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Wolves Heart 真実の心
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ーや、止めてっ・・虐めないで!ー
初めて出会ったフェンリルの悲鳴が私に木霊する。
「・・ここで出会ったんだな・・互い幼いまま・・」
私は今、新人の狼医として近くの獣病院に務めている。
彼女は私に言った。”やりたいことをして”と。
それならば私のような思いをする人間の力になりたいと思った。
だが、いくら知識も技術もあったとしてもキャリアがなかった。
ベテラン狼医の下につき勉強の日々だ。
救える者も救えず。手すら出すことが出来ない。
これでは、何も変わらない。あの頃と変わらない。
フェンリルを救えなかった自分と・・
「お前は・・そこから私を見てるのか・・・?」
私の日常はからっぽだ。
彼女がいたからこそ充実していた。
仕事が終わればだた自責するだけ。
忘れるわけがない。
あの美しい・・かけがえのない彼女を。
だが、狼医として病院に立つ時だけは彼女を脳裏から離すことが出来た。
だが、仕事が終われば彼女は還ってくる。
己の非力と悔しさを引っ提げて。
何度も自殺を考えた。
この命を絶って彼女に逢いにいけたらどれだけ幸せだろうと何度も何度も思い、考えた。
が、そうはいかなかった。
逃げたくなかった。自分から逃げたくなかった。
彼女の命を無駄にしたくなかった。
苦しみに耐えて、空腹に耐えて。
苦しくて、辛くて、それでも私のそばにいてくれた彼女の命を無駄にしたくなかった。
まだ、誰も助けていない。救ってもいない。
自分のやりたいことを一つもしていない。
そんな事では彼女に合わせる顔がない。
「・・・なぁ・・フェンリル・・・」
これで八百四十二回目だ。この公園に足を運ぶのは。
彼女は逝ったことを知っていながらも私は彼女がずっとここで呼んでいるような気がして止まなかった。
彼女がいる。そう思えて仕方なかった。
私はあの頃のダンボールがあったところで足を止め、目を落とす。
彼女がいないのは分かっている。
彼女に確かにこの手で火をつけた。
彼女がもういないのは痛感している。
だけど・・認められない。
彼女は大きすぎた。
私の大半を掴んだまま・・持って逝ってしまった。
「・・頑張るからな・・見ててくれよ・・」
両手を静かにあわせそう呟く。
ー トーゴ ー
声が聞こえた。優しくも心配を含んだ声。
幻聴だと思った。彼女なはずがない。
彼女はいない・・いるはずがない。
ー トーゴ。私はここにいるよ ー
私は思わず後ろに振り返る。
彼女が確かにいると信じて。
ー ずっと・・待ってた・・信じてた ー
そこには一匹の狼が凛としていた。
普通の成体だった。
彼女みたいに巨躯でもなく、幼いわけでもない。
煌めく銀毛を纏い、紅眼の左が私をじっ、と見つめる。
「・・あぁ・・お前・・」
あの右目は私と同じ闇夜のような紺色。
短い尾が優しく振られる。
その面影は幼さを残した彼女みたいだ。
「・・お前なのか・・フェンリル・・」
私の見間違えかもしれない。
ー やっと。やっと見つけてくれた。 ー
生まれ変わりなのかもしれない。
記憶はないかもしれない。思い出もないかもしれない。
何もかも忘れているかもしれない。
吸血も、人間を喰らうかもしれない。
「もう・・何も関係ない。」
今度は絶対に救える。
研究は完成している。フェンリルはもう血も人間も喰わなくとも生きていける。
だから・・とにかく言いたかった。
「・・おかえり・・逢いたかった・・」
鞄を投げ捨て膝を折ってその狼の首を優しく抱きしめる。
涙は自然にこぼれた。すっかり枯れたと思っていた。
もう、泣くことはないと思っていた。
彼
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