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【保】Deep Inferno − 旧・小説投稿所A

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【保】Deep Inferno

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・・・ブラックアウトしていく意識の中、突然声が聞こえる。



「ふぅっ・・・コイツだけで十分腹が膨れるとは・・・それにしても、美味かったぜぇ・・・なぁ、俺の腹の中はどうだ?」



腹の中。・・・つまり、自分が居る場所は、口から喉へ、そして胃の中へと・・・



『!!!・・・・・・・』



その言葉に反応して思考回路が巡り出し、気付いた瞬間、絶句する。・・・まさか、そんな。食べられる、なんて考えてもいなかった。



「そうかそうか、言葉も出ない程気持ちいいんだな・・・なら、其処でゆっくりしていくといい・・・栄養となるまで、なぁ!」



その言葉を聞いて、突然身体の中が熱くなるように感じた。・・・生への執念か、その空間の壁を叩きながら叫ぶ。



『お願い・・・出して!ねぇ、お願い!』



どこから声が出ているのか分からない。だが、今こうやって動く気力と叫ぶ体力が戻っているのは確かだ。生きたい。それだけの為にこの強大な捕食者に懇願する。



「・・・まだそんな体力が残っていたか、まあいい・・・こうやっていたほうが、まだ楽しませてくれるってもんだ・・・!」



クハハ、と笑ってお腹を撫でる。







・・・時折、不自然な出っ張りが出来るが瞬時に戻り、それが何十回、何百回と繰り返された頃であろう。

体内に流れていた熱い何かも消え去り、先程と同じ、いや、それ以上の倦怠感と疲労感、ダメージも半端ではないのだろう。・・・顔すら動かせずに、そのまま胃の壁へと倒れこむ。



「もう動かなくなったのか・・・詰まんねぇなぁ・・・ま、今はコイツだけで十分だろ!」



自分に諭すように言い聞かせ、グラードンはそのまま地面へと潜る。・・・胃の中へも衝撃は来たが、柔らかな肉壁が胃の中を飛び回るブイゼルの身体を受け止め、ダメージを受けさせずにいた。

・・・それから衝撃が収まると、ブイゼルはうつ伏せの体位で胃壁に倒れていた。

世界が回る、そんな感覚を味合わされて更に疲労していた。・・・動くどころか、その脈動に身体を弄ばれながら、背中に何か液体が垂れてくるのが分かった。

唾液でもない、何かドロドロとした液体が背中を流れ、そのまま底(であろう、重力に従って落下していった場所)に溜まる。・・・背中からはピリピリとした痛みが広がっていくのが感覚として分かった。

・・・そしてまた一滴。また一滴。と終わることの無いその液体は彼の身体を着々と蝕んでいく。・・・そのピリピリとした痛みは絶える事無く続き、見える限りでは底に溜まって、あと少しで自分のお腹に到達しそうだと思い始めた、その時だった。

ふと、自分の手を見る。・・・視界に入ったその手は、毛が液体状になって張り付いていて、毛皮と呼べるモノでは無くなっていると一瞬で判断できたのと同時に、この液体が何なのかを理解してしまった。



『・・・・・・・・・ぃゃぁ・・・・』



弱々しく、消えてしまいそうな声。・・・そう、これは消化液。・・・胃の中に入った食べ物を溶かし、栄養として吸収しやすくする為に出てくる液体である。

拒否反応を起こした。いや、声だけで身体は動いていない。・・・何も出来ぬまま、この空間の中で消化されて栄養になってしまうのだと考えただけで身震いがする。

しかし、燃え尽きてしまったようなその身体に逃げ出す力など無い。・・・絶望的だった。



『はぅ・・・・・・・・ぃ・・・・・・・ゃぁ・・・・』



言葉を述べながら、時折命乞いの声も出す。が、グラードンにそれは届いていない様子で、消化は更に進んでいった。・・・彼の意識が無くなった後も、それは続く。







あれから何時間が経ったのだろうか。

胃の中にはブイゼルの姿はなく、グラードンは眠りについている。



宝を盗み出した、その代償として生贄となったブイゼル。グラードンにとっては久々の獲物であり、そして飢えを満たすだけの食物であったことだけは確かだ。

彼ら、ウォーターズが滞在する街でブイゼルが居なくなった事に、宝を盗んだ二人は声を合わせて

「両親の元へと帰らせた、もう彼はココへは来ないだろう。」

と、言うばかりであった。・・・そして、その話をした後には二人の口元が微かに歪むのを、その街の住人は知る由も無かった。


<2011/05/23 22:40 醒龍>消しゴム
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