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ぼくのなつやすみ − 旧・小説投稿所A

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ぼくのなつやすみ
− 悪夢と悪魔 −
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「足から喰うのは主流じゃないが….フフ…」


バビロンは顎を限界まで開け広げ、署長の肩をグイグイと呑み
込んでいく。あと数秒もすれば泣き出しそうな署長の顔を見る
たび、心の中は悦楽に満たされるのだった。やはり恐怖におの
のく獲物の表情を拝みながら喰らっていくのも、なかなか趣味
に合う。


「….さて…続きは中だな」

「イッ…ぁあっ!!」


ひょろりと痩せた肩に、彼の竜らしい隆々とした手が置かれた。
そして胃袋へと通じている穴目がけて、ずぶずぶッと力押しで押
し込む。ついに署長の足の爪から髪の毛まで、外からは一切見え
なくなってしまった。

それと時を同じくして、ゴクッという定番の効果音が辺りを包む。
柔肉の極太チューブの中で、署長は産まれる前の赤ん坊のように嘆
いていた。


「あぶぁ…クサッ…!! 出してくれ、死ぬぅ!!!」

「これだから素人は困る。マスターなら余裕で夜を明かすというのに」

「ば、馬鹿な….それは奴の嗅覚が狂っt…」


まあ実際は狂っている訳だが。鼻炎という、この異臭空間を乗り越える
ための秘策を、署長は持っていなかった。生まれて初めて、至って健康な
自分の体が憎らしく見えてくる。

肉壁に手を着いて落ちていくのを止めようとしたが、効果ナシ。
バビロンに痛みを与えようと、壁を蹴り上げたが逆に揉み殺される。
悪臭に抗って呼吸を止めようとしたが、深く息を吸い込んだ瞬間にダウン。

そうこう暴れている間に、自分の脚が広い空間に突き出している
のを感じた。噴門という第二の関所を越えた直後、署長はなぜか
まっ逆さまに落下した。ぶよぶよと柔らかい肉の床に、ズムムッ
と顔が沈む。


「わっ、ブゥ、ぐへぇ!!」


落ちる、埋まる、抜けない。なんと三拍子が揃った。
署長は肩の辺りまでがしっかりと肉の谷間にハマってしまい、
まさに「頭隠して尻隠さず」の状態だった。何とか抜け出そう
と腰を全力で振っている様は、変わった国のダンスとしか思え
ない。


「ぬぅぅぅぅ…......ブハァゥ!!!」


窒息寸前でようやく抜け出せた。しかし頭を無理やり引っこ抜いた
ため、反動で反対側の胃壁にまで転げてしまう。どちら側にせよ、
凶暴な竜とは思えない程に、胃壁は「アレ」のように柔らかった。


「ぐっ…ち、畜生がぁ…!!」


不安定な肉布団の上で、何とかバランスを保とうとする。確かに床は
柔らかいが、トランポリンとはまた違う。重心を置いた脚はズプズプ
と沈没していくため、ジャンプなど何十年粘っても出来ないだろう。
まあ….そんなに居たら消化どころではないが。


「出られない….んぶッ…」


署長がいるのは、立ち上がる事すら許さない肉床の上。それを見定めた豊満な胃壁は、ぷにぷにした壁面で優しく揉んできた。


「んー…あぅ…えッ…ぁ…」


捏ねられるパン生地の気持ちを、身をもって痛感する。いや…逆に
パン生地に捏ねられているような気分だ。温かくて、柔らかくて…
....粘液で濡れていなければ、「気持ちいいです。もっとお願い」
などと呟いてしまいそうだ。



「だ、ダメだ….気をしっかり持たないと…!!」


今になってやっと、竜の体内に、胃袋にいるという実感が湧いてきた。
獲物の心をトロトロに消化しようとする愛撫を押し返し、署長はがむし
ゃらに立ち上がった。脚に全体力を注ぎ込み、ウォォォォッと狼の
ような雄叫びを上げて、立つ。



ぼむっ…ぬちぁ…

「あッ……」


すっかり忘れていた。肉厚な天井がすぐそこ、そう高くはないことに。
人間からすれば巨体に思える、この世界の竜族。しかしこのバビロンも、
レムリアも、自分が雇った財竜も、身長は三メートル程度だ。胃袋も、
リオレイアやクシャルダオラのように巨大ではない。

つまり署長は今、胃の中で倒れているというより、体操座りで押し込め
られている。そんな空間で立とうとするなど、元より物理的に無理だっ
たのだ。

「クソったれ……」



ネットリと粘ついた液体が、胃壁の表面を覆い尽くしている。いざ観察
してみると、ぬらっとした肉壁には自分の顔が鏡のように映っていた。



「……何が…何が被食フェチだ….この野郎…」


世界には被食フェチという異常者がいるという。竜の腹の中に収まっ
ている今では、そいつらが救いようのない馬鹿に思えてきた。ドラゴ
ンや蛇に喰われたい? 萌える?&#160;ふざけるな。こんな粘液まみれ、お
まけに悪臭が漂っている空間に来て、何が楽しいんだ。柔らかい壁に
揉みしだかれるのが趣味ならまだ理解できるが…..やはり分からない。



「…思い悩んでるだろ、お前」


突然、自分をこんな場所へ落とし入れた、あの憎らしい声が響き渡っ
てきた。あえて言えば、 武道館でアナウンスを聞いているような感じ
に近い。


「私はカウンセリングは専門外なんでねぇ…そういう事はレムリアに
教えて貰うんだな」

「か、彼女に…彼女に会わせてくれるのか…!!?」

「マスターが使ったローテーションメモリ、あれは私の設計だ。同じ部屋にいる者全員を巻きこんで、一人一人に個別な時間を与える。お前は今までに幽霊野郎、シャチ坊主、そして私との時間を過ごした。つまり…」

「レ…レムリアとの….時間もあるのか…!!?」

「フフ….今、あいつを呼び捨てにしたな? そういう単純明快で
さりげないミスが、世間では命取りになるんだなぁ…これが」


とんでもない失態に気づき、署長は慌てて両手を口で塞いだ。だが
科学万能の時代とはいえ、口から出た言葉はもう帰ってこない。
バビロンはさっそく「呼び捨て」に対する罰を与える始めた。



ヌチュ…ぷぅ….ぐちゃ…

「フフフ……綺麗なバラには棘があるというが…..レムリアの棘は、私だ」

「ああっぁ…や、やめて…ひaaaaaaaaaaaaaaaッ!!!!」




それから三十分近く、腐臭がプンプン放つ彼の胃壁から、署長は
阿鼻叫喚のキス責めに苛まれたらしい。あまりに悲惨、かつ壮絶
なため、あえて描写はしない。





<2011/09/23 22:12 ロンギヌス>消しゴム
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