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【保】淀みに潜みし者
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れて距離を取り、負けを口にする。
「こ、これ……妾が悪かった。そんなに寄るでない」
「よしっ! 初勝利だ!」
負けを認めた水蓮の声を聞き、嬉しそうに青年が笑顔を浮かべる。
付き合わせていた顔が離れて水蓮はホッと一息を付いた。
横目に青年に目をやると、見ている方が気恥ずかしくなるほどの喜びよう。
(くくっ……これはこれで可愛いのう)
”クスッ”
思わず溢れた笑い声が、思ったより大きく沼地に響き渡った。
※ ※ ※
『何か最近の沼の様子が変な気がするんだ』
ひとしきり笑い合った後、最初に話を切り出したのは青年の方だった。
『どういう事じゃ?』と、水蓮が問いかけるより先に舟に飛び乗る。
櫂を手に取ると舟をこぎ始めた。
遠ざかる青年の横顔を横目に見た水蓮は眼を細める。
「……思い詰めた顔をしおって、何を考えておる?」
渋しげに表情を変え水蓮はそのあとを追った。
横に並び青年を覗き込もうと顔を寄せ、制止を促そうとするが、
またしても、それを言葉にすることが出来ずに終わる。
”さわっ”
不意に青年の手の平が顔に触れてきて、体が硬直してしまったからだ。
奇しくも先ほど青年に蹴られたばかりで赤くなっている鼻先だが、
暖かな手の平で撫でられていると、その気恥ずかしさに水蓮は本当に赤くなりそうになってしまう。
……かといって振り払うことが水蓮には出来ない。
青年の手の温かさは、心を鷲掴みにされるほど心地よいものだったから。
それでも鼻先を撫でられるのは、さすがにこそばゆい。
しかし、振り払うのも名残惜しいとなれば……
「なっ……い、、、いきなりどういう風の吹き回しじゃ!?」
出来ることと言えば、精々こうして声を張り上げるぐらいだ。
それでも青年は撫でることを止めない。
手の平から伝わる体温に鼻先を温められる水蓮は心底狼狽え、醜態をさらす。
「う、うむ……ええい! いい加減にせんか!」
気分が高揚し頬が赤らんだ顔で青年を睨みつけ、
意を決して――名残惜しかったが――心のもやもやを振り払うように青年の手を振り払う。
軽く頭を振るだけで青年の手は振り払われた。
鼻先に残る暖かさに半ば意識をさかれつつも、水蓮はようやく本題に入る。
「何をするかと思えば……妾をからかいたいわけでもあるまい?
そなたは、いったい何を考えておる?」
「だから、変なんだよ」
「妾には分からぬ、何が変だというのだ?」
再度問いかけると青年の手がまた水蓮の顔に伸びる。
二度目とあって、水蓮は同じような醜態をさらすことなくその手の動きを目で追う。
「妾の顔に……泥? これがどうしたというのじゃ?
長年この沼に住んでおる妾なら、泥ぐらい少しはこびり付いて当然……」
「ちょっと前の水蓮なら、こんなに泥がこびり付いたりしてなかったよ」
「…………」
「やっぱりそうなんだね」
言葉を遮り、青年が水蓮の目を見つめる。
水蓮は何も答えられない。
それは青年の言葉が真実であり、彼女には否定できなかったからだ。
無言の肯定に青年は自分の考えに確信を持つ。
「こうして舟を漕いでいて分かるんだ。
沼の様子が一月前より、変になっているって……もしかして俺のせい?」
「……何でそう思うのじゃ?」
「だって、俺が水蓮と会うようになってから……
正確に言うと毎日この沼を訪れるようになってからだよ?」
※ ※ ※
彼が気が付いた沼地の異変は、沼の泥水から始まっていた。
舟を進めるために櫂
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