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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
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− 予感 −
「ロン」の宣言とともに、バビロンの手牌は倒された。対戦相手である髭面の料理長が呻く。
「……三色同順、満貫」
「かぁぁぁッ!!! 良い腕してるじゃないかあんた。いったいどこで習った?」
「漫画」
自分の手牌をジャラジャラと崩し、バビロンは350円相当のハンバーガーを受け取った。
どうやら料理長の麻雀に付き合う代償として、勝ち分だけのジャンクフードが貰えるようだ。
本日三個目のハンバーガーを頬張るバビロンを見て、料理長は再び牌を積みはじめた。
「だがいいのかい? さっきの電話を横で聴いてた感じじゃ、誰かと約束してたみたいだったが」
「……別に構わない。
どうせ奴らのことだ、クルージングは出来なくても、それなりに遊んでるだろうさ。スキューバとかな」
「スキューバーねぇ……ありゃ、注意しとくべきだったかな」
「何をだ」
牌を積む手を止め、男は身を乗り出した。
背の高いバビロンに顔を近づけてもらった上で、そっと彼の耳に囁く。
「客足に関わるから大声じゃ言えねえんだがよ……あの海、厄介なバケモノが住んでんだよ」
「バケモノ?」
「ああ……ピンク色の巨大なアメーバみたいな奴でよ。俺等は『ブロブ』って呼んでる。
肉食で、腹を空かす度にダイビング中の人間を取り込んでしまうんだ」
「……おいおい、なぜ遊泳禁止にしないんだ? 誰かが喰われてからじゃ遅いだろう」
料理長は唇を噛んだ。麻雀牌をひとつ取り、手中で弄びながら、それが重要だ、と言った。
「実は、もう何人も被害にあってんだ。ただ……死者は1人もいない。
とどのつまり、襲うことは襲うが、消化にはとんでもなく長い時間が掛かるってことだ。
確か…….個人的に調査に来てくれた科学者の話じゃ、どんなに早くとも24時間だったかな」
「24時間?」
バビロンは思わず問い返した。
消化の時間だけを考えるのなら、人間の方がよっぽど強力な捕食者に思えてくる。
しかし、男の話はそれだけに留まらなかった。
「24時間の猶予に加えて、とても見つけやすい。
なんせほとんどが、浅い海底に目立つ色で蠢いてやがるからな。
おまけに喰われた奴の救出だって楽なもんだよ。頑張れば小学生でもできる」
「そんな弱々しいスライムに、どうして捕まる輩がいる?」
「それは知らんよ。多分、獲物を捕らえるだけが能なんじゃないか? 消化は別として」
恐ろしく長い消化時間、早期発見の確率、救出の容易さ。
料理長の話によると、これだけ危険性の薄い捕食者のために海岸を遊泳禁止にすることを、オーナーが断固として拒んだらしい。
それもそうだな、とバビロンは皮肉った。海で遊べない海沿いの旅館など、面白味に欠けること甚だしい。
「という話なんだがよ……今思えばそんなに注意すべき問題、って訳でもないな。
被害に遭ったって連中も、病院どうこうの怪我は無かったようだし…
どうだい竜の兄さん、もう一戦するかい?」
「……あ? ああ…そうだな…」
バビロンはどこか腑に落ちないといった様子のまま、黙々と牌をかき集め始めた。
<2012/03/20 00:55 ロンギヌス>
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