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孤高の雷帝 − 旧・小説投稿所A

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孤高の雷帝

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僕は逃げる気はなかった。
紫電は僕に逃げる気が無いことを悟っていた上でそう言ってきたのだ。
僕の・・いや呪人の必要性。
それだけが紫電と僕を繋いでいた。
「一体・・僕に何があるって言うんだ・・」
唐突に鼻を獣の匂いがつく。
僕は呪人であり、獣でもある。
人間の時は料理ができるが、今は今だ。
狩りをするしかない。
人間よりも格段に利く鼻を頼りに上体を降ろし、今だけは完全な狼に還る。
強靱な四肢を迅らせ、森を駆ける。
新緑の世界には目立ちすぎる純白の兎。
視界に捉えた瞬間に腹が鳴り、獣の本能が訪れる。
邪な表情を満面に浮かべ、四肢が覚醒する。
前方に大きく飛び出す寸前に咆哮を上げる。
その咆哮に気付く兎。
だが、すでに遅し。
逃げる準備もないままに牙は兎を捉えた。
「ワォォォッ!」
鮮血を口から滴らせ、再び咆哮を上げた。
人間ではなく、呪人・・狼として。
兎を貪る。
とにかく腹が減っていた。
己のために他者を殺しているのだ。
己が生きるためには他者を殺害するのは仕方ない事だ。
ある程度は肯定も理解もしている。
だが、それは“生”への犠牲で無駄ではない。
無駄で最も畏れているのは己の欲望でただ他者を殺すこと。
「ゥゥ・・グッ・・・・」
この“捕食”は生きるための犠牲。
ただの“欲望”による殺害ではない。
しかし、今のこの行為は最も己が畏れている“欲望”による殺害に近いのではないのか?
本能に虐げられた理性がそう感じていた。
己の命を延ばしたいが故の殺害。
「グルルルゥ・・」
柔らかい獣肉が喉を下り、腹を満たす。
ほんのり甘みを帯びた鮮血が喉の乾きを癒す。
人間であった僕は今、完全に獣に墜ちていた。
人間には戻らせない。
つまらない人間でいるよりも狼でいたほうが、遙かに開放的だ。
社会に縛られることもない。会わない奴は殺めてしまえばいい。
「アルザ・・?アルザなの?」
目前の光景が信じられないかのように女性の声が耳をつく。
懐かしい、どこかで聴き慣れた声ーー
それに振り向けば、人間。
兎よりも肉付きが良く、味も美味い。
さらなる食欲を発揮する本能は身体を行使させる。
感情の欠片もなく、ただ無慈悲に襲いかかった。
彼女が組み敷かれる。
血と唾液に溢れた口が開かれ、牙が顔を覗かせる。
「アルザ!」
牙をその細首に突き立てる前に理性が回帰する。
「ミリュイ・・なんでここに・・?」
彼女はミリュイ。
唯一あの村で僕に対して、偏見や軽蔑のない態度で接してくれた人間だ。
正直、嬉しかった。
紫電に村が襲われた時、生きている可能性は低いと判断していた。
ただ、紫電との関わりが切れていない今に出会ってしまったために素直には喜べなかった。
今すぐ、彼女と共に逃げ去りたい。
「ミリュイ・・今すぐに此処から去ってくれ・・」
「なんで・・?逢えたばかりなのに・・他の人はみんな亡くなったのに・・貴方と私しかもう生き残ってないのに・・?」
「ここは孤高の雷帝の庭だ・・貴方は殺されてしまうかもしれない。だから頼む。また、きっと逢いに行くから。」
彼女は最初、否定を続けたが次第に決心は揺らぎ、最終的には首を縦に振った。
僕をミリュイは優しく抱きしめ、微笑みを漏らすと僕の下から去っていく。
そして、獣の感覚を研ぎ澄まし紫電の気配を探る。
もし紫電がこの場にいたならば、この身を呈してでも止めるつもりだ。
しかし、幸いにして紫電の気配は感じ取れなかった。
小さく安堵の息を漏らし、身を翻す。


<2011/05/13 23:25 セイル>消しゴム
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