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Wolves Heart 真実の心
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「・・・分かっているのなら、よかったです・・」
未だに頬には涙が伝うもその声は力を失っていない。
涙声でもない。あらかじめこうなることが分かっているかのように・・・
フェンリルは俺を遠慮しがちに前脚で拘束する。
「俺を・・喰う気か・・お前を拾った俺を・・」
「・・貴方には感謝しています・・本当に私の命じゃ足りないくらいに。数年も貴方の血を頂いて・・ご迷惑をおかけしても・・貴方は私を見捨てなかった。」
「あぁ・・俺はお前を捨てなかった・・病院にも送られたしな・・」
過去に俺はフェンリルの手によって血液不足で病院送りにされている。
「何一つ恩返しが出来なくて、申し訳ないです。でも・・・私はもう血だけではこの体を維持できない・・生きるためには・・人間を・・人間をっ・・」
「もういい・・」
俺は吐き捨てるように言葉を紡いだ。
幼い頃からあれだけ傷ついたフェンリルがこれ以上苦しむのを見たくなかった。
こんなに大きくなった今でも苦しむ必要はない。
これ以上・・苦しませたくなかった。
たとえ・・自分が死ぬことになっても。
「苦しむことはない・・お前は本能に従え。俺の心配はするな・・」
言葉では何とでも言える。そんな事を言っても本当は死にたくないに決まっている。
明らかな虚勢を張って自分を奮い立たせている。
死の恐怖に直面した体が震えているのが自分でも分かっていた。
「あ、貴方と言う人は・・どうして、そこまで・・」
「・・なにも言うな・・俺を・・喰えなくなるぞ・・・」
それは俺にも言えた。数年かかって作り上げた死の覚悟を崩されそうだったから。
短い期間とは言え一人孤独だった俺と共に過ごした家族だ。
別れたくない、もっと一緒にいたい・・
そんな思いはすべて捨てた。
いつかは訪れるのだから。
ー別れの時がー
フェンリルの熱い涙は頬にずっと・・滴っている。
無言で泣く彼女の確かな思いは熱と共に俺の微かな隙間に伝えてくれる。
ーありがとうー と。
<2011/05/13 23:51 セイル>
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