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【保】月の見える夜
01
どこかにある辺境の森。
とりわけ珍しい特徴があるわけでもなく、この辺一体の樹木はみな大きくもないが、
森自体の大きさは決して狭いわけでもない。
そんな感じの……それこそどこにでもあるようなごく普通の森だ。
季節は春を迎えて、森の中では陽気が漂い……
色取り取りの春に実をつける木の実が、まだ熟し切れていないものも含めて木々の枝を重くしならせている。
それら木の実に多くの生き物たちが群がっていた。
皆が思い思いに好きな木の実を囓り、溢れる果汁がこぼれ落ちている。
だからみんな気が付かない。
甘い木の実の香りに紛れて、漂う危険な香りに……
”ガサガサ”
今一匹の生き物が夢中で木の実を食べている。
そんな彼に向かって忍び寄るのは、腹を空かせた肉食の生き物が一匹……
木の実に夢中な獲物に彼等は忍び寄り、襲い掛かる。
「……………っっ!!!」
森の中で、悲痛な悲鳴が木霊した。
※ ※ ※
「ピカ?」
その悲鳴を聞き一匹の小さな生き物が足を止める。
特徴的な鳴き声と、尻尾……『ピカチュウ』と呼ばれる電気ネズミ。
愛くるしい外見とは裏腹に意外と危険なポケモンとしても知られている生き物で、
丸く真っ赤なホッペに電気を蓄え、それを狙った獲物や敵に向けて放ち、相手を感電させる力を持っている。
この森の中では特にピカチュウ達が多く生息しており、彼はその中の一匹だ。
そして、先ほど響いた悲鳴も同じ……
「……チュウ」
ピカチュウは暫く棒立ちで、仲間の悲鳴が聞こえていた方を見つめていたが、
生憎と何時までも気にしている暇はない。
一度前を向くと、彼が再び後ろを向くことはなかった。
今はかくれんぼの最中で、仲間内で良くやる遊びの一つなのだが。
遊びとはいえ、当人達は真剣そのもの……というのも、これは捕食者達から身を隠す訓練も兼ねていて、
当然負けたら罰ゲームがある。
それは何かのお手伝いだったり、勇気試しだったり、なけなしの木の実を渡すことになったり。
だから隠れる方も見つける方も必死だ。
それに素早く身を隠すのに最適な場所を探し出すのは、意外と骨が折れるものだ。
本当なら立ち止まっている暇もない筈なのだけど、
悲鳴に気を取られて足が止まったピカチュウは他の皆より少し行動が遅れてしまった。
もうすぐ鬼が動き出す時間だ……それまでに身を隠しておきたい。
そう考え走るピカチュウの首には何かが揺れている。
……緑に光る石。石英だろうか?
それに草の蔓を巻き付けて、即席のペンダントにして身に付けていた。
日の光を受け、キラリと光る石は……意外なほど彼にお似合いのアクセサリーだ。
『緑の石は幸運を呼ぶ』そんな噂を何処かで聞いたことのあった彼は、このペンダントをいたく気に入っていた。
実際にどうだったのかといえば……
かくれんぼは連戦連敗と散々な結果だったりする。
それでも彼は今もペンダントを手放そうとはしなかった。
効果はなくても験担ぎ(げんかつぎ)として、この綺麗な石は彼の宝物だったから……
”ガサガサ”
「ピカァ?」
鬼が動き出す時間ギリギリに運良く見つけた手頃の茂み。
ピカチュウは『先客は居ないよね?』と声をかけると茂みの中に入り込む。
少し葉がチクチクして居心地は決して良くはなかったけど、尻尾の先までスッポリと隠れられた。
今回はここを隠れ場所として、彼は身を潜める。
※ ※ ※
……あれから三十分が過ぎ去った。
その間に鬼
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