その頃には、我先にとたかってきた野次馬達も少なくなっていた。殆どの生徒は自分達の教室へ帰り、廊下には教室から聞こえる話し声が響き渡るだけだった。
そんな廊下に、先ほど一人の生徒を呑み込んだハダーの姿だけが残っていた。自分の鰭でポッコリと膨れたお腹を撫でながら、怪しげな笑みを浮かべていた。
呑み込まれて胃の中に入ってしまった生徒、ガイアは、力尽きて胃壁に寄りかかるような態勢でグッタリとしていた。もう動く力も気持ちも失ってしまったのだろうか。
そこに追い打ちをかけるように、胃壁からゴボゴボと音がしてくると同時に、大量の胃液が流れてきた。

「さあ、旨カったガイアちゃん。そろそろ納め時だゼ、ヒャハハハハ…」
「ぅえ?…嫌だよぅ…あっ…痛ぃっ…」

ハダーは悪魔の形相を見せながらお腹を擦り胃壁を揺らし、ガイアに満遍なく胃液をかけていく。
それに釣られるようにガイアは痛みと不安定な空間に呻き声をあげてピンボールの球のように弄ばれる。が、その動きを楽しむかのように怪しげな笑みを浮かべ、更に胃全体を揺らして弄んでいった。
…それから数分の経たないうちにガイアの呻く声も弾かれる感触も無くなったかと思うと、ハダーのお腹にあった膨らみも消えているのであった。

「…ゲエェェェェェェェェプ!!!ヒャハハハ…旨かっタゼ、ガイアちゃん。じゃぁまたな!」

巨大なゲップを周りに撒き散らし元気よくその台詞を捨てると、そのまま何も無かったの様にいそいそと捕科の教室へと戻っていった。なんとも乱暴なものである…。

…そして、食べられて消化された後のガイアはと言うと…。

「…ヒドイ…」

うっすらと透けた体、もとい霊になった体でボソッと呟くしかなかった。その体で周りを見回してみるが、そこには誰一人としておらず、怪しくも感じられるほどの静かな空気が漂っていた。

「…僕…このままなのかなぁ…」

両の目にうっすらと涙を浮かべつつ、その場に佇(たたず)んでいた。と、その時…。

「ふむ?どうしたのかね?」
「…ぇ…あ、校長、先生…?」

泣きっ面のまま声を掛けられた方を向く。そこには校長のセイウンがいた。

「…えぐっ…どうして…?」
「たまたま被科棟から声がしたのでな…その様子を見ると、誰かに食べられたようだな…」
「うん…怖い鮫さんに…」
「アイツか…困ったものだな…」

そんな会話をしながら、セイウンは霊体のガイアを自分の手の上に蘇生をした。ガイアはいきなりの事で何が起こったのか分からない様子を浮かべていた。

「え…と…」
「まぁ、この学校ではその行為が当たり前だからな…気をつけるのだぞ…」

そのまま蘇生したガイアを床にそっと降ろすと、忠告するように言葉を発した。その様子に小さく溜息をつくと、セイウンの方を見て、

「あ…ありがとうございました…」
「ふふっ…今度から気をつけろよ」

小さく礼をして、自分の教室に帰っていくのであった。それからセイウンも事を片づけたと言う様子で校長室へと帰って行った。

 

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