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草の根かきわけてV − 旧・小説投稿所A
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草の根かきわけてV
− 動き出した運命 −
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※若干の捕食描写があります







 数日間降り続けた雨はようやく止んだ。冬も近いし、早いとこ溜めこんでおかないといけないな。

 集めた果実をひょいっと背中に乗せる。ぽろりと落ちたリンゴは口に咥えた。



 「早いとこ帰らないと不味いな」



 いつの間にか、日も傾いてきている。最近、この辺りにもオオカミが現れ始めた。これまでは森の奥の方にいかない限りは安全だったけど、今はそうはいかない。

 あーんなに恐ろしい思いはもうしたくないけどな。この間の満月の日の事だ。まさか住みかに直接攻めてくるとは思わなかった。オオカミに対しての知識があった俺はたやすく逃げられたけど、そうでなきゃ今頃ここには居なかったかも知れないね。

 他の動物の間では、血の満月だの面白おかしく噂されているらしい。迷惑な話だぜ。



 「はぁ・・・・・」



 俺は深くためいきをついた。どんどんと仲間が減って行く。さらにちょっと前に裏裏山ではぐれた親友だったルンバも、もうニ度と会えないだろうな。俺が守るつもりだったのに、結局見捨ててきちまったよ。自分に幻滅だ。

 「ビンバ、てめえそんな奴だったんだな」

 今にもあいつの非難する声が聞こえてきそうだ。



 「アオーーーーーーーーーーン!」



 その声に、背筋が凍りつく。いいや、まだ大丈夫なはずだよ。声は遠い。さあ、早く群れのみんなのところへ。

 あっ、あそこに見える影は群れの誰かかな。誰かがこちらへ駆けてくる。

 良かった。これで一安し・・・・・・・!?



 「グガアァァァァァァァァァァァァァ!!」

 「ひえええええええええええええええ!!」



 噂をすれば影かよう。逃げろ俺、逃げるしかないぞ。

 俺は自慢の快足をかっとばして、相手を巻きやすい岩場へ向かった。鼓動がどんどん速まっていく。捕まったら一巻の終わりだ。





 しばらく走って、俺はちらりと後ろを振り返る。

 鍛えていてよかった。相手もずいぶんと遠くへ・・・・・行ってないやぁ。

 「やばいっ・・・・・」

 なんて脚の速いオオカミなんだ。俺についてこられる動物なんて、今までいなかったのに。こうなったら持久戦に持ち込むしか。

 「ガルウッ!」

 「うわあっ!」

 いつの間にかすぐ後ろに。このままじゃ追いつかれる! 岩場までもうちょっとなんだ。何とかそこまで持ちこたえなきゃ。



 その時、右前方に崖が見えた。あそこしかない!

 オオカミの爪が俺を捉えそうになったその瞬間、一気に大地を蹴った。

 空気を切っていく感覚が冷たい。どうやら魔の手からは逃れられたみたいだね。下を見下ろすと、ずいぶんと遠いところに地面がある。痛いじゃすまないだろうなきっと。

 次に目を覚ますことができるのを信じて、俺はゆっくりと目を閉じた。







 ぐうーと間抜けな音を出して腹が鳴る。洞穴の中で伏せていた俺はため息をついた。

 「全然足りねえ」

 この間までは鼠や鳥で充分だったのに、最近は足りなくなってきた。もう冬が近いからか。

 「くー、こういう時オオカミは不便なんだ」

 俺がまだオオカミの姿に変わる前、鹿の姿だった頃はそこらに餌は生えていた。だけど、今は逃げていく餌だ。しかも、余計に量が必要だから質が悪い。

 「ああー大きな獲物が喰いてえよ。あの肉に齧りつきてえよ」

 ルウに頼めば少しは恵んで貰えるだろうけどよ、情けねえもんな。あいつには最初っから最後まで世話になりっ放しだしよ。これ以上の借りはこの俺、ルンバ様のプライドが許さねえ。



 俺は最後の鼠を口の中に放りこむ。号泣しながらきーきーわめくけど、特に可哀想だとは思わなかった。そのまま口の中でころころと舐めまわして味を楽しむ。

 美味いんだが、腹もちが悪いのが欠点だよな。俺は何も考えずにごくりと鼠を飲み込む。

 胃袋の中でばたばたと蠢くが、すぐに収まるだろうよ。ドロドロに溶けて動かす体が無くなっちまうんだからよ。そうすりゃもう俺のための栄養だ。



 だんだんと適当になってきた弔いを終えて、俺は立ち上がる。

 「よし、行くか!」

 ここでじっとしていても獲物は手に入らねえ。今日は一発どでかい狩りをしてやるぜ!

 俺は意気揚々と巣穴から飛び出した。





久々にビンバ君登場
<2013/02/21 14:40 ぶちマーブル模様>
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