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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
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− 敗北を知らぬ者 −
夕方という、人々が最も活動意欲を失う時間帯のことだった。
係員と数匹のポケモンだけが細々とギャンブルに興じる中、
その場には不釣り合いなほど陽気な合成音が響き渡る。音源
は、バビロンの操作した……いや、正確には既に操作し終え
たゲーム機だった。
「おめでとう!! これで2ー2、最後までガンバって!!」
カクカクとした機械の声で励まされてもあまり感動はないが、
それでも勝利の味はやはり美味だった。画面に映るWINNER
の文字をしばらく見据えた後、目線をゆっくりと青年の横顔
へ持っていく。目の前で起きたことが信じられない、といっ
た様子だった。
「んな……バカな……」
「フフ……誰が馬鹿だって?」
ギャンブルの熱が引いたのか、バビロンはいつも通りのシニ
カルな口調に戻っていた。青年の余裕の消えた表情を見下ろ
し、先の鋭い牙を見せて微笑する。先ほどまでレムリアを奪
われる危険に戦々恐々としていた自分が、何とも情けないも
のに感じられた。
「……どうした? まだ2ー2……勝負はまだ1回残っているじゃ
ないか。何をそんなにショックを受ける必要がある?」
これまで散々いたぶられたお返しにと、バビロンは皮肉をた
っぷり込めて言い捨てた。青年が己の負けに衝撃を喰らって
いるのは、無論、もう勝ち目がないからである。一定のタイ
ミングで誤動作が起こるあのバグがあれば、バビロンのミス
続きで最後まで勝ち仰せたかもしれない。
しかしその最初で最後の切り札ともいえるバグが直ってしま
った以上、正々堂々の一騎打ちでバビロンに勝てる訳がない。
青年はそう直感しているのだろう。
「お、お兄さん……ひとつ聞かせて欲しいんだけど……」
「なんだ」
大袈裟に唇を震わせながら青年は切り出した。その後にどん
なセリフが飛んでくるのか、バビロンは分かったような気が
した。
「お兄さん……何者……?」
「フフ……どうした急に。名前を聞くには少し遅すぎると思
うが」
「だって……だっておかしいじゃないか!! 竜なんて大抵は人
間より低脳で、野蛮な生き物だって相場が決まってる!! なの
にどうしてこんな……」
「優秀な自分の上にはもう誰もいないと思ったのか? ……自
惚れるな。コンテストなんて小さなものさしで測れるほど世
界は狭くない。そして何より、計算において人間がコンピュ
ータを超える日もまた来ない」
「コン……ピュータ……?」
公に発表されると何かと問題が起きるため、バビロンはあま
り素性を明かしたくはなかった。しかし同時に、そんなこと
は是が非にもさせない、という根拠の無い自信もあった。
いや……根拠はある。後で、嫌と言うほど身体に教えてやれ
ばいいだけの話だ。
「製造型番0000003、正式名BABYLON SYSTEM 03、一般
呼称はバビロンだ。製造元は旧バイオリック」
「せ、製造型番……? 製造元……?」
そんなレッテルが貼られた竜など図鑑では見たことが無い
のだろう。青年は驚愕した様子で眉間にしわを寄せていた。
しかしバビロンはそれに関しては詳しい解説はせず、ゲーム
台のすぐ横の壁に青年を押し付けた。まだ段階としては早い
のだが、早くも唾液がじわじわと口に溜まりつつあった。
「さぁて、ここからが本題だ。今度は私がお前に条件を付け
る番だな」
「ふ、ふざけるな……!! シュバルゴ!!!」
しかし最後の綱としてその名前を呼んだ青年の目先には、カ
イオーガの毒竜の餌食になっているシュバルゴの無残な姿が
あった。毒々し
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