「・・みんな・・元気かな・・?」
僕はもう見慣れた森を歩いている。
あの頃はいつ襲われるか分からず、ビクビクしながら歩いていたけど、今は何も恐くない。
今でもここによく薬草を取りに来ることはある。でもアレには最近逢っていない。
怒っているかな・・・?眠っているかな・・?
今日は・・って、ここ最近は鈴を付けてはいない。
それでは丸呑みにされてしまうが、そんな必要はない。
だって・・・僕は・・
「お兄ちゃんっ!」
「あははっ、元気だった?」
樹海を抜け、広い空間に出た瞬間、小さな、僕と同じぐらいの黒狼が僕を押し倒した。
僕は笑いながらその黒狼に答えた。
別に殺される訳でも、喰われる訳でもない。
「これこれ、先に行くでない、主。」
「お母さんっ!お兄ちゃんが帰ってきたよっ!」
小さな黒狼に遅れること数秒、今度は巨大な黒狼が姿を現した。
「そなた、帰っておったのか。何やら懐かしい匂いがすると思うたら・・全く・・」
「えへへ・・ごめんね・・忙しくて・・」
「ふぅ〜・・全く儂の所へ来ぬから死んだのかと思うたぞ?儂を心配させた罰じゃ。」
ベロリ・・グジュジュッ・・
黒狼が僕の頬をじっくりと舐め上げた。
肉厚の柔らかな重舌がザラザラと頬を舐め、ねっとりとした唾液を存分に塗り付けた。
「ん〜〜・・美味いのぅ・・そなたよ、次はいつ喰わしてくれるんじゃ?」
「しばらくはダメだよ。僕だって喰われるのはまだ、慣れなくて嫌なんだから・・」
「何じゃ・・興ざめじゃのぅ・・・」
顔をしかめて本当に残念そうに言う黒狼。
細められた双眸から覗く血の紅眼。
獲物を見据えるその眼にまだ、恐怖心を拭いきれない。
「ほれ、毛繕いをせぬかっ」
黒狼はその場に伏せ、仔黒狼はその隣で伏せる。
定期的に逢いに来なかった時はいつもこうだ。
頬をじっくりと舐め上げ、僕に毛繕いをさせるのだ。
僕は黒毛を丁寧に掻き分け、毛に付いた埃など手で取っていった。
「・・早いものじゃな・・そなたがあんな事を言ってからもう二年じゃ・・・」
「そうだね・・人間じゃ無くなった時からね・・・二年・・・か・・」
「え・・お兄ちゃん、ヒトじゃないの?」
その話に好奇心を擽られた仔黒狼はその蒼空の如き蒼い眼が僕を見上げる。
黒狼は首をこちらに向けその紅眼で僕を懐かしそうに見ていた。

 

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