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硝子玉
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04
− 癖 −
ガチャリ...
「ただいまー!!」
壊れるかと思われるほど勢いよくドアを開け、大声をあげて弟の返事を待ちつつ重い青カバンをしへとょったままリビング向かい始めたとき、
「おかえりー!!」
いつもの弟の大声がかえってきた。だが親の返事はかえってこない。かえってくるはずもなかった。
僕のお父さんは考古学者をしていた。僕が5歳の時、そう、弟が生まれてまもないときに一通の手紙姿をくらました。
複雑な内容だからよく覚えていないがどこかの遺跡に調査をしに行くと書いてあったような気がする。そしてそのままお父さんは蒸発した。
弟は生で顔を見たことはないが写真という記録が壁に貼ってあるから顔を知らないわけではなかった。
お母さんは...1年前に大惨事が起こり、今は植物状態で病院にまだ入院している。
「遅かったね。どうしたの?」
「い、いやなんにもないよ。そうそう、今日の晩ご飯なに?」
一瞬ギクリとする。流石に今さっきあったことは言えなかった。するりと話をそらして回避する。
「今日のご飯はカレーだって。何週間ぶりだろうね。」
弟はまだ中辛が辛くて食べられないと言っているが、実は最近甘口と中辛のルゥがブレンドして出されている。
もちろん弟は知らない。自分でも知らないうちに成長していることがしみじみとわかる。
「へぇ、よかったな。じゃあちゃーちゃんがくるまでにちょっとテーブル片づけておいて。」
そう弟に伝え、よいしょっとずっしりと重いカバンを背負って2階にのぼってゆく。
ちゃーちゃんとは僕たちのお婆ちゃんのことだ。お母さんが入院してからずっと世話をしてもらっている。
ギシギシと少しだけ階段が悲鳴をあげる。暗闇のなか手探りで廊下の電気をつける。
廊下がギシキシと音を出しながら歩き、自分の部屋に入る。ドアを閉めようとしたときにふと『哲の部屋☆』と書かれたドアが目に映る。
あんなことさえしなければ...
1年前の惨事が一瞬だけフラッシュバックする。
いやいや、今はこの体に生まれかわってしまった。一旦忘れなければならない。
そう自分に言い聞かせいつもより大きな音を出しながらドアを閉めた。
「...今日なんかあったんかな?」
首を少しだけ傾けながらテーブルの上にあった保護者向けのプリントを片づけていた。
部屋―
最近パソコンが謎の故障を起こしてしまったのでまったく使っていなかったお年玉を崩して新しいPCを買った。
今はメールを確認することが新しい日課となっている。
「なんも来てないな...」
毎日のようにメールをくれる友達もいるが今日はなにも届いていなかった。
今日の授業で寝た分のノートを優しい誰かが送ってくれると微かに期待していた僕は落胆した。そもそもそんなに人に尽くしてくれる人は僕の周りにいないことぐらい知っているはずだった。
その直後下から
「できたよー!!」
と無邪気な弟の呼ぶ声が聞こえた。どうやら準備ができたらしい。
「あぁ、今いくよー!」
1年前のかくれんぼと同じように降りてゆく。ただ前と違うのは自分の歯車が狂っているということだった。
場所は変わり―
ここは警視庁の倉庫...いや天井からぶらさがっている横長の看板には『公安部公安第五課未詳事件特別対策係』と書いてあるからには仕事場なのは間違いない。周りからはもっぱら『未詳』と略されている。
倉庫特有のホコリ臭さや場に漂うヌルさからには仕事場についていた2人に倦怠感を感じさせる。
そこへ
「ただいまっす。」
とリフターで上がってくる女が1人。地味な猫背で、赤いキャリーバックを
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