短編集:ハロウィン小説 【お菓子をくれないと○○するよ!】



ふと気になって時計を見ると時計の両方の針が丁度12時を指すところだった。
だからかぁ〜……外が真っ暗で眠たいはずよね。

「うっ…う〜ん〜 さすがに眠たい……」

気を抜くと今すぐにでも、
眠ってしまいそうな眠気が絶えず私を襲ってくる。
でも、今眠ってしまうわけにはいかないの……

「うぅ……あと少しなんだから、頑張れ私!」

気合いを入れ直すために何度も頬をパンパンと叩いてみると、
ヒリヒリしたけど……少しは眠気が消えてくれたみたい。

「ふぅ……中々、お菓子を作るのって大変ね。」

軽くため息のような深呼吸をすると、
少し乱れていた頭に巻いてある白頭巾とエプロンの位置を、
さっさっと直して気を取り直し、改めて一生懸命に作業を進めていく。

「よしっ ここで卵を入れてっと……」

今日……何度目かの手順を口走る自分の声と、
カシュカシュと自分がステンレスのボールを泡立て器でかき混ぜる音が耳に響いてくる。
こうやって少しでも喋っていないと……
このかき混ぜる音に魅了されて寝ちゃいそうなの。

最初は、リヴェーヌが『アイゼン……何をしているの……?』と
作業をしているテーブルに齧り付き、不思議そうにしつこく聞いてきていた。
その相手をするのが、結構いい眠気覚ましになっていたんだけど……

だけど……段々と時間がなくなってきて、
私があまり相手をしてあげられなくなってね。

……そうしたら、ちょっと拗ねちゃったみたい。
いつの間にか隣の部屋に行ってしまって、ずっと帰って来なくなっちゃった。

さっき疲れて少し休憩をしようと手を止めたときに、
悪いことしちゃったなって、隣の部屋を覗いてみたら……

『スースー…アイゼン……クッキー頂戴……』

寝息と一緒に可愛い寝言が聞こえてきて、思わず笑っちゃった。
リヴェーヌありがとう……御陰で少し元気が出たよ。
だから、貴方のそばにあるクッキー……
こっそりつまみ食いしたのは許してあげる♪

おっと、作業を続けないと……
必死に手を動かし、作ったクリームに薄力粉を加えて、
ヘラで全体を馴染ませるように混ぜていき、きちんとしたクッキー生地を作っていく。

この作業を何度繰り返したのだろう……もう覚えていないな。

でも、出来上がったお菓子を見つめ、
次にカレンダーを見つめるとウキウキと気分が高揚してくる。

「ん〜 何とか間に合いそうね良かった。」

明日はハロウィンだった。
いつもお世話して貰っている人たちに、
お礼をしたくて始めたことだけど、まさかこんなに大変だなんて……

でも、その作業もあと少しで終わりそうだ。
最後のクッキー生地をいろんな形にくり抜きプレートに乗せれば、
後はオーブンに入れて焼くだけだね。

「ん〜 いい匂い♪」

椅子に座って焼き上がるのをじっと待っていると、
オーブンから生地の焼けるとってもいい匂いが私の鼻をくすぐって、
いつの間にか笑っていた。

その後、焼き上がったクッキーをいろんな大きさの袋に詰めて、
ようやく今日の作業が終わったときには4時を回っていて、もう限界……

「……うぅ……疲れたよ〜
 私……お疲れ様〜 そして、お休みなさい〜」

もう、殆ど頭が回ってなくて、
自分で自分に労いの言葉を書けた後……

バッタリ!と、リヴェーヌが一人で占有していたベットに倒れ込んでしまった。
すぐに睡魔が私に襲いかかってきて……
自ら望んで意識を睡魔に譲り渡していった。



あれからどれぐらい経っただろ?
いつの間にか日差しが強く私のまぶたを焼く。
身体がドンドン覚醒に向かい。
……そして、私は日の光に眩しそうにまぶたを動かしながら目を開いた。

「うっ……うぅ〜〜ん……なんか、身体軽いわ♪
 眠ったら疲れが全部とれたみたいね♪」

目が覚めて、起き抜けに思いっきり伸びをすると、
昨日あれだけ重かった身体が妙にスッキリしていて……
とても不思議だ……って!

「なにこれ〜 服や身体がビチャビチャじゃない……」

それどころか、自慢の髪もベトベトになって、
背中に張り付いているのが、さすがに気持ち悪くて酷く動きにくい。
こんな事をする奴は……
私の知っている限りアイツしかいない!

「……リヴェーヌっ! 貴方また、やったわねっ!」

怒声をあげて部屋中を見渡し、
リヴェーヌの姿を探すが、逃げたのか姿が見えず……
変わりにこんなメモ書きが近くに落ちていた。


『ふふふ……やっぱりクッキーより、
 アイゼンの方が何倍も美味しかったわ♪
 
 PS ごめん許して♪ 
    アイゼンの寝顔を間近で見たら思わず♪』


わ、私も……お、思わずクラッと目眩がしたわよ。

貴方のメモ書き読んでいたら、こう……何かが込み上げるかのように……
メモ書きを持つ手に勝手に力が入ってきて、
クシャクシャにしてしまうぐらい元気になっていた。

「ふっふっふっ……リヴェーヌ……
 後でキッチリお礼参りするから、覚えてなさいよ……」

今の私がどんな顔をしているのか自分では分からないけど。
リヴェーヌが、たまに怒った私を見たとき……
青ざめて逃げ出したりするから多分そんな顔をしているんだと思う。

だけど、ここで怒っていても仕方がないから……
ハァとため息をつくとリヴェーヌの色々な体液で、
ベトベトにされた身体をお風呂で洗い流し新しい服に着替えていく。

「それにしてもリヴェーヌ。
 最近こっそり食べるのが上手くなったな……
 気をつけないと、また寝ているときに食べられそう。」

ちょっと複雑な気分になりながら、
私は頭にリヴェーヌの姿を思い浮かべていた。

「う〜ん……別に食べられるのは良いのよね。
 ただ、私は呑まれるときの感触を……」

思わず自分の被食に対するこだわりに浸たりそうになったけど……
着替え終わって、ふと何気に目に留まった時計を見たら、
ピシッと私の時間が硬直した!

「……13時っ!」

時間が動き出した瞬間にお昼の湖に私の悲鳴が木霊した。
急いで、支度を済ませ小屋を飛び出していく。

沢山の荷物と一緒に私の目指す場所はあの場所だった。

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