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狼と狐のち日常
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− 『菫の体毛に埋まろう』 −
城下町の住宅街。
そこの灯りがとても小さく見える。
けれど数は多く、それがまた幻想的だった。
「東雲……」
「どうしたの? 菫?」
菫の横腹にもたれ掛かり、休息を取っていた。
「今日な、人間を喰ってしもうたんじゃ……」
「やっぱり……城下町で、でしょ?」
そうだと思ってた。
あの時の嬉しさは少しおかしいと思ってたけど
予想どうり、人間を喰ってた訳か。
「まぁ、怒らないよ。ただし、命を奪ったって事だけは肝に銘じてよ?」
「……分かった」
他者の命を奪っておいて、咎めないと言うのは
正直に間違っているのは自負している。
殺人を犯して、裁かれないのと同じだ。
「すまぬ東雲……余計な負担を……」
「いいよ……仕方ない理由があった。って分かってるから」
菫は小さく息を零すと、僕に微笑みを投げかけた。
そして、そのふかふかの黒尾を僕に被せてくれる。
「儂じゃから……菫じゃったのか?」
「……意識してなかったけど、そうなっちゃった」
本当に意識してなかった。
水晶華には幾つか種類があるとは聞いているが
あの時、菫を求めたのは無意識だった。
また、あの花屋に菫があったのも奇跡に近い。
偶然に偶然、天文学的な数字の確率が
偶然にも今日であっただけなのだ。
唐突に菫が視線を外した。
「……ぅ……」
「え? なんだって?」
それは蚊が鳴くような声で
全く、聴き取る事が出来なかった。
顔色を窺う様に(表情は窺えないが)再度聞き返す。
「あ、ありがとう//// 恩に着るのじゃ……」
「そんなに照れなくても……」
やっとの思いで表情を窺えば
紅潮し、恥ずかしさを表にしている。
……こんな姿でも女の子なんだな。
そう……自然と思っていた。
「水晶菫……に、似合っておるか?」
「うん……とっても」
「//// 大切にするからの♪」
ばっ、と体を反転させ僕を抱き取る。
鼻に漂う、獣の匂いと大地の薫り。
前脚には筋肉が詰まっており、その逞しさを感じ取る事が出来た。
こんな前脚だからこそ、あのスピードを生み出せるのも納得。
「……今宵は特別じゃぞ」
「何が特別なの……?」
「本当なら胃袋で寝てもらうとこじゃが、ほれ」
服の襟を咥えられ、宙に浮いた思えば
丸まった菫の中心に降ろされ、尾を被される。
「儂が布団代わりになってやる。共に眠ろうぞ♪」
「……うん、ありがとう……」
ふかふかの高級感溢れる菫の体毛。
もし、製品化されるなら8桁は行くだろう。
そんな母の温もり溢れる中で
ゆっくりと僕は目を閉じた。
<2012/03/25 21:30 セイル>
▼作者専用
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