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【保】ニューラの約束……そして、課せられた罰
01
もしも、貴方がこう聞かれたら何と答えるだろうか?
真っ暗な場所、生暖かく湿った空気、踏みしめれば柔らかく沈み込む地面。
そして、周囲の壁が生々しく蠢いている場所。
さぁ、どう答えるだろうか?
少なくとも、彼女は……ニューラはこう答えるだろう。
―― 口の中だと ――
「……いやぁ……もう、いったい何で私が……」
誰かの口の中、ニューラの悲痛な声が響く。
『何で自分がこんな所にいなければならないのか?』そればかりが彼女の頭の中を駆けめぐていた。
ヌルヌルとする肉の壁……恐らく頬の肉壁であろう強靱なそれは、
必死に逃げ出そうと足掻く彼女の手足をたやすく跳ね返す。
ならばと閉ざされている牙の隙間に手を差し込み、
こじ開けようとするが、当然のようにビクともしなかった。
頑丈な肉の檻……そんな言葉が彼女の脳裏に浮かぶ。
暴れ続けたせいで手は痺れ、激しい息苦しさを感じるほど疲れ果てた身体。
ニューラは自分の非力さに悔しそうに表情を歪め、ゆっくりと肉の壁にもたれ掛かった。
それにあわせ頬の肉が僅かに撓み彼女の身体を優しく受け止める。
その感触がニューラの言いようのない不安を煽り、彼女は居心地が悪そうに身を捩るが、
次第に諦めたようにそれに身を任せていった。
「はぁ、はぁ……此奴……絶対に私を出さない気でいるみたい……」
疲れた身体を休めながら手で顔を拭おうとして、気がつき手を止める。
顔はもとより、すでにニューラの全身は唾液まみれなのだ。
「……一体どうしてこんな事に……?」
ベタ付く自分の身体を惨めに感じながら、手に付いた唾液を振り払うと、
ニューラは少しずつ記憶の過去に遡っていく。
(そう、私はあの時湖へ遊びに……)
※ ※ ※
「今日も良い天気ね……この湖も凄く綺麗……」
とある湖の畔でニューラは目の前に広がる風景に見とれていた。
吹き付ける風で緩やかに揺れる水面、鏡のように周囲の風景を映し出すさまは、
それに足りるものであった。
時間が立つのも忘れるほど風景に夢中になるニューラだが、不意にハッと気が付く。
「あっいけない! 今日は友達の所に遊びに行く約束が!」
慌てて駆け出すニューラ。
その慌てようが周囲の風景と一緒に水面に映し出されている。
それにもう一つ……水面は彼女以外の生き物をも映し出していた。
慌て駆け出すニューラを空から狙いを定め、
その生き物は、音もなく羽ばたきながらずっと後をつけていく。
自分に忍び寄る危険にニューラは気が付いていない。
「はっ……はっ……怒ってるかな?」
軽快に地面を蹴り走るニューラ。
彼女は走ることには自身があり、中々の健脚ぶりを見せているが、
そんな彼女の足を持ってしても到底時間に間に合うものではなかった。
ニューラの脳裏に怒って角の生えた友達の姿が浮かぶ。
普段は気の良い友達なのだが、時間にはとても五月蠅い性格で、
度々遅刻する彼女は何度も友達を怒らせていた。
彼女の経験上……これだけ遅れたのなら、どれだけ友達が怒るのかたやすく想像が付き。
想像に走りながらも彼女は身震いする。
『少しでも早く! 友達の機嫌を損ねる前に!』と、ニューラは必死に足を動かしていく。
暫く走っていると広い草原に出た。
見通しの良い本当に広い草原……
ニューラの友達はこの近くに住んでいるはずだった。
「はぁ……はぁ、あと……もう少しね」
急いでいるせいでさすがのニューラも息が上がっている。
それでも、もうすぐ目的地に到着すると休まず足を動かした。
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