん、こりゃ濃厚だ! たくさんの美味しい味が染み込んでいる! 君がデブなのも頷けるよ!」
口の中を舐め回しながら感想を述べるベロリンガ。精神が崩壊するほどの衝撃を受けた彼女は――口の中を舐め尽くされると同時に目を回してしまうのだった。
これにて勝負あり。相手の舌に舌を絡めて目を閉じた彼は、獲物の体をギュッと力強く抱き締める。
「オイラのゴハンになってくれてありがとう! そして、たくさん舐めさせてくれてありがとう! 感謝するよ! それじゃあ……!」
唇を離して舌を引き抜けば、獲物の口から粘着質の唾液がドロリと溢れ出した。その光景を満足そうに眺めながら舌なめずりした彼は――
「いっただっきまぁぁす!」
食前の挨拶と共に獲物にかぶりつき、一気に頭から尻までを大口の中に収めてしまう。そのまま歯が一本もない口でモグモグと咀嚼すること数回あまり。獲物の体に唾液が十分に馴染んだのを感じ取った彼は、はみ出したままだった二本の後ろ足を舌で絡め取り、先端が二股に分かれた長い尻尾をチュルチュルと啜り取って顔を上に向け、そして――
ゴックンチョ!
静かに口を閉じて丸呑みにするのだった。ヌルヌルになるまで舐め回したお陰で食感は抜群。喉の膨らみとなった獲物は一直線に食道を滑り落ちていき、ドプンと音を立てて胃袋に収まるのだった。腹部を大きく、そして歪に膨らませた彼は幸せな気持ちに包まれる。
「ゲェェェェェップ! あぁ、満足! ごちそうさまでした!」
お腹を抱えてゲップを漏らすベロリンガ。ほぼ体重と同じ量を平らげた彼だったが、まだ胃袋には少し余裕があった。他にも食べ物がないか探すため、彼は足元に転がっていたリュックを拾い上げ、紐を解いて内側を覗き込む。
「おぉっ! 木の実とリンゴがギッシリだ! デザートに食べちゃおうっと!」
極度の肥満体らしく食べ物ばかりだった。水筒を飲み干して喉を潤した彼は、高々と掲げたリュックを逆さまにし、大きく開けた口の内側に中身を全てぶちまける。舌で強く締め上げて粉々に砕けば、甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。頬に両手を当てた彼は感激のあまり号泣する。
「あぁっ、とろけるぅぅぅぅぅっ……! 本当に、本当に生きていて良かった……!」
涙と鼻水で顔をグチャグチャにした彼は、無上の喜びを噛み締めるのだった。
あとは住処に帰って眠るだけだったが、消化が終わるまで満足に動けそうにないため、今日は野宿だった。そこら中に落ちている枝葉を拾い集めて獣道脇に山積みにするベロリンガ。尻尾の付け根に挟んで持っていた火打石で着火したら焚き火の完成だった。満腹感から猛烈な眠気に襲われつつあった彼は、用済みとなった水筒とリュックを燃え盛る枝葉の上に投げ捨て、焚き火の前に大の字で横たわる。
「よぉし、この調子で食べて食べまくるぞ! 明日も頑張ろう! まだ早いけど……おやすみなさぁぁい!」
丸々と膨らんだ自身の腹に誓い、そして挨拶して目を閉じた彼は、瞬く間に深い眠りへと落ちていったのだった。
その後も炎は轟々と燃え続け、やがて辺りはサウナのような熱気に包まれる。全身からダラダラと脂汗を流しながら大いびきをかき始めるベロリンガ。焚き火を起こしたのは体温を上げて消化を促進するためだった。食べ物の存在に気づいた彼の大きな胃袋は、強酸性の胃液を分泌しながら蠢き始め、果汁と唾液に塗れた獲物の体をグニグニと揉みしだいていく。
ゴンベやゴクリンのそれにも匹敵する強力な胃袋に消化できないものなどなかった。毛皮に擦り込まれた胃液、そして穴という穴から侵入した胃液の働きにより、体の外側と内側からドロドロに溶かされていくエーフィ。ものの数時間でベトベターのようになり、その後の数時間でベトベトンのようになった彼女は――やがて完全に溶かし尽くされてヘドロのようになる。
幽門を通って十二指腸に流し込まれ、そこで膵液と胆汁をぶっ掛けられて単なる養分となった彼女が次に運ばれたのは小腸だった。柔毛で覆われた細い管の中を奥へ進むほどに養分を吸い取られていった彼女は、長いトンネルを抜ける頃には搾りカスにされてしまう。
吸収された栄養は血管とリンパ管に乗って全身に運ばれ、彼の飢えを癒すために使われる。血は血に、肉は肉に、骨は骨になり、モツに含まれる豊富なビタミンとミネラルは内臓の機能を修復し、そして――獲物の主成分だった大量の脂肪は余すことなく全身に蓄えられ、すっかり痩せ細っていた彼を丸々と肥え太らせる。でっぷりと膨らんだお腹、むっちりとした肉付きの良いお尻、ぎっしりと脂肪が詰まった大きな尻尾。彼は見事に元どおりの体型を取り戻したのだった。
全てを搾り取られた彼女が最後に行き着いたのは大腸だった。そこで程よい硬さになるまで水分を吸い取られ、蠕動運動でネチョネチョと練り上げられて一塊にされたら出来上がり。願いも虚しく彼女は大便にされ、結腸の奥底へと送られていったのだった。
ブウゥゥゥゥッッ!
鼻提灯を膨らませながら特大の屁をこくベロリンガ。尻穴から勢いよく噴射された茶色いガスは天高く舞い上がり――やがて夏の夜空へと消えていったのだった。
24/08/11 07:11更新 / こまいぬ