俺は人に害をなす悪竜を成敗して回る、竜退治の専門家だ。
……いや、だった。と言った方が正しいか。

今俺がいるのは、20mはある巨大な竜の足の下。
戦いに敗れたドラゴンスレイヤーの末路。
助かるのは絶望的だった。

「くそっ……殺せ!!」

俺は憎らしい敵に悪態をつきながら、その下からどうにか抜けようともがく。
竜はこちらを嗜虐的な目で見下ろしたまま動かない。
なんだかいつも退治してきた竜と様子が違った。

「ときに……人間。ワタシの趣味に付き合ってみる気、な〜い?」

竜が足にぐっと力を入れると、身体全体に鈍い痛みが走る。
俺なんかいつでも殺せるという事か。

「もし、最後まで付き合えたら助かるチャンスをあげる。その気になれば、だけど」

「何だって……」

「ワタシに食べられてみない?」

……それはひょっとしてギャグで言ってるのか?冗談じゃない。

「な、何を言ってるんだ!食われたら助からないじゃないか」

「あ〜ら、そんな事ないのよ?ワタシね、獲物でじ〜っくり遊ぶの大好きなの。
 でもね、ほとんどの動物って食べるとすぐに動くのやめちゃって、つまらないのよね。
 そうね……最後は痛くないように丸呑みにしてあげるから、その後お腹から吐き出してあげるわ。
 それまでたっぷりと抵抗してワタシを楽しませてね。
 それとも今すぐ、死ぬ?」

俺に選択肢は残されていないようだった。竜の言葉を信じるしかなかった。

「わ、わかった……じゃあこの足をどけてくれ」

「大丈夫、何ならワタシに呪いをかけてもいいわ」

竜はニヤリと笑ったように見えた。こちらの不安を見透かされたのだろうか。
しかし、こちらにとっては願ってもいない申し出だった。
俺は言われたまま、足の下から這い出ると、竜に約束をたがえれば即死する呪いをかける。

「オッケー、じゃあ、準備はいいかしら?」

言うが早いか、竜は俺の目の前50cmもないところまでその巨大な顔を近づける。
そのままゆっくりと、大きく口を広げる。

「ほ〜ら……ワタシのニオイで一杯でしょう……?
 今からこのおっきくてやわらか〜いベロを押し付けてあげる……」

竜の口がつま先から頭を軽く超えるほど開かれると、
喉の奥から匂いが漂ってくる。すさまじく甘いニオイ。催淫効果のある誘惑の吐息。
一部の竜はこれで獲物を魅了しておびき寄せると聞いた。

その口からは弛緩した分厚い舌がでろりと飛び出していた。
その厚みで俺と竜の距離はほとんどなくなるほどで、舌自体の匂いが漂ってくる。
さすがに生臭い。本当はこんな口臭なのだろう。
口の中全体が鈍く光っているが、唾液はまだほとんど分泌されていないらしく、
ねっとりした肉の質感が舌中を覆っている。

べちょり

不意に舌を押し付けられる。身体全体を覆うほど巨大な舌。
首から下全体が舌の暖かく、ぐにょぐにょした感触におおわれる。
力を目一杯抜いているのか、張り付くような柔らかさで、
その幅は俺の肩をすっぽりと覆うのに充分だった。
舌のカーブに沿って身体中を包まれたまま、竜がその舌をゆっくりと動かす。

「あう……」

滑らかな粘膜の触感。
身体を巨大なカタツムリに這われているかのような感触に、
俺は情けない声をあげるしかなかった。
じっとりと唾液を含んだクッションのような舌を身体中、顔面にまで押し付けられる。
舌が離れていくと、顔や身体から濃い唾液の糸が伸びていくのが分かる。
量は少なくても濃厚な唾液は、獲物を前にしているからだろうか。

「さあ、これからどうしてあげようか」

竜は……

 

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