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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
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− 地獄の淵は、終わらない −
バビロンに手を引かれ、青年は"食戯室"と名の付いた部屋
に連れて行かれた。移動中、隙を見て逃げ出そうとしてい
たのだが、バビロンがしっかりと背中に張り付いていたた
め不可能だった。
扉を開けて中に入る際も、バビロンはしんがりを務めて青
年を押し込むようにして入ってきた。やがてパチッという
音とともに、無機質な蛍光灯の明かりで部屋が満たされる。
"食戯室"は8畳ほどのゆったりとした空間だった。だがその
面積とは不釣り合いなほど天井が高い。青年はふと、余計
に大きかった小学校の体育館を思い浮かべた。床は濁った
灰色を思わせるコンクリートで固められており、壁もまた
同じだった。
「フフ……ここならば誰にも邪魔されない。つまり人目を
気にすることなく、あんな事やこんな事まで出来てしまう訳だ」
「あんな事って……ま、まさか……」
「そう不安そうな顔をするな。何、私にそんな趣味や性癖
はない。まあ……それに近いことはするかもしれないがな」
たちの悪い悪戯を企てる子供のように、バビロンはにやにや
を牙を見せて笑う。青年は思わず背筋が寒くなるのを感じた。
「よし……ではまず手始めに着ているものを脱いでもらおう
か。もちろん全部とは言わないが……生肉は直に味わってこ
そ意味があるんでねぇ……」
「…………うん……」
抗っても余計な脅しを喰らうのは目に見えているため、青年
はしばらくは潔く命令に従うことに決めた。薄い無地のロン
グTシャツ、ジャージ、スニーカー、靴下を脱ぎ捨てる。シャ
ツとパンツだけになった直後、バビロンが小さい舌舐めずり
をしたような気がした。
本来ならそんな面倒な事はしないのだが、青年は少しでも喰
われる瞬間を遅らせるため、服を几帳面に畳みだした。わざ
とトロい動きになるよう心掛けたが、バビロンは「早くしろ」
の一言も言ってこない。どれだけ時間が経っても結果が同じ
であることに変わりは無いのを承知しているからだろうか。
「……ほら」
服を畳み終わってバビロンの前に立つと、今更だがその身体
のスケールの差に圧倒された。天井が先ほどの遊戯室より、
遥かに高いからかもしれない。
鉄筋でも曲げてしまいそうな腕っ節と、それを胴に繋げてい
る隆々とした肩。さらに今は収納されているが、きっと背中
には身体と同じ色の翼が付いているに違いない。
また、胃は空っぽのはずだったが、広いお腹は至って自然な
膨らみを帯びている。多分無いだろうが、もしかしたら誰か
先客がいるのかもしれない。
万が一そうなら、いったい如何にして呑み込まれたのか……
今まさに消化中なのか……それとも既に彼の血肉と化してし
まったのか……青年はあらゆる想像を繰り広げた。
これから自分もそんな彼の体内に導かれ…………そして…………
「フフ……これで前置きはおしまいだ。もう我慢する必要も
無いだろう?」
「あっ……!!」
立派な顎によって、頭から腰までを一度に咥えられる。ずっ
と口内に溜まっていたのか、大量の唾液がシャツをあっさり
浸食するのを感じた。しかしそんな事に嫌悪感を抱く暇もな
く、上半身を波打つ舌が覆い尽くす。ぶにゅぶにゅとした肉
質が、胸板を貪るように舐めしだいてくる。
しかし口に入れられて数秒後、青年は異常な臭いが口内を満
たしているのに気づいた。咄嗟に鼻を押さえようとするのと
同時に、ふわっと足が床から浮いた。どうやらバビロンが首
を上に向けたらしい。重力によって青年の体は、余すところ
なく暗闇の中に閉じ込められた。
「くっ……
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