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バベルの塔
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− 消えた理性 −
「ほ、本当に大丈夫か? お前」
「いいからそこを左だ…..ゲハッ、ゴホッ!!」
時には血さえも吐きながら、バビロンは社長室との距離を詰めていく。ロンギヌスは鎖骨が唸っているのを我慢し、彼に肩を貸していた。
しかし十字路を左に曲がったとに、彼らは社長室を目指す必要を失くした。ブースが五メートルほど先で、唇を真一文字に結んで立っていたのだ。
「お、お前は….!!」
「フフ…そんな頼りない竜、まだ捨てていないのか?」
ボロ人形でも眺めるような目つきでバビロンを睨む。
しかし睨み返そうとする前に、背後から息も絶え絶えのアルセウスがフラフラと歩いてきた。立ち尽くすブースの元までふらつき、前脚で彼の肩を押さえて訴えかける。首には締められたような痕があり、肌には焼け焦げがある。一目でこれは、ラティオスとゼクロムに敗れたのだと分かった。
「た…助けてくれ…おかしいのだ。身体が維持できない….内側から壊れていくような…」
言われてみればその通りだ。白馬のように滑らかな四肢からは、サラサラと砂がこぼれ落ちている。いや、というより肉体が白い砂になっているように見えた。ブースはスッと眼を細めると、彼の震える前脚に手を添えた。
「…当然だ。お前は……」
「…負け犬だ」
ブースは冷酷にそう言い捨て、アルセウスの腹に膝蹴りを喰らわせた。
「ぐ…ぐぁッ….!!」
「フハハッ….所詮はメモリで合成された肉体。敗れればもちろん塵に帰るさ!!」
「….ぬッ…….おのれ…っ….貴様…ぁ…!!!」
ブースへの凄まじい怨みの念は空気を超えて、ロンギヌス自身にも届いていた。死者の兵隊として復活させられ、挙げ句の果てに負けて逆戻り・・・一瞬だけだが、ロンギヌスは彼に憐れみを覚えた。
「お、おい…..アルセウ….」
「・・・・・・」
ブースの予言通り、アルセウスの形は次第に崩れ落ちていった。ついに完全に肉体は滅び、廊下に砂の山がこんもりと積もるまで、彼は一言も口を開けることはなかった。
「クッフフフフ…..これが死だ。紛れもない」
命だった砂の山を、ブースは黒い靴の裏で踏みにじった。ロンギヌスは爆発しそうな怒りを寸前で堪えていたが、バビロンは死んだように動かなかった。
「…..バイオテクノロジーの最先端を行く社長が、随分と酷いことをするじゃないか」
「フン….既に死んだはずの命など知るか。それに我々が作り上げる命の灯は、全て金になるものばかり。金になれない命に、価値を見い出すなど愚の骨頂だ」
「ああ…その通りだな全く」
ロンギヌスは亡霊のような彼の顔を見てギョッとした。目が死んでいる。しかしその赤い瞳の奥で、何かが暴れだす瞬間を待っているようにも見えた。
「…マスター…..下がっていろ…..」
「え…..お、おい…!!!」
「こいつは…..こいつだけは…....」
「理由は無いが、気に食わない…!!!」
次の瞬間、彼の傷ついた体から一本のメモリが排出された。
ガチャン…..『SHIELD(盾)!!』
パキィィィン!!!
「あっ…..それ、俺の……」
ロンギヌスの脳裏を閃光が貫いた。稲妻に撃たれたような感覚。
目の前で砕け散ったメモリこそ、自分のメモリが一本足りない理由だった。
バビロンはロンギヌスの寝ている間に彼のメモリを一本こっそり盗み、持ち出していた。
そしてその「盾」の力を内側に向け、抑え込んでいたのだ。
狂気乱舞
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