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【保】淀みに潜みし者
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最近は何故か何時もこの時間に目が覚める。
そのこと自体が可笑しそうに水蓮は頬を歪め、泥の中でゆっくりと鎌首を擡げた。
自分でも気分が高揚していくのが分かる。
泥水から伝わってくる地上からの振動をヒレが敏感に感じ取っていた。
「さて、今日はどのようにしてやろうかのう……くくっ」
明らかに悪巧みを含んだ笑い声が、ブクブクと沼の水面を泡立たせる。
その泡が消えると、水蓮はゆっくりと行動を開始する。
沼の桟橋に忍び寄ると水面ギリギリに身を伏せた。
後はじっと待つだけ。水面を揺らさないように身動きせず、水音すらさせずに機を待つ。
暫くすると……
”ギシッ…………ギィッ……ゴトッ”
水音を伝い桟橋の方から音が響いてきた。
だが、まだダメだと水蓮は逸る気持ちを静め待ち続ける。
”……………”
足音がしなくなり、桟橋が軋まなくなった。
待っていた機はここ!
ゆっくりと水蓮は沼の中から顔を覗かせ、一切の物音をたたせずに高く鎌首を擡げていく。
哀れな獲物は数センチの距離で、顔をつきあわせても気が付きもしない
「……くくくッ」
「へっ?」
タイミングは完璧、思わず失笑を洩らした水蓮の笑い声が態とらしく響くと、
獲物は顔を上げ……硬直!
「また妾に会いに来てくれたのかえ?」
”ペロペロ”
固まった獲物の顔を先の割れた舌で舐め、水蓮がにんまりと笑みを浮かべる。
途端に止まった時が解放された。
「うわぁああ!!」
今日もからかわれた獲物の青年が、絶叫をあげ尻餅をつく。
その時の何とも言えない表情を見るのが最近の水蓮の楽しみであった。
「くくく、相変わらず可愛い奴……ゲフッ!」
してやったりと笑みを浮かべた水蓮を黙らせたのは青年の前蹴り!
座った状態から蹴り上げた一撃は、柔らかな顎の下側を打ち抜き水蓮の口を強引に閉ざさせる。
不安定な体勢からの一撃は、さほど水蓮にダメージを与えてはいなかったが、
青年に蹴られたという事実の衝撃の方が大きく、ひるみを……大きな隙を青年に与えてしまう。
その間に無言で立ち上がった青年は、 怯んでいる水蓮の鼻先目掛け……
”ゲシッ!”
再度、見事な前蹴りを放った!
十分に体重をのせた蹴りは、吸い込まれるように目標に命中し鈍い音をたてる。
さすがに今度は堪えたようで、水蓮の頭は後ろに弾き飛び……
痛みを堪える水蓮の呻き声が漏れた。
「ぐっ……ふぅ……」
「ふん!」
それを耳にしつつも、怒りを顕わにした青年は声をかけることはない。
鼻先を蹴り飛ばした足を無言で下ろしていった。
それとほぼ同時に顔を戻してきた水蓮が、涙目で文句を言い放つ。
「け、蹴ることは無かろう!」
「いい加減人をからかうのは止めろよ、心臓に悪いから!」
牙を剥き出しにする水蓮に負けじと、青年も叫び返す。
本来は勝負にならない争い。
これは蟻と象との戦いであり、二人の体格にはそれだけの差がある。
それなのに青年は一歩も引かず踏みとどまり、間近まで顔を付き合わせ睨み合う。
この気迫に水蓮が僅かに怯んだ。
以前なら直ぐに怯え震えだしていたはずの青年に気圧されて……
(な、何じゃ今日はやたらと気合いが入っておるぞ?)
明らかに水蓮は動揺していた。
本来なら今頃、狼狽える青年を更にからかうことに始終しているはずなのに。
……そのはずだったのに。
(まさか妾の方が追いつめられるとは……)
詰め寄る青年に押されるように、水蓮は後ずさり顔を仰け反らせていく。
心の中で水蓮は己の負けを悟った。
青年との間に尻尾を差し入
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