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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
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− 宣告 −
ムリアは自分
が真剣であることを伝えるため、今回に限って冗談まじ
りに笑ったりはしなかった。彼もそれを理解したのか、
長々しいため息を用いて先ほどの冗談を撤回した。
「こいつに拉致されかけていたお前を見つけたときから……
一応、もう返事は決めている」
「い、一応って?」
青年が宿る腹に指を押しつけるバビロンに対し、レム
リアは語気を強めた。どんな言葉であの時の告白が返
されるのか……ありとあらゆる返事が妄想に近い形で
浮かんだ。
「喜んで」なのか「ごめん」なのか……
はたまた「ありがとう」のような中途半端な答えしか
帰ってこないのか……それは嫌だった。
1分に及ぶ空白を経て、ようやくバビロンの口は開いた。
「…………お断りだ。残念だが」
「………………っ……」
ハートという曖昧な表現ではあまりにも遠い。
むしろ、心臓のど真ん中を射抜かれたような感覚だった。
例え断られても胸を張っていよう、と心に決めていたに
も関わらず、目線は重力に引っ張られるように下へ下へ
と沈んでいく。テーブルの上で交差させていた両手は、
いつの間にか握り拳へと変わっていた。
「ダ、ダメよねやっぱり……私なんかじゃ……」
「…………」
目頭が熱くなるよりも先に、レムリアは何がいけなか
ったのだろうと思案した。才色兼備を名乗れるほどの
頭の良さを持ち合わせていないから? 種族柄とはいえ、
毎回のように騒動の引き金になってしまうから?
それとも……
「……絶望したか、私に。私の冷たさに」
「そ、そんなことある訳ないじゃない!! 貴方ならきっと
そう言うだろうなって……私は……」
本心を知られたくないがための真っ赤な嘘だった。それ
と同時に、笑みを貼り付けた顔からぼろぼろと涙が滴り
落ちる。ずっと安静だった呼吸がみるみるうちに荒さを
増し、気がつけば、レムリアはテーブルに肘を付いて顔
中を拭っていた。どう対処すれば良いのかバビロンは困
惑した様子だったが、すぐに沈黙を守ったまま手元の紙
ナプキンを差し出した。
「あ……ありが、とう……」
「好きなだけ泣いていい。気持ちが落ち着いたら、続き
を話そう」
「うん……」
それから5分ほどは、レムリアの啜り泣きだけが二人の
空間を支配していた。途中、先ほどのウェイターが注文
の品をトレイに載せてやってきたが、彼らの顎は固定さ
れたように俯いたままだった。空気を読んだのか気付い
てないのか、ウェイターは二人の前にコーヒーを置くと
足早にその場を立ち去った。
「……気遣わせてごめんなさい。大丈夫よ、もう」
「泣かないと約束できるか?」
「ええ……好きに話してもらって結構よ」
正味、その時のレムリアには自信と呼べるものは皆無だ
った。だが彼の前で再び涙を流す恐怖よりも、振られた
理由を彼の口から直に聞きたい、という欲求の方がはる
かに強かったのだ。奈落のような深呼吸を2度繰り返し、
レムリアはバビロンが話を切り出すのを黙々と待った。
「まず謝らせて貰いたい。本来なら私が言うべき言葉だ
った」
「え……え?」
「"両思い"など天文学的な確率のもとでしか発生しない
はずだが……どうやらその可能性に勝ったようだな、私達は」
バビロンが述べた内容を把握するのには時間がかかった
が、やがて「彼も私と同じ想いだった」という事実を、
レムリアは少女のように純真な心で受け止めた。目に残
っていた涙さえも消えて無くなるぐらい、とにかく嬉し
かった。
だが同時に、失望にも近い感
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