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吹雪の島 − 旧・小説投稿所A

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吹雪の島
− chapter1 −
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雪の降り積もる寒い冬の朝……朝日がとある町の姿を照らしている

生命を育む太陽の光が、空から大地へと降り注ぐ粉雪に反射して輝くその光景は、なんとも美しいものだ




この町は古くからある有名な町で中央には大きな広場がありその北と南には商店街が広がっている
そこでは食料や道具はもちろん、日用品やポケモンの爪や牙…はたまた祭りの露店のような食事をする所など……たくさんの店がある大きな商店街である

そして商店街の真ん中にある広場

そこは買い物を終えたポケモンや、旅の途中で休むポケモン達の憩いの場として有名だ


そんな広場から西に歩いていくと大きな建物がある

そこはギルドという場所
そこでは未開の地の捜索、探し物 悪い事をしているポケモン おたずねものの御用など様々な依頼が集まり
その依頼をこなし困っているポケモン達を助けるポケモン達のグループ「探検隊」の拠点の場である



これはその探検隊の物語












広場から離れた所 正確に言えば南側の商店街をそれなりに進んだところにある曲がり角を左にしばらく進んだ所に家があった

他にも家はたくさんあるのだが、塗装されたばかりの壁や外の雪景色を綺麗に映し出す窓
それがまだ建てられたばかりの家ということを物語っていた

そんな家の二階の部屋の窓からは一匹のポケモンがすやすやと眠っているのが見える

その部屋には机とイス そしてポケモンの寝ているベッド
そのベッドの横には小さな本棚がありいくつかの本が綺麗に並べられていた

一人の部屋としては少しばかり広いこの部屋に静かな時間が流れていた




かちゃ……キィ…

ふと扉の開く音が部屋の中に響く そしてのし…のし……という足音と一緒に聞こえてくる木の床が軋む音が部屋に木霊する



またあるポケモンが部屋に入ってきて寝ているポケモンに「ぉーい…」と声をかける


「………」

しかし暖かいベッドで深々と眠っているポケモンにはその声は届かず、反応と言ってもただ寝返りをうって仰向けになるだけだった



「おきなよー…」

そんなポケモンに少し呆れたようにもう一匹が長い首をズイと伸ばして大きな声で話しかける


「ぅ…ん……?」

寝ていたポケモンに意識が徐々に戻り眠そうに目をこすり、ゆっくりと開いていく

誰かが顔をのぞき込んでいる

しかしまるでピントのあっていない写真のようにぼんやりとしかその輪郭が見えず言葉がでない

するとその「誰か」が前足を伸ばして彼の体をゆさゆさと揺すりながら

「もう…寝ぼけないで起きなってば!」

少し声を荒げて喋りかけてきた。耳に入ってくる少し可愛らしい声に彼は聞き覚えがあった 安堵したように


「ん…あぁ、おはよぅ…」

起き上がって眠い目をこすりながら答える起こされた一匹のポケモン、しかしまだ眠いのだろう ベッドから体を起こすまではよかったが、立ち上がる元気もないようでベッドの横に目を瞑ったまま腰掛け「はぁ〜あ…」とため息をもらす


そんな様子を見てもう一匹のポケモンは…

「っ…!だからさっさと起きなって……ば!」

首を軽く左に振り回すとその勢いで頭についた葉っぱのようなものでぴしゃりと寝ぼけたポケモンの顔をはたいた

「!?」

声をあげるほどではなかった しかしびっくりしたように目を開けると、声の主が珍しい物でも見るように驚いた顔のポケモンを見つめている

大きく、とても綺麗で純粋な目、大地を踏みしめる4本の足、そして頭の大きな葉っぱが特徴的なポケモン

このポケモンの仲間であるベイリーフだ





「いきなり叩くなん……あーはいはいそんな怖い顔しなくてもおきますよー…っと…」

そしてぶつぶつ文句を言うようにゆっくりとベッドから立ち上がったポケモン…頭には赤い扇のような飾り 白くてとても鋭い爪 そして窓から入ってくる日光によって鈍く輝く黒っぽい体毛

かぎつめポケモンのマニューラである

「ごめん…ひとつ大事なこと聞いていいかな……?」

彼女がきょとんとした顔で真面目…というよりは真剣そうな顔をしたマニューラを見つめる

普段はマニューラの方が早起きをする
その為、何時も寝坊助であるベイリーフが彼に起こされる事はよくある事だ
だが今は違う。立場が逆になっている
滅多に体験しないそれに、彼の機嫌を損なわれてしまうのも仕方ない
マニューラの少し厳しい視線に、そう思った彼女だったが、次の彼の言葉にホッと安堵の息を漏らす



「…あと五分ぐらい寝て良い?」

「なにバカなこと言ってんのさ…まったく……ふふ…♪」

「はははは……もう大丈夫だよ さぁて!今日も頑張ろうね ベイリーフ」

「うん♪じゃあ朝御飯食べてギルドに行こう〜!」

仲のよい二匹の楽しそうな声が部屋に響き ベイリーフは元気に部屋を飛び出してドタドタと下に降りていった









ベイリーフが下へ行き一人自分の部屋に残されたマニューラはベッドのすぐ横にある窓から外の景色を眺めた

「ふぁ〜ぁ…ぅ…?」

雲一つない澄んだ青空
その下では子供のポケモン達がキャッキャと嬉しそうに広場の方へ向かうのが見える
更に子供達にゆっくりとついて行く大人のポケモンの夫婦までもが彼の目に映った

素晴らしいまでに幸せそうな家族だった

「羨ましいよ…」
黙って見ていた彼が呟く

その目には少しだけ涙がたまっているように見えた

「もうすぐクリスマスだなぁ……」

心にモヤモヤとした何かが引っ掛かる
それは重く、考えれば考えれる程胸が苦しくなっていく…

そんな苦しみを涙と一緒に拭う、振り切るように首を振った後、彼もリビングへと降りて行った…


















たっ…たっ…た…

マニューラはゆっくりと階段を下り、朝日が照らすリビングにたどり着いた

キッチンの方ではオーブントースターからパンの焼ける香ばしい匂いが彼を歓迎するかのように立ちこめている

さっきの気持ちをリセットするようにふぅと息をつくと彼は階段を降りて

「気持ちのいい朝だな〜」
と独り言のように呟いてから伸びをして一階の床に降りる そこには既にベイリーフがいて食器棚の上に前足をかけてオーブントースターをじっとのぞいている

パンの焼き加減を見ているのだろう 彼女は短い尻尾を上下に振って焼ける様子を楽しそうに見ている

いつも通りの一日の始まりを感じて彼は吹っ切れた様子でキッチンに入る

簡素な冷蔵庫に綺麗に磨かれた洗濯台、二匹で生活するには立派な設備の整ったキッチン

そんな中で昔から長く使われてるのか灰や煤の付いた古めかしい雰囲気を持ったカセット式のガスコンロに降りてきたマニューラが火を入れる

チチチッと火花のはじける音が数回聞こえた後にゴウッとガスに引火され青い炎がゆらゆらと揺れる

コンロの上には大きな鍋がありその中には野菜とソーセージの入ったスープがあった









−5分後−

「んじゃ いただきま〜す」
「いただきまぁす」


二匹はリビングで元気にご飯を食べ始める

テーブルの上の皿とマグカップにはにはさっきのスープとベーコンとチーズの乗ったパンがあった


ズズ……

「うーん 一日置いたのはまたソーセージの油が染み出してて旨いね〜…ぁー なんかこう…濃厚ってゆーかぁ♪」

ベイリーフが前足でマグカップを押さえながらその中に頭をつっこんで言う


「あ〜ホント?……また機会があったら作るよ…」

「うん♪そういえばさぁもうすぐクリスマスだね」

「だねぇ…明後日かぁ…」

クリスマス
その言葉にマニューラは一瞬胸苦しさを覚えた
込み上げてくるそれを、何とか食べ物と一緒に飲み込む
先ほどの親子の光景が頭に浮かび涙を流す自分の心が蘇っていく
「ねぇ クリスマスでも仕事あんのかな?」

ふと彼女が聞く
仕事とは彼等が所属している探検隊の依頼のことだ

「そりゃあるでしょ クリスマスで町が賑わってる中に紛れてなんかやらかす奴はいると思うよ?」

「そっか〜…ゆっくり出来ないのかな……クリスマスぐらい」

パンをくわえて浮かない顔をするベイリーフ

ゆっくり出来ないか、その言葉に彼も悩んでいる様子で取り敢えず、と答えて見せた

「仕方ないでしょ 職業上…」

そう呆れたように言うマニューラ
だが正直、彼自身も今年のクリスマスは久々にゆっくり過ごしたいと思っていた

昨年や一昨年は彼が探検隊になる為の勉強や修行で、ゆっくりは出来なかった
更に前の年を考え出すマニューラ

三年前のクリスマス…
思い出すと同時に、またあの胸苦しさを襲う

抑える事の出来なかったそれは、彼の意識を三年前へ飛ばした

マニューラの頭の中にある記憶が流れ込んでくる…

そう、彼がまだ探検隊に属していない時
幼いニューラの時の記憶だ…


















「この野郎!」

「…ひぐっ…ぅ…!」

ある家ですすり泣きながら時々苦しむような声が聞こえる
そしてそれに向かって罵声を浴びせながら蹴りつけているポケモン

大人のマニューラだ
これはマニューラの父親である

そして小さい体を縮こまらせて大人に背を向け必死に耐えているのはまだ進化する前のマニューラであった

マニューラ いやニューラにはたくさんのアザがあり 体のあちこちが腫れ上がっている

「お前なんて俺の子供じゃないんだよ!彼奴とあの女が産んだんだ!俺の子供な訳ないだろ、クソガキがぁ!」

頭の中で思い返すほど アルバムでも見ているように記憶が溢れ出してくる

毎日毎日痛む体 自分はこんな地獄のような事から早く逃げ出したかった

母は優しくしてくれたのだが父に脅されて何も言えなかったのである

アザの事を聞かれたら「転んだ」と言ってごまかすしかなく結局家を出ていくまでは母も何も気付いてくれず孤独な日々を送っていた

独りで考えているだけで憤りにも近い気持ちがこみ上げてきた

しかし今ではやっかい払いをしたような気持ちがあった、そう、3年前のクリスマスぐらいに家を出たのだ

こっそり親から金をくすねて、町の雰囲気に紛れてとにかく遠くに

今考えたら笑い事だと彼は考えていた

はぁ…いったいどうしてんだか…と彼は心の中で言う














…………

























「おーい…」

ベイリーフの声にマニューラはハッと我に返った

「へ?どうしたの?」
とぼけたように聞くマニューラ

「いきなり黙り込むもんだから…そっちこそどうしたのさ?」

「なんでもないよ」

「ふ〜ん なら良いんだけど…♪」
意地悪そうな笑みで彼を見つめるベイリーフ

見つめられた本人は少し焦ったように

「だから何でもないってば!!」
と怒鳴り散らす


「はいはい分かったからさぁ さっさとご飯食べちゃいなよぉ♪」
彼女はこれまでの事をあっさり流してしまいにっこりと彼に笑いかける

「……!」(腹立つなぁ…)

完全に言い負かされてしまったマニューラは赤面しながら少し冷めたスープを飲んだのだった………


<2013/01/26 23:26 ジイア>消しゴム
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