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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
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− 白と黒 −
き、何者かが背後から彼らを呼び止めた。二人が
同時に振り返ると、ここの従業員の風貌をした男が走ってくる
ところだった。ゼェゼェと荒々しい呼吸を整えながら、唖然と
している二人に声を掛ける。
「はぁっ……はぁっ……お、お客様、入場券はお買い求めにな
られましたか!!?」
「入場券? い、いえ……買ってないけど……」
「そ、それは困ります!!」
従業員の男が喚き散らすのには理由があった。
実はこの遊戯室、午後になると客足がドッと増えるため、旅館
側は500円の入場料を取ってバランスを保とうとしているのだ。
ところがそのチケットの販売係が諸用で不在だったため、レム
リア達は券を買いそびれた、という。
「そ、そう言われても……と、とにかくゴメンなさい、知らな
かったの」
「上司から、無断入室は厳しく取り締まるよう言われています。
これも一応規則ですので、お名前と部屋の番号をお願いできますか?」
「……おい」
困惑するレムリアを覆い隠すようにバビロンが立ち塞がった。
「午後はチケットが必要になる旨を明示しなかったのはそちらの責
任。販売員を置き忘れたのもそちらの責任。私達にどんな非があっ
たのか教えて頂こうか」
「し、しかしうちの規則では……」
「規則。規則。規則。ああ、なんて素晴らしいんだ。規則さえあれ
ば自分たちの失態も揉み消すことが出来る。さぞかし便利だろうね
ぇ……」
「お、お宅はいったい何が言いたいんですか!!?」
相手を嘲笑うかのような独特な笑みから一転、バビロンは深い溜め
息をこぼした。顔を従業員の目と鼻の先まで近づけると、無表情で
舌をジュルリと舐めする。
「……別に? ただ、遺書も残せないまま消えゆくあんたが不憫だな……と思っただけさ」
「ひっ……し、失礼しましたぁぁぁッ!!!!」
従業員は蒼ざめた顔でポケットから入場券を二枚放り投げ、電光石
火のごとく来た道を駆け戻っていった。彼が人混みの中に消えたの
を確認して、バビロンは床に貼りついた入場券を拾い上げる。
「フフ……儲けた儲けた」
「相変わらず酷いことするわね……1000円ぐらい払ってあげれば良
かったじゃない」
「冗談じゃない。ポテトが3つは買える」
片方のチケットをレムリアに押し付け、バビロンは自分のを手荒く
ゴミ箱に突っ込んだ。レムリアは大袈裟に肩をすくめた後、入場券
に振られた番号に目を落とした。
「あら、ラッキー7じゃない。何かいいこと起こりそう♪」
「どの数字が出る確率も同じだ。そんなこと言ったら言ったらどの
数字でもラッキーになる」
「はぁ……ホントに夢も希望も無いのね、貴方って」
しかしそんな溜め息の後にも関わらず、レムリアは彼の横顔に笑み
を咲かした。バビロンのそういった部分に可愛さを見い出してしま
ったのは、誰よりも彼女自身なのだ。意を決し、バビロンの隆々と
した腕にそっと手を絡める。バビロンはあからさまに不意を討たれ
た顔で、しばらくは真っ赤な目を見開いたままだった。
「ふふ……とりあえず座らない? 立つの疲れちゃって」
「あ、ああ……」
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←<2012/04/06 18:25 ロンギヌス>
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