どろどろの、柔らかい肉のひだに自分から何度も身体をこすりつける。
力をかけると、胃袋の粘膜にどこまでも沈み込んでいく。
ぐちゅぐちゅ、ねとねと、むにむに、ぎゅうぎゅう。

粘膜の海の中を泳いでいるような感覚。
身体全体をすきま無く胃粘膜が覆っている。
正常な感覚はとうに消え、快楽を貪るだけの心。
一体化してしまうことへの昂揚感。

俺は、そのまま、いつのまにか、意識が、溶けて、
くらい。ぬめぬめ。ひとつに。きもち。いい。 。
……

ぬるぬるした粘膜の管を通っていく感覚。
あれ、なんだか懐かしい感じがする。
だんだんと光が瞼の中に入ってくる。
遠い昔の、いつかの記憶。
そうして、俺は泣き声を上げた。


どちゃっ

何か革のようなものにぶつかった。
意識がだんだんと戻ってくる。
生きてる。本当に明るい。寒い。
まぶしくて目があけられない。
身体をまさぐると、ねっとりとした液体に身体中覆われている。
目が慣れてきた。身体中を覆う液体が空気に触れて、冷たい。
俺はやがてうっすらと目を開きだした。

目の前にあったのは竜の顔だった。
吐き出された……ようやく自分のみに起こったことを理解した。
身体中をまんべんなく覆っているのは胃液や唾液、粘液。
俺はいつの間にかスライムのような状態になっている。
それらが空気に触れて、鼻が取れそうなほどの匂いを発していた。
手の上に乗った俺を見下ろす竜の顔は、どことなく優しげだった。

「あらあら、べとべとになっちゃって。
 言っただろう。ワタシは満腹なんだ」

竜はかるくゲップをしながら、腹を撫でる。

「次の獲物が来るまで、お前はワタシのおもちゃだよ」

そういいながら竜はべろりと舌なめずりをすると、
大きく口をあけ、粘り気のある唾液を俺の上に垂らしてくる。
うれしい。

「まずは"綺麗"にしなくちゃ」

そうして俺は、次の犠牲者が現れるまでの間、
巨竜の虜として食われ続けた。

 

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