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神々の戯れ〜水神の苦手なもの〜 − 旧・小説投稿所A
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神々の戯れ〜水神の苦手なもの〜

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祠の前では三人の男がひたすら懇願していた。
一人は月夜兎たちの住まう山にある唯一の人間の集落の村長、もう一人が大地主、もう一人が消防団の団長であった。

「顔を上げてください」

その三人のいずれでもない声に三人は顔を上げる。
そこには真っ白な狩衣(モドキ)を身に纏う、白兎の人外の者がいた。

「月夜兎様!」

三人は再び頭を下げた。

「もういいですよ。それよりも、何か用があって私を訪ねてきたのでしょう?」

「月夜兎様は何もかもお見通しなのですね。実はその通り、月夜兎様にお願いがあって参ったのです」

村長はそこで一旦言葉を区切ると、一呼吸を置いてから話を再開した。

「実はつい一ヶ月ほど前、おかしな連中がこの山にやってきたのです」

「おかしな連中?」

「はい、まあ一言で言うとカルト教団というやつでしょうな」

「申し訳ありません。初耳ですね、それは」

月夜兎は一応これでも土地神であるということを自負しており、自分のテリトリーに怪しい連中が来ていることを気付かなかった自分の浅はかさを恥じる。

「無理もありません。連中が陣取っているのは、ここから私たちの村を挟んで反対側なのですから」

「えっ?でもあそこは森ですよね?」

「はい。あそこは私の土地ですから。ところが奴らは勝手に森を切り開いて建物を建ててしまったのです」

そこに大地主の男が口を挟んできた。

「そこで私は抗議しに行ったのですが、そこで信じられないものを見たのです」

「信じられないもの?」

「抗議しに行ったらまず変なTシャツを着た男に応接室とかいう部屋に案内されたんです。薄暗くて不気味な部屋でしたよ。まあ、その後に起きたことに比べたら些事なんですけどね。その男は副所長を名乗っていたんですが、所長に会わせてやると出て行きました。しばらくして所長がやってきたんですが、こいつが本当に話の通じない男でして。意味不明なことばかりをわめく、言い方は悪いですがキチガイでした。こりゃ話にならないと、私は帰ろうとしたんです。その時でした。副所長が『所長の力を見ればお前の考え方も変わるだろう』などど抜かしおったのです。何を言っているんだコイツは、と思いつつ所長のほうを見ましたよ。そしたら、所長が宙に浮いていたのです!」

すると今度は消防団の団長が口を開いた。

「話を聞いた私は消防団の数名と県警から来たという刑事さん一名でその建物に向かったんですが、我々も宙に浮くのを見ました」

「他にもどこからともなく変な音が聞こえてきたり、幽霊を見たという人間が出る始末。月夜兎様、どうかそのお力で何とかしていただけないでしょうか」

村長たちは再び頭を深々と下げた。

「分かりました。必ず何とかするので、しばしお待ちください」

「ありがとうございます、月夜兎様!」

村長たちが頭を上げたとき、すでに月夜兎の姿はなかった。
ついでに言うと貢物のニンジンもばっちりと消えていた。



<2011/09/04 23:37 とんこつ>消しゴム
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