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Discard〜切り捨てる〜 − 旧・小説投稿所A

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Discard〜切り捨てる〜
− 少しグロあり! −
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どんなに鋭く研ぎ澄まされたナイフでも、錬成された鉄の鎧には適わない。
そんな鎧も、巨大な鉄球にかかればいとも簡単に粉々にされる。

目の前のものが一見最強のように思えても、必ずそのまた上が存在するのだ。

彼は今、それを痛感している。
何て自分は愚かだったのだろう、と。

一刻の猶予も許されない。彼がするべきことはただ一つ。

“この場から逃げ去る”

威厳、誇り。そんなことなどもうどうでもいい。
生きて帰りたい。ただそれだけだった。

息を切らして、苦しくて、走りたくなくて、でも死にたくなくて……。
様々な感情が、胸の奥底から溢れて流れていく。

自分の息を荒げる音以外何も聞こえない。
ただひたすらに足を忙しなく動かす。

ようやく見えてきた一筋の光。

やった、俺は助かった。

無意識の内にその光へ手を伸ばす。
その手が光を掴むよりも先に、そいつは彼を掴んだ。

「――っ! うわっ!」

内蔵がその場に置き去りにされたかのような気持ち悪さを味わいながら、彼は一気に地獄へと引き戻された。

勢いよく地面に頭をぶつけて視界が揺らぐ。
ぼやけた視界の中で、巨大な黄色い目玉だけがやけにはっきりと見えた。

『グルルルッ……』

「ひ、ひぃゃ――」

刹那、鋭く尖った牙が彼の体を貫いた。
まるでトマトを勢いよく潰したかのように、おびただしい量の赤い液体が吹き出す。

一瞬、彼はびくんと反応したが、すぐに力なくその場に垂れた。

暗い洞窟の中で、怪物が獲物を咀嚼する音だけが鳴り響いていた。


<2013/02/05 21:45 VIP>消しゴム
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