[1]
TOP [2]
感想
[3]
RSS
狼と狐のち日常
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55
「菫〜行くよ〜」
「む、もう行くのかえ?」
「準備できてないなら早くして〜」
朝食を終えて、冷蔵庫が空。
と言う訳で急遽、買い出しにいく事になった。
いつもは徒歩で城下町に向かうのだが
今回は菫が送ってくれるそうだった。
無論、往復だ。
それなりの私服に着替え、玄関で菫を呼ぶ。
何を準備しているのか分からないがまぁ、良いか。
「ほれ、待たせたの♪」
ぬっ、と家陰から黒狼が姿を現し
腰を降ろして、姿勢を低くする。
「じゃあ、行ってくるね、フラウ」
「はい、お気を付けて。ベッドはしっかりとしておきますね」
「……ごめんね、椛には言っておくよ」
唾液の染み込んだベッドは漸く洗濯が終わり
天日に晒して、乾燥中である。
’行ってらっしゃいませ’と礼儀正しく頭を下げたのを確認して
菫が大地を蹴った。
物凄い浮遊感が僕を襲い、思わず黒毛を握りしめて体をそこに留めようとした。
「掴んでおれ、拾うのも面倒じゃからの」
広大な緑の大地の中で目指す城下町は矮小に映った。
家から城下町までは下りが続く。
菫は軽く飛んだつもりでも、着地側が下がっていく。
結果、長距離飛んだ事と変わりはない。
「ちいとばかし来るかもしれぬ♪」
しかし、菫は綺麗に着地した。
衝撃を完全に強靭な足腰で吸収し、体に負担をかけない。
無論、僕にも衝撃は皆無。
「大丈夫?」
「ふっ、儂を舐めるでない♪」
「時間あるから、ゆっくりでいいよ」
「うむ、分かった」
綺麗に着地した事で、スピードが緩む事はなかった。
そのままのスピードで城下町に進行しそうだったので
取り敢えず、制する。
菫はスピード次第に緩め、歩行に移る。
「しかし、まだ距離はあるのぅ……大変じゃろ? 徒歩では」
「うん、大変だよ」
「帰りは荷物あるしね……」
徒歩で向かうと片道2時間はかかる。
帰りになると大量の食材を持っての帰路のため
溜まる疲労は相当なものになってしまう。
いつもは桜華郷という運送屋(タクシーのようなもの)に帰路を頼むのだが
前回は臨時休業で休みだったのだ。
……桜華さん、体調崩してたのかな?
今度、お見舞いにでもいこうかな
「運送屋……ふむ、そんなものまであるのかえ?」
「桜華さん、林檎が好きだから買っていくと家の近くまで送ってくれるんだ」
「ふむふむ、今度からは儂が送ってやろう。浮気はさせぬからな♪」
「浮気って……そんなつもりないからね!」
突然何を言うかと思えば……
いつ菫とそんな関係になったのやら、覚えはない。
それか……無言の圧力?
’お前は儂のものじゃぞ’という……
(菫……恐るべし!)
「ほれ、着いたの」
門のすぐ側で腰を降ろし、姿勢を下げる。
僕はするっと菫の背中から地面に下りると
「はい、これ。離さずにつけててよ」
「何じゃ? これは」
菫に渡したのは’走獣証’。
主に移動用に使役している大型獣の証明に必要なものであり
これをつけていない獣は衛兵の討伐対象になりかねないのである。
桜華郷のお世話になっている僕はすでに貰っていたものだった。
本来なら、衛兵に話をつけ運送屋に旨を伝える事で貰えるものだ。
その走獣証を首にかけてやり、菫に促す。
「買い出し終わったら戻ってくるからここにいてね?」
「うむ、分かっておる」
「……人食べちゃダメだよ?」
’分かっておる’と少々苛立ちを潜ませた声が返ってくる。
これ以上、口を酸っぱくするのはよろしくないので
早々に外門を潜った。
自然に溢れた世界から隔てられ
活気の満ちあふれる人間で満たされた商店街が広がっている。
[5]
→
▼作者専用
--------------------
[1]
TOP [2]
感想
[3]
RSS