[1]
TOP [2]
感想
[3]
RSS
バベルの塔
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33
− 悪夢、醒めて君と −
ロア全域、私が眠らせておいたわ。これ以上、被害が拡大しないようにね」
「だがもし、誰かが目を覚ましたら……」
「大丈夫。ノンレム睡眠の限界にまで堕としてるから、最低でも10時間は目を覚まさないわ」
レムリアはウィルスの進行を遅らせるために止むなく眠らせたのだろうが、確かに名案だった。
バビロンが作成したこのウィルスの活動時間は、およそ8時間と非常に短い。
ただし感染すると即座に発症して異常行動を起こすため、普通は30分とせずに狂死する。8時間の寿命などあってもなくても同じことなのだ。
しかし、強引に長時間眠らせることで、ウィルスの確実な死滅を待つことができる。
レムリアの取った行動は、応急処置どころか立派な解決策だったのだ。
「そう、か……」
状況を把握した後に必ず訪れる、この何ともいえない気まずい空気。
だが先に言葉を切り出す勇気は、雄々しいことにレムリアが持っていた。
「いろんな人を見てきたけど……貴方って本当にお馬鹿さんね。
いったい、こうまでする必要性がどこにあったの? ねぇ。
私は、選択肢なら他にいくらでもあったと思うけれど」
「・・・・・」
言い返す言葉も無かった。数分前に悔やんでいた内容、そのままだった。
いざ終わってみれば、無数にさえ思えてくる別の道。
ウィルスの混乱に乗じて襲撃するのであれば、威力はコンピュータを破壊する程度でも充分だったはずだ。
あるいは、ほぼ不可能だったかもしれないが、復讐心を抑えるという道もあった。
「でも……どんなに残酷なものを開発しようと、無謀な博打に命を費やそうと……私は、もう自分の気持ちに嘘はつけない。
あなたに無駄に死んでほしくなかったの」
「・・・・・」
「マスターより鈍いのね。意味分かってる? 好きなのよ。貴方のことが」
空気が怒涛のように凍っていった。
5キロメートル先で落ちた針の音も捉える耳が、初めて聴き間違いを犯したのかと思った。
レムリアは頬を赤らめることもなく、ただ淡々とそう呟いていた。
単純明快に、「好き」と。
「……朝はショックで何も考えられなかったわ。
貴方のこの計画に度肝を抜かれたし、また戦闘になるのが嫌だった。
でも……万が一、この想いを伝えられないまま終わるのが……もっと、ずっと恐ろしかったの」
そんな事態を想像してしまったのか、レムリアは手の甲で顔を拭った。
そして軽く鼻をすすり、一度天井を仰いで言葉を続ける。
「別に、カイオーガとギラティナみたいな関係を望んでいる訳じゃない。貴方がそういう性格じゃないことも知ってる。
それでも…….このことは、心の隅っこにでも置いておいてね」
「……こっちの台詞だ」
結局、喉の奥から捻り出せたのはそれだけだった。
ぎこちない手つきで彼女の肩を抱き寄せる。そうするしかないじゃないか。
[4]
←<2012/02/21 22:40 ロンギヌス>
▼作者専用
[1]
TOP [2]
感想
[3]
RSS