口内よりも狭く感じられる食道の肉壁の中を、どこか耳障りにも聞こえて来るような…ズリュ…クチュ…と言う音を立てながら、頭から下って行っている感覚は分かる。肉に挟まれ、体内の粘液が付着し、それらの冷たさで意識を手放しそうになるが、どうにか手放さないように必死に頭を醒ましていく。 そんな事をしている数秒の間に、狭い食道を抜けた先、胃袋へと抜けた。胃の中の口内のようにひんやりとしていて、抱きついたり思い切り寄りかかったりすればそのまま取り込まれてしまいそうな程に柔らかい胃壁に囲まれている。 「…ぅ…呑み込まれ、たか…」 胃に入り込んで一息置いた辺りで、意識が朦朧(もうろう)としている中、小さく呟いた。仰向けになり、ドクン…ドクン…と微かに響いてくる心臓の鼓動を聞きながら、ゆったりと揺れる胃壁を感じていた。 そんな時、ゆったりとしていた胃壁の動きが徐々に激しくなっていき、呑み込まれたエルガの体もそれに合わせて揉まれるように弄ばれていく。どうやら、自分の持つ柔らかなお腹を揉みだしているのだろうか。胃が収縮し、挟み、そのまま揉み下されていく。体を拘束されて、全体で大きく激しく揺らされていく感覚は、遊園地などにある絶叫マシーンのどれよりも激しいもので、気分が悪くなってくるだろう…。 目が回り、胃の中の物を全て吐き出してしまいそうになるエルガも、それに必死に耐えた。と、急に体の拘束が解かれ、開放感を覚えた。もう何が何だか分からなくなってきている彼は胃壁から解放された状態のまま大の字になってぐったりと寝転んでいた。すると、胃壁から液体が漏れだす音が僅かに聞こえてきた。その音から始まり、トクン…トクン…と徐々に胃液が出始めてきた。 ただ、その分泌される胃液からは、何やらキラキラと光る粒子が見えた。それが明かりとなって、薄暗かった胃の中を僅かに照らしていた。胃液と同時に、その光の粒子はエルガに吸収されるように吸い込まれていく。 彼女は、リヴェーヌ先生は水竜だ。それも彼女は特別な存在。呑み込んだ相手を消化する事は出来なくとも、大気中や生物、植物の持つ「気」と言う生命力を取り入れて栄養としている。胃液はその光の粒子、「気」を吸い出す働きをしているのだ。また、その逆も…。 「気」を徐々に体に染み込まれていくうちに、自分の思考が、指が、腕、上半身、体全体がじっくりと戻り始めてきた。視界も、薄暗い空間にしてはハッキリと見える感覚も分かる。意識もはっきりしてくる。体も言う事を聞いてくれ、仰向けの状態からスッと上半身を起こし、活力が戻ってきたのを教えてくれた。 それを実感している間に、再度胃壁が波を打ってエルガを包みこんだ。先ほどとは動きが違う…それは包み込んだと同時に上へ上へと押し上げられていた。 …喉の膨らみがゆっくりと、確実に頭の方へと戻っていく。それを感じながら、リヴェーヌ先生は呑み込んだモノを吐き出そうとしていく。そして… …グチュ…ゴプ…グバァ… 口まで戻し、両手をお椀のように重ねると、その上に呑み込んだエルガを吐き出した。体中が胃液や唾液に濡れているところ以外は、とりあえず大丈夫そうだ。吐き出されて、すぐさま起き上がったエルガも、体を濡らしたモノを気にしているだけだった。 その様子を見てリヴェーヌ先生は、畳んで揃えていた大きく清潔なタオルを一枚手に取ると、慣れた手つきで手の上のエルガに付着した液体を拭い取っていく。慣れた手つきで、優しく撫でるように拭き取っていく。数分後には、綺麗さっぱりの、普段と変わらない彼の姿があった。 「あ…先生、ありがとうございます」 「ふふ…どういたしまして」 少し慌てた様子で頬を赤めらしながら礼を言うと、笑顔で返す先生の姿も見られた。 リヴェーヌ先生に活力を分けてもらい、すっかり元気を取り戻したエルガは、最後にベッドに寝かせてある橙の様子を一目見て、改めて礼を言ってから保健室の扉に手を掛けて、出ようをした。その時だった…。 「ちぇえええええええん!」(←ここの「ちぇ」の後の「え」は7回が基本です) …バコーン!… 扉を引いて出ようとした瞬間、勢いよく扉が開かれ、彼の鼻先に思い切り打ちつけた。これは痛い…。 大声をあげて入ってきたのは、金色の短めの髪、フリルと2つの二等辺三角形のついた白い帽子に、白い式服に青の長い前掛けのような垂れがついた服を纏って、背中の方には9つのフカフカな黄色き尻尾を持っている女性だった。 「あら、藍(らん)先生…どうかされました?」 「橙は。橙と、エルガはどこに?!」 リヴェーヌ先生の掛け声にも耳を傾けず、藍と呼ばれた式服の先生は橙とエルガを必死に探しているようだった。 「橙ちゃんなら、ベッドで寝ています。エルガ君は…あそこに…」 と言いつつ、鼻を押さえて声を殺し、必死に痛みに耐えているエルガを苦笑いになって指した。 それを聞いた藍先生は一度落ち着きを取り戻し、ベッドの方に向かった。ぐっすりと寝ている橙の様子を見て、ホッと安堵のため息を漏らすと同時に、キラーン☆と言う漫画のようは鋭い目つきでエルガに視線を向けた。 |