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ぼくのなつやすみ − 旧・小説投稿所A

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ぼくのなつやすみ
− 危ない指名手配犯 −
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『ん〜? あ、ごっめ〜ん! これ去年の原稿だわ。今から取りに帰りまーす!』

「ふっざけんなよあのゴミムシ野郎ぉおおっ!!!!」

「マ、マスター声が大きい!! 気付かれちゃうでしょ!!?」


レムリアが喚き散らすロンギヌスの口を手で押さえ、自分
のふっくらした胸元へと抱き寄せた。姿は確認できないもの
の、肌に触れる湯たんぽのような彼女の温もりに、怒りは空
気の抜けた風船みたく縮んでいった。


「わぷっ…む….…っ…」

「これから冷静な判断が求められるのに…あなたがキレて
たんじゃ仕方ないでしょ? もっと心に余裕と優しさ、
持ってごらん…♪」

「ぅぅっ…よく冷静でいられんなお前も…」

「だってそもそも私は指名手配されてないもの。懸賞金
がかかるのは、貴方とカイオーガとバビロンだけのはずよ」


愛情たっぷりの叱責を受けて、ロンギヌスはようやく少し
キツめの抱擁から抜け出せた。解放される前にチュッと応
援を込めたキスを頬にされ、顔をやかんのように沸騰する
ロンギヌス。この時初めて、レムリアを連れてきて良かっ
たと実感した。


「あ、あれ〜…口にはしてくれないのかなぁ〜…」

「ふふ…それは彼氏限定….かな?」

「えっ、お前いるのか!!?」

「いいえ、いないわ。募集もしてないしね」


何だかレムリアが仲間として迎えた頃よりも、妙に色気付い
ているように思えた。「募集停止」の宣告を受けて気持ちが
スッキリしたのか、ロンギヌスは頬をパシパシと叩く(当然、
キスされた方は叩かない)。


「よしっ….ここからは別行動するぞ!! カイオーガは
もちろん俺と。ギラティナはラティオスと組んで、レム
リアとバビロンはそれぞれ単独行動だ」

「なぜ私とギラティナさんなんですか?」

「ん? 不満でも?」

「いいえ…」


ラティオスは明らかに不満のある顔を残して、ギラティナに
連れられて消えた。レムリアも「じゃあね」と呟くと、狭い
路地を飛び出していった。


「じゃあバビロン、俺らも分かれるとしようか…...ってもういないし」

「まあ警視庁に集まるってのは分かってるだろうしさ、僕らも早くいこう?」

「へいへい♪」


またテレパシーを食らわされちゃ敵わないので、会話が
しやすい胸ポケットにカイオーガを移動させる。そこか
ら顔をひょっこり出した彼の合図で、ロンギヌスは警視庁
目指して足を運んだ。



===============








「なあ聞いたか? 指名手配犯のドラゴンっぽい影を、空の
上で見たって奴がいるらしいぜ」

「またまた冗談いうなよ…手配犯がこの街に用がある訳ない
だろ?」



「….…なるほどな…」


高くそびえる電柱に背中をもたれさせるバビロン。隆々と
した腕を胸の前で組み、目の前を通りすぎる者たちの会話を
盗み聞きしていた。どうやら見かけによらず、彼も慎重に駒
を進めていくタイプらしい。


「とにかく必要なのは情報だな….警視庁に関わる人間…」


パトロール中の警察官を目を凝らして探すが、それらしき
人影は見当たらない。しかし五分程粘ったバビロンの眼は、
お巡りさんより、さらに上等なカモを捉えるのだった。



夏でもお構いなしのく黒スーツに、灰色のネクタイ。だがここ
までなら普通のサラリーマンと変わらない。
バビロンの目が
釘付けになっているもの・・・それは警視庁の高官だけが付け
るのを許された、胸に輝く桜の大門バッジだった。あれを付け
ているという事は・・警視庁の内部も熟知しているに違いない。
れろりと舌舐めずりをし、すりすりと両手をこすり合わせる。


「フフ….さぁて、久し振りの狩りといきますか…」

キチッ…『INVISIBLE(不可視)』


自分の姿が見えないのを確認すると、バビロンはそっと地を
蹴った。人混みに触れそうな超低空飛行で、コッソリその
男の上へと飛んでいく。銀縁メガネのその男は携帯で誰かと
連絡を取っている様子で、もちろんバビロンに気づく気配もない。


「(油断してると背後から刺されるんだぞ? おっさん)」


バビロンは両手を素早く脇の下に突っ込むと、大きく
はばたいて男を持ち上げた。



「う…うわっ!! な、なななんだこれは!!!」

「ねえおばあちゃん、あの男の人空飛んでるよ?」
「あらホント….不思議な時代ねぇ〜…」


道行く人々には見知らぬ男が浮いているようにしか見えない。
バビロンはさらに腕に力を込めると、男を上へ上へと運んでい
った。男は見えない敵を振り払おうとするあまり、汗ばんだ手
から携帯を落としてしまう。


「(ここで勘弁してやるか….)」


「尋問」の舞台は、高層ビルの屋上となった。男をところ
どころひび割れたコンクリートの上に放り投げ、満足顔
でニヤけるバビロン。キョロキョロと、狂ったように首を
振る男に顔を近づける。


「だ、誰だ….誰かいるのは分かっているぞ!!?」

「ほう…それは凄いな。指名手配犯もビックリするだろうよ」


メモリを肩から抜き取り、正体を露わにする。目の前に突如
姿を現したドラゴンに、男は女の子もせせら笑う大声を上げた。
しかし屋上には、彼ら以外に人っ子一人いない。



「こんな昼間に出勤なさるなんて….まったく羨ま
しい御身分ですな?」

「貴様ぁ、のこのこと…」


どうやら男もバビロンの正体を見破ったようだ。ポスター
の写真と目前に迫っている顔が、ぴったりと一致したのだ。
一番悔しいのは、そのポスターを作成したのが自分だというコト。


「わ、私になんの用だ!!!!」

「別に、愛の告白とかじゃないから安心しろ。幾つか質問
次項というか….聞きたいことがあるだけだ」


次の一瞬で、バビロンは風のように俊敏に動いた。立派な二の
腕を男の首に叩きつけ、たった二秒で地面へと組み伏せた。
まるで添い寝でもするような体勢だが、男は首を締め上げら
れている苦痛に二回目の絶叫をする。


「ぐっ…ぐええぇ…っ…!!!」

「フフ….痛いだろう?」


人工筋肉とはいえ、流石に竜ともなれば腕の力は凄まじい。
雌のレムリアでさえ、スチール缶を余裕で握りつぶせるのだ。
それが雄ともなれば、人間の首の骨など・・・たいしてオモ
チャと変わらない。


「お前を捻り殺して、『殺人者』になっても私は一向
に構わないんだが….」

「は、はひっ…! わ、分かった!! 何でも話す、何でも話すって…!!」

「よしよし…いい子だ…♪」










・・・十五分に及んだ尋問会は、男が最後の回答をすると共に
終わった。しかしバビロンは腕を外したものの、男を自由の
身にする気はさらさら無かった。両肩をがっちり押さえつけ、
にたぁっと不敵な笑顔を見せる。


「.…残念だが…このまま帰す訳にはいかないな?」

「な、なぜだ….ふむぅぷ…!!」


バビロンは電光石火の早業で、男の首だけ口内に押し込む。
ぶにぶにと柔らかい舌に真正面から撫ぜられ、男のメガネは傾いた。


「フフ…なぜかって? お前を不用意に解放したら、警察をそこら
一帯に配備するだろう? 私には仲間もいるんでね….それは困る」

「し、しなっ…っぶぅ…しないッ!! ち、誓うから助けt…!!」

「いいから黙って寝てろ」


横に寝転がったまま、ゲップを吐き出す要領で、胃の中
から悪臭を送り出すバビロン。男は何を言っているか聞き
取れないほどの悲鳴を上げて悶えるが、下半身以外はほと
んど拘束されているため、滑稽な抵抗のダンスにしか見えない。
そしてバビロンは加虐心に火がついたのか、レロレロと男の頭部
だけを念入りに舐め回す。臭いと気持ち悪さで男が泣こうがそん
なの関係ない。ただひたすら飴をしゃぶる子供のように夢中にな
って、唾液をこぼし続けた。



「・・・・くっ・・」


男の意識が途絶えて三十秒。バビロンはようやく唾液の糸
を引きながら、口を男の頭から外した。満足度100%のホク
ホクした笑顔で、ペロッと口元の涎を舐めとる。


「ああそうだ….マスターが私の腹の中でなぜ正気を保っ
ていられるか、教えてやろうか」


バビロンはヤンキー座りで、首から上だけふやけた男にクスクス
と笑いながら語りかける。返事や反応はゼロだったが、彼自身
は有力な情報をたっぷりと絞れたためか、自然に笑顔がこぼれて
いた。

バビロンは屋上の角の部分・・下を向けば身もすくむ
ような位置まで歩く。そして自分には戦場となる大都
会を前にして、ボソッと呟いた。




「ハハッ….お前も鼻炎だったらよかったのにな」




<2011/08/23 19:42 ロンギヌス>消しゴム
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