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魔女にかかれば
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「し、シャドウはただの使い魔よ」
まさかの不意打ちに、カレンは驚きを隠せない。
しかも口がまわらないともなると、彼女が慌てているということは誰が見ても一目瞭然だ。
カレンは繋いだ手を素早く引っ込めた。
「ふふ。そこまで分かりやすいと、からかいがいがあるものだ」
「――っ!」
顔を耳まで真っ赤にし、カレンは言葉を失った。
魔女は相手の心が読めるのだろうか。
(……恐ろしいわね)
自分がクォーターだということも忘れて、カレンはそう思った。
「さて、お互い面識も持ったことだし、今日はもう帰るか」
ぐぐっと伸びをしながら欠伸をするトレゾア。
カレンはもうため息しか出なかった。
「じゃカレン、また――」
「お嬢! お嬢!」
トレゾアがこの場を立ち去ろうとしたまさにその時、シャドウが先程までとは違った雰囲気を出しながら、扉を乱暴に叩く音が部屋の中に響いた。
「近くに人間がいます! それも大人数で!」
カレンが扉を開けると、間を空けずにシャドウは言った。
「なっ! まさかもう噂が」
「そのようです。鉄の臭いがします」
「ふふ、万事休すというわけだ」
噂を流す原因となった当事者は心なしか笑っている。
「よほど自分の力に自信があるのね」
それを聞くと、トレゾアはふんっと鼻を鳴らして目を細めた。
「騎士共など、寄せ集めの菓子のようなものだ。量だけで、味などたかが知れている」
そうこう言っているうちに、近くでガシャガシャと鎧の揺れる音が聞こえてきた。
このままではカレンらは捕らえられ、その先は分かりきっている。
「火炙りだけは避けたいわね」
「斬首も勘弁だ」
「私も人間などの奴隷になるのだけは……」
不覚にもシャドウが奴隷になるのを想像してしまった。奴隷というよりはペットだろうか。
思わずぷっと吹き出したカレン。きょとんとしていたシャドウに「可愛らしいじゃない」とだけ言っておいた。
「さて、覚悟はいいかな? お嬢様」
「出来ることなら争いは避けたいけれど、仕方がないわね」
お互いに顔を見合わせて、にっと笑う。
二人の魔女の雰囲気に押し潰されそうなシャドウであったが、何とかそれに耐える。
暖炉の炎の光が、そんな彼の牙を赤く照らしていた。
「うぅ……じ、慈悲を……」
「ふん。攻め込んで来るような人間にかける慈悲などない」
一人残った騎士隊の長であろう男を巨大な前足で押さえつけるトレゾア。
彼女は今、シャドウにならって狼に化身していた。
金色に輝く、いわば金狼の毛皮はシャドウのそれとはまったく違う。不思議な魔力を帯びていた。
「あそこまで魔力があると、何でも出来そうね」
「羨ましいのですか? お嬢」
ぺろぺろと返り血の付いた爪を舐めながら、シャドウは聞いた。
狼らしい灰褐色の体毛は所々、生々しい赤い斑点がついている。
「シャドウ、狼みたいよ」
「狼ですから」
ふふっと笑うと、シャドウはちょとんとした顔で主を見上げる。
あまりの可愛らしさに、思わず頭を撫でてしまった。
片目をつぶって、少し顔を曇らせる。
それでも尻尾はぱたぱたと騒がしかった。
「トレゾア、まだいたぶっているの? いい加減にしたら?」
「先に帰っていろ。私はもう少しこやつを楽しみたい」
「ひっ! ひぃっ――」
可哀想な騎士だ。
これから彼は、恐らく地獄を見るはめになるだろう。
カレンはそう思った。
「じゃあ、先に行ってるわね。シャドウ」
「はい、お嬢」
二人は踵を返すと、来た道を歩いて戻って行
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