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【保】淀みに潜みし者
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くことが出来れば思い残すことは何もない。
青年の見ている前で、水蓮は感謝と共に静かに消え去るだろう。
少なくとも一人だけ、自分のような不甲斐ない神がいたと知って貰えたのだから、
神としてこれ以上の幸せはない。
最後にこの世界に自分が生きた確かな証を残すことが出来たのだ。
しかし、やはりそれは望めそうにもない。
水蓮の命は今日尽き果てるのだから………………
「……これ以上を望むのは欲張りすぎかのう。
どうせ残り数時間ほどの命じゃ、ゆるりと昼寝をしてあの夢の続きを楽しむとしよう」
ついに逃避に身を委ね、かりそめの幸せを水蓮は選択してしまう。
あの夢の中なら少なくとも孤独を感じることはないと、
まいていたとぐろの上に頭を置き……ゆっくりと目を閉じる。
”ギシッ…………ギィッ……ゴトッ”
「……ん?」
今まさに眠りに落ちようとしていた水蓮の元に、足音の振動が伝わってくる。
彼女がその足音の主を間違えるはずがない。
一瞬にして頭が覚醒を果たす。
「まさか……?」
待ちわびた青年の訪れに、水蓮は驚きを隠せず声を漏らした。
声とは裏腹に表情には気力が満ち、体に力が戻ってくる。
病は気からと言う人間の言葉を思い出しつつも、水蓮は音のする方へ急いだ。
死んだ沼の泥水は非常に重く、進むのにかなり難儀するが、
今の水蓮にはさほどの障害にもならない。
力づくで泥をはね除け、水面へと浮上する。
そして、水蓮は青年との再開を果たした。
……が、
「そ、、そなたのその有様はどうした事じゃ?!」
「水蓮……良かった、まだ生きててくれたんだね」
青年の体が崩れ落ちる。それを支えるため慌てて水蓮が体を絡めた。
「どうしたのじゃ、このように傷だらけになりおって……?」
「…………っ」
問いかけに青年は答えず、歯を食いしばるような音をたて俯いてしまう。
……かと思えば、涙ぐむ顔を上げ水蓮を見つめた。
何があったのかは水蓮には分からない。
それでも、青年に辛いことがあった事だけは理解できた。
「そんな情けない顔をしおってからに、どうしても言えぬ事なら言わずとも……」
「……みんな……信じてくれないんだ……」
頑なに口を閉ざしていた漁師が、水蓮の言葉に促されたかのように口を開いた。
ボソボソと水蓮の耳元で何かを告げる。
時間が経つにつれ、水蓮の表情が強張っていく。
その後、全てを聞きとどけた水蓮がまずしたこと、それは……
「戯け者!! む、、村を追い出されたじゃと!」
「……うん」
一喝する水蓮の声に青年が頷く。
青年が村を追い出された理由、それは水蓮を生かそうとした努力の結果だった。
※ ※ ※
水蓮の死という運命を認めきれなかった青年は、また昔のように人々に自然の恵みに
対する感謝が戻れば水蓮が力を取り戻すと考えたのである。
そのために青年は寝る間を惜しんで、水蓮から得た知識を使い神に対する信仰を村人達に説いたのだ。
だが、そんな青年の必死さが村人達には不気味に写った。
村で唯一の祠守ではあったが、そもそも祠など要らないという村人が大半を占め、
そんなもの達に信仰心などがあるわけもない。
そんな彼らにとって、新たに信仰を説こうとする青年は邪魔者以外の何者でもなかった。
これ幸いと青年は異端者として村をたたき出されたのである。
その時に祠も打ち壊され、青年の負った傷は祠を守ろうとしたときに受けた傷だった。
※ ※ ※
それは思いもよらなかったこと。
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