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見上げれば確かにそこに空がある
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− 進展 −
翌朝、目を開けると昨日まで青かった空が、ぐずついた灰色の雲に覆われていた。
見るからに一雨来そうな天気である。
「洞穴に行くか」
崖の中腹にある、ぽっかりと空いた穴。
さほど深くもないその穴は、雨をしのぐにはうってつけな空間だ。
いくつかの木の実を抱えて、リザードンは山を降り始めた。
そろそろだと思った時。
やはり来たかと言わんばかりにぽつぽつと小さな滴が降ってきた。
弱々しかったそれは、徐々に強く打ち付けられるような雨へと変わっていく。
リザードンが洞穴に着いた時には、激しい雷雨になっていたのだった。
(間一髪、というやつか)
そう思いながら、リザードンは体についた水を振り払う。
漆黒のウロコに覆われた体は、妖しく黒光りしていた。
(これはしばらく続くだろうな……)
もはや、吐き慣れたため息を深く吐き出すリザードン。
そんな彼の目は、こちらに迫ってくるひとつの影をとらえた。
(あれは……)
見覚えのある姿に、すぐピンときた。
「あの時の?」
そう思っているうちに、影は次第に明確な姿に変わり、それにつれて仮定の物事が事実へと変わる。
間違いなかった。
「うー、べたべた……」
洞窟に駆け込み、体についた水滴を手で払い顔をあげると、その顔は驚きのそれに変わる。
「あら、あなたはこの前の」
それでも口調は落ち着いているのだから不思議である。
女はこれだから怖い。
「何だ、また一人か?」
「ええ、また何か言うの?」
「いや、物好きだなと思ってな」
「? おかしな人」
クスクスと笑うものの、その体は少し震えていた。
「……寒いだろう? お前がいいのなら、ほら」
そう言って、尻尾に宿った炎を彼女に近づける。
正直、不安だった。いつの日か、同じことをしてあげた子供に恐れられたのが脳裏に浮かんだのだ。
しかし、彼女は違った。
目を丸くしたかと思うと、すぐにこの炎に負けないほどの笑顔を浮かべたのだ。
「ありがとう。意外に優しいのね」
「意外は余計だ」
照れくさくて視線を反らす。
隣では静かな笑い声が聞こえた。
「外はやばいな、お前は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、いざとなったら“テレポート”を使えばいいもの」
なるほど、それなら確かに帰り道がなくても移動ができるなと思った。
黙ってるのもなんなので、「そうか」とだけ言っておく。
ただ、それから先の言葉が見つからず、しばしの沈黙が流れる。
その刹那、薄暗かった洞窟が一瞬目映い光に照らされ、直後に爆音が鳴り響く。
「きゃ!」
どうやら雷が落ちたらしい。
びっくりした。
いや、どちらかと言うとびっくりしたのは雷の方ではない。
なんと、彼女が自分に抱きついてきたのだ。
「お、おい。どうした」
「ご、ごめんなさい。私、雷だけは苦手で……きゃ!」
またも爆音が鳴り響き、彼女が抱きつく腕に力がこもる。
心臓が暴れていた、それこそ自分でもわかるほどに。
顔が熱い。喉が乾く。こんな気持ちははじめてだ。
気がつけば、自分も彼女を抱き締めていた。
「大丈夫だ。我輩がおるではないか」
恥ずかしい。ただその一言である。
「ありがとう。リザードンって暖かいのね」
「……。我輩が怖くないのか?」
お互いに目をつむっているが、不思議な程に相手のことがよく分かった。
「何で?」
彼女の声には皮肉さを感じなかった。本当に分からないのだろう。
「だってこんなどす黒い体なのだぞ? いかにも凶暴そうではないか」
そう言うと、彼女は「何だそんなこと」と言ってふふっ
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