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バベルの塔
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− 裏返されたキング −
を引き止める事はできなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「………プハッ」
「何が面白いのだ?」
「いやぁ? 別になにも」
気が付けば洗面所にいたのは自分だけでは無かった。
空っぽの石鹸置き場。その上に取り付けられている、ムダに巨大な鏡。
そこに「彼」は映っていた。アナザーフォルムの自分の真逆、オリジン
フォルムの自分が。
「….あなたを呼んだ覚えはないのだが….」
「まあまあそう言うなって。どうだい? たまにはこんな余興も」
「や…やめてくれ….!」
『裏』のギラティナはピンク色のザラザラした舌を出すと、狂気の微笑
を浮かべながら鏡にそれを押しつけた。
するとどうだろう、もう一方のギラティナも頬を吊り上げ、向こうのギ
ラティナと同じ位置に舌をペトッと置いたではないか。
まさにこれこそ鏡の絶対的法則。どちらかの「自分」がある動きをすれ
ば、もう一方の「自分」も必ずそれに従う。そしてその主導権は、鏡の
向こうのギラティナが握っていた。
「やめてください……だろ?」
「や、やめてくだ…さい…..」
強制された謝罪を終えるとすぐに、ギラティナは解放された。
「な…何か用でもあるのか?」
「ない…こともないこともないこともないこともないこともない」
「どちらなのだ」
お調子者の「自分」に対して、コトンと首を傾げる。
「フフ…あるさ。そうしなきゃいけない義理は無いけど、あまりに君
が不憫でねぇ….ちょっと手助けしにきたのさ」
「僕ともあろう者が情けないじゃないか….闘いが怖いってだけで、イジけ
て引き篭もってるなんて」
「そ、そんな……別にそういう訳…」
「そういう訳さ。だから僕はこれから、君の肉体を乗っ取る。
その身体を使って、『僕』がカイオーガを助けてくる」
淡々と発せられた占拠宣言。
ギラティナは本物の幽霊を目の当たりにしたように、引きつった表情
で後ずさった。裏ギラティナは鏡の向こうで微笑んでいるだけだが、
その姿は次第に揺らぎ始めていた。
「いっそ僕がずっと、『表』としてカイオーガを守ってようか?」
「違う….お前じゃ….ダメだ…」
「そうビクビクするな……痛みは一瞬かもよ?」
「そういう問題では….ないのだ…!!」
この気持ちを理解できるのは、「自分」だけ。
裏の自分だからといって、感情まで同じなはずはない。
そう切に信じながら、ギラティナは洗面所を飛び出し、振り向く
こともなく廊下を駆け抜けていった。
ーーーー逃げるまで怖いのかい? 争いの世界に踏み出すのが。
「そうだ….怖い…….逃げて悪いとでも言うのか!?」
ーーーフフ….全然悪くないさ。ただ・・・・
ーーーーかっこ悪いだろ? それじゃ。
「ウッ……あ…!!」
ギラティナは意識という名の糸が、自分の中でプツンと切れるの
を感じた。目は虚ろになり、口を半開きにしながら、氷のように
冷えた廊下に倒れ込む。
まるで「ご自由にお取りください」と言わんばかりに、ギラティ
ナの肉体は無防備だった。
「フフ….それじゃ三時間ほど、拝借させてもらおうか」
次に口から飛び出したのは、同じ声なのにいつもより明るめの声だった。
と同時に姿もニョキニョキと本来の姿、即ちオリジンフォルムへと還って
いき、どす黒い血色だった瞳も色鮮やかなライトグリーンへと変貌する。
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