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Wolves Heart 真実の心
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「や、止めて・・虐めないでっ!」
自宅への帰路の途中、傘を広げ歩を進めていた。
傘と地に弾ける雨音の中、恐怖を露わにした涙声を拾う。
「?・・なにかな・・」
街道の脇道を行くとそこに公園。雨で濡れた遊具の表面が雷の光に照らされて鈍く光る。
その公園の隅・・ボロボロに濡れたダンボールから声。
「い・・やぁ・・やぁぁ・・」
「仔犬・・あ、違う。狼だ・・」
一見、仔犬に見えたが目を凝らせば耳は鋭く、尾は短い。
仔犬ではない。狼。仔狼だった。
僕がここに足を運んだのは狼だからではない。
町に狼がいようが、喋ろうが特に珍しい事ではない。
恐怖の色を灯し、絞り出されるように紡がれる言葉。
「虐めないで・・痛い事しないで・・お願い・・おね・・がぃ・・ひっぃ・・ぇぐ・・」
雨粒に打たれた毛はぺたりと体に垂れ、両足、右目に大きな切創を負っている。
右目に至っては・・もう使えないだろう。
雨水に混じった血で毛は汚れ、深紅の雨水が地を流れる。
「うぅ・・もうイヤだ・・痛いのは・・痛いのは・・・」
ダンボールの隅で顔を前脚で庇いその矮小な体を震わせている。
その声、言動は確かな恐怖を僕に無言に訴えていた。
切創が動物にやられたモノとは考えられなかった。
切創は綺麗でいびつな所は見受けられなかった。
明らかに、人間の手によるモノだ。
この仔狼は人間に・・僕に怯えているわけだ。
毛の濡れ具合から見ると放置されてから幾分時間が過ぎており、出血量も多量だ。
これ以上は命に関わる。
面倒を看るか看ないかは二の次に、とりあえず命だけは繋ぎ止めなければ。
「大丈夫・・もう・・大丈夫だよ・・」
涙を双眸からこぼし、恐怖に震える仔狼を優しく抱き上げる。
「ひゃぅ!?は、離してっ・・」
驚いたか。それとも恐怖のあまりか。
仔狼はそこで暴れだし、挙句の果てに腕に牙を突き立てる。
まだ筋肉の発達のない顎の力は微力で、皮膚すら喰い破れず、震えで力が分散していた。
それでも痛いものは痛い。
小さく呻きながらも言葉を続ける。
「もう・・大丈夫・・何もしないよ・・何もされないよ・・・」
「ぅえ・・ほ、ほんと・・?」
濡れ疲弊した体を労るように撫でながら不安を募らせないように口を開いた。
仔狼はその顔に幼さを灯し、首を傾げる。
僕は頷く。
堪えていた涙が途端に溢れ仔狼は腕のなかで泣きじゃくる。
水気と血で服が汚れていく。
服ぐらいは洗えば綺麗になる。
だが、仔狼の心はそう簡単には綺麗にはならないだろう。
傘を片手に持ち換え、偶然にも持ち合わせていたタオルで仔狼を包み込んだ。
「お兄ちゃん・・暖かいね・・」
「そうだね・・」
仔狼はすっかり安心し、微睡みに沈みかけていた。
心身ともに疲労は濃色で、よほど応えていたようだった。
街頭に照らされる隻眼の無邪気な笑顔。
色鮮やかな銀の毛とその鮮血。
<2011/05/13 23:50 セイル>
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