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【保】淀みに潜みし者
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出会って僅かな愛柄だというのに、
もうすぐ消えてしまう自分のために此処までのことをしてくれた……それが嬉しい。
一度は青年を叱咤した水蓮だが、目に涙が溢れそうになっていた。
その涙を傷だらけの手がすくい取る。
「……水蓮……俺……あんたのことを救えないのかな?」
救いたいと願い行動し、それが無駄に終わってしまった。
自分には何も出来なかったと、絶望の表情を浮かべながら……それでも救いたい。
諦めず伸ばされた顔に触れる手の温かさは幻惑などではない。
水蓮は唸るように声を漏らしてし、本物の手の温かさに心を揺り動かされる。
「馬鹿者め……」
もっと生きてみたい、この人間と共にもっと長く。
生を諦めていた水蓮が、未来を渇望させるほど強く心を揺さぶられた。
しかし、どれだけ望んでも水蓮の命はあと僅か、すでに手遅れなのだ。
例え青年が水蓮に生きて欲しいと祈りを捧げても意味がない。
どれだけ信仰が厚くても一人の人間の祈りの力は微々たる物だから。
水蓮は忌々しげに顔を歪め、目前に迫った己の死が初めて苦しいと、怖いと思った。
それでも死はすでに不可避の事実……
諦めさせようと水蓮が口を開こうとしたとき、青年がうわごとのように何かを呟いた。
「……そうだ……俺が…………れば」
「な、、、に……そなた今何と申した?!」
青年が呟いた声は掠れ消え入るほど小さいモノだった。
だが、断片的に聞き取れた『ある言葉』は決して聞き逃せない。
水蓮の表情が一転して険しくなり、怒りの色を帯びていく。
「えっ……だから…………」
「生け贄……先ほどそう申したな、この度し難い戯け者が!!!!」
「えっ……え……だって、それしかもう手段が無いじゃないか」
「まだ戯れ言をほざくか!」
怒りに頭が灼熱し、水蓮は知らず知らずの内に強く青年を締め上げる。
それだけで青年は呼吸が出来なくなり、頭に靄がかかったように意識が朦朧とし始めた。
抗う暇もない、身動き一つする前に青年は締め落とさ……
”……ズルッ”
意識が闇に呑み込まれる寸前で締め付けが緩む。
急に訪れた開放感が逆に吐き気を催すほど気持ち悪く感じたが、青年は必死に空気を貪った。
「うはぁ……はぁ……はぁっ……」
荒々しい呼吸を繰り返し、少しずつ呼吸を整え青年は批難めいた視線を水蓮に向けた。
「……う……うぅ……す、水蓮……酷いよ」
「それだけそなたが戯けたことを申したからじゃ!
そもそも、そのような知識をどこで……『人身御供』など妾は教えた覚えはないぞ?」
怒りにまかせ大切な者を絞め殺してしまいそうになり、
一瞬にして熱した頭が冷えた水蓮だが、怒りはまだ心に蟠っている。
ちょっとした拍子でそれはまた表に出てしまうだろう。
それなのに青年はどうして此処まで水蓮が怒り狂うのか理解できていなかった。
ただただ狼狽え、促されるままに、青年は自分が知っている御伽話の一つを水蓮に話す。
それは『進退に困り果てた村が神に助けの奇跡を請う』という話だった。
神が奇跡の代償として、村人の一人に身を捧げろと要求され、
言われたとおり、その者が神の住む場所に赴くと、村では奇跡が起こり救われる。
どこにでもありそうな御伽話だ。
生け贄の悲劇と神の力のすばらしさを歌う物語。
この御伽話を思い出した青年は、この話も実話ではないのかと考えたのだ。
現に彼は本当に神が存在した御伽話を知っている。
ならば、他に真実を語ったお伽噺があるのではないのか?
その中に水蓮を救う方法が隠されているのでないのか?
そして
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