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連載小説
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氷は溶けて【消】
「……うぅっぷ! ふぅ、食べた、食べたぁ! もう一歩も動けないや!」
 練乳の空き缶を足元に転がして洞窟の壁に背中を預けるベロベルト。自宅に戻るやいなや、アイスクリームとヨーグルトを平らげた彼だったが、それだけでは飽き足りず、今朝にキュウコンの少女が舐め残した練乳まで胃袋に収めてしまったのだった。クリーム色に染まった舌をベロリと垂らした彼は、はち切れんばかりに膨らんだお腹を両手で抱え込む。
「あーあ、運動しなきゃいけないのに食べちゃった! それも満腹になるまで! 何もかも君たちが悪いんだよ?」
 分厚い贅肉をグニィッと両手で引っ張り上げれば、くっきりと三匹の輪郭が浮かび上がった。そのうちの一匹に注目した彼は、少し後悔したような顔をする。
「腹ペコだったから何も考えずに食べちゃったけど……ソルビン君はベロ袋に収めた方が良かったかもしれないなぁ。妖術が得意そうな感じだったし……どうしよう?」
 考え込んでしまう彼だったが、いったん胃袋に収めた獲物を吐き出す気にはなれなかった。両手を離した彼はキッパリと開き直る。
「まぁいいか! その時はその時だ! せめて暖かくして過ごそうっと!」
 傍らに積み上げてあった薪を次々と焚き火にくべていくベロベルト。じっとりと汗ばむほどの熱気が充満したのを肌で感じ取った彼は、その場で仰向けに寝転がる。
「じゃあね、君たち! きっと仲良くウンチになるんだよ! おやすみなさい!」
 食べた後は寝て過ごすのが一番だった。横たわるなり静かに目を閉じた彼は睡魔に身を委ねる。
 持ち主が眠りに落ちて目を覚ましたのは、彼の消化管だった。ウネウネと蠕動しながら三匹の体表に極濃の溶解液を塗り込んでいく巨大な胃袋。塗り込まれれば塗り込まれるほどに輪郭を失っていった三匹は、やがて灼熱の太陽に照らされたアイスクリームのように溶け尽くして三種の乳製品と混ざり合い、ドロドロのヨーグルトシェイクになってしまう。
 幽門から少しずつ十二指腸へ送られ、胆汁と膵液の働きで完全に消化されたら、あとは何もかもを吸収し尽されるのみ。小腸で養分の絞りカスにされ、大腸で程よい硬さになるまで練り上げられ――大きな一塊の糞にされてしまうのだった。
 かくして三匹の全てを養分に変えたベロベルトだったが、不摂生な食生活が原因で、超が三つも四つもつくデブと化していた今の彼に、栄養の行き先など一つしか残されていなかった。キュウコン達の全ては肝臓で脂肪に変換され、そして贅肉として皮下に蓄えられることにより、彼を病的なまでの肥満体へと変貌させるのだった。
 何事もなかったかのように鼻提灯を作りながら爆睡するベロベルト。いっそう厚みと柔らかさを増した腹をポリポリと掻き、ゴロンと横向きに寝返りを打った次の瞬間――
 ブウゥゥゥゥッッ!
 大量の茶色いガスが尻穴から勢いよく噴射される。反対方向に寝返りを打って元の姿勢に戻った彼は、幸せそうな表情で舌なめずりをして、安らかに寝息を立て続けるのだった。
 骨の一片、歯の一本に至るまで大便にされてしまい、もはや化けて出て復讐するなど夢のまた夢だった。肛門から臭い屁と一緒にひり出された三匹の霊魂は――屈辱と汚辱に塗れながら、トボトボとした足取りで黄泉へと下っていったのだった。
24/08/11 07:52更新 / こまいぬ
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