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バベルの塔
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− 刻 −
たゼクロムに、ルギアはテレパシーで即答した。
彼は翼の先端をピンと立たせ、口の前に持っていく。喋るな、という合図だった。
ゼクロムは顔をしかめると、あまり得意としないテレパシーを打ち返した。
「(な、何でだよ。あいつ、ちゃんと来てくれたんだぞ? もう意地張る必要なんて……)」
カイオーガは十中八九、背後にある巨木の裏に息を潜めている。
大方、自然に登場できるタイミングを探していたのだろう。
しかし自分の存在を二人に知られた今、その貴重な瞬間はもう二度と訪れない。
一瞬にして、辺りは気まずいオーラに包み込まれた。
きっとカイオーガ自身も、既にバレたことに気付いているに違いない。
ーーー息をするのにも気を使う沈黙だった。
「(駄目だ。あいつはまだ、私達と顔を合わせようとはしていない。
その可能性を、こっちから奪ってどうする)」
「(でも、もう俺たち……)」
肉体の限界が近かった。降りそそぐ桜に紛れ、全身から白い砂が舞い上がっていく。
ルギアの右翼、ゼクロムの尻尾に至っては、もう既に掻き消えようとしていた。
「(…それでも待て。あいつが自分で決心するのを)」
無論、ベッドを抜けて出てきてくれたのはルギアも嬉しかった。
だがここでカイオーガにこちらから声を掛けては、今まで堪えてきた意味が無い。
彼自身が、彼自身の勇気と意思で動かなければならないのだ。
それが現実となることを願い、二人はそっと目を閉じる。消え去る準備も整えておきたかった。
・・・・・・・
「(無理、か……)」
カイオーガ独特の気配を漂わせながら、彼は一向に姿を見せなかった。
既に5分も経過している。ルギア達にとっては、人生で最も祈り続けた5分だったろう。
しかし、その願いが叶う様子は無い。
気まずい空気の上を、やがて絶望感が漂うようになった。
「ルギア…………」
「(これがあいつの決断なら仕方ない。行くぞ)」
期待を裏切られたというのに、彼の目は妙に澄んでいた。こうなることを薄々勘付いていたのかもしれない。
しかしルギアがそう呟いた刹那、背後で砂利を踏む音がした。
ゼクロムが振り向くと、ちょうどカイオーガが桜の木の陰から出てくるところだった。
声をわなわなと震わせ、明らかに呼吸の度に息を呑んでいる。
「カイオーガ……」
「・・・・・」
ルギアは無言を貫いていた。何の用だ、と嫌味を飛ばすこともなかった。
一方ゼクロムは目のやり場を失い、結局、カイオーガのヒレの幾何学模様を見つめる。
その視線に気付いたのか、カイオーガはそっと顔を上げた。弱々しい笑みだった。
「……二人とも。最後の最後まで迷惑かけて、ごめんなさい!!」
カイオーガは頭を土に押し付け、大声で言い放った。
木の裏に潜み、何度も練習した台詞だった。
「ボク、友達やめたくない。住んでる世界が違っても、君たちとは…!!」
「……もういい。行け」
ルギアが遮るように呟いた。口元が綻んでいた。
「い、行けって……?」
「言いたいことは良く分かった。
だが、お前が会うべき相手はもう一人いるだろう。時間がない」
「で、でも…まだ……」
「あいつは三本向こうの木に隠れてる。お前が行ってやらずにどうするんだ?」
「え、うん……」
ルギアの発言に困惑するカイオーガだったが、ゼクロムの頷きに背中を押され、急ぎ足でジュカインの元へ向かう。
彼にしてみれば、まさに後ろ髪を引かれる思いだったに違いない。
「……カイオーガ!!!」
しかし、行け、と
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