化身術は、まあ簡単にいえば、自分の上から化けの皮を被る感じだな。
本来の自分はそのまま、姿が全部変わる。
それは、化ける段階によって変わる。
俺の教えるやり方なら、一から五の段階だ。

一は、ただの妖気だ。ただの布をかぶってる様なもんだ。
二は、まぁ一よかは厚い皮だな。でも、他人に化けたときに声が変わらねぇ
三は、まともな皮だ。声も変わる。これが基本的に使う段階だろう。
四は、ほとんどそっくりに化ける。化けた奴の心理が少しは分かるようになる。
五は、記憶以外全部、ほぼその相手になりきる。これは、術を解かれても、五はそう簡単に解けない。

一でも五でも、その化身が殺されれば、その化身の横に化ける前のお前が出てくる。
使えなくなった化けの皮から抜け出した感じだな。
化身が使えなくなる前でも抜け出すことはできるぞ。
俗に言う分身もこれでできる。もちろん元に戻ることもできる。
そうだ、遺体は変に放置するんじゃないぞ。自分で処分しろ。



血にまみれたアナグマの子供を前にして、僕はニタ公の教えを思い出していた。
猫股岳で1時間。その中で頭に叩き込まれた。
学校で習う英語なんか全く頭に入らないのに、これはすっぽり頭に入ってきた。

今、僕は、尻尾を隠すために三段階目で化けている。
だからこの体が幾ら傷付こうと、化身が傷を負うだけ。
つまり化身が解けて、その化身から抜け出すだけだ。





『…このアナグマの子の傷を全て僕に移せ。 僕があの子の傷をすべて負う。 そしてあの子は全ての傷から解放される…』

僕は爪につけてあるあの魔法の石、全知全能の石に、呟いた。


その瞬間、石が蒼く光り、願いを聞き届けた。

ズシン!!
『…ぐあっ!!』

僕は、空からの見えない力に押しつぶされた。

息ができない…
視界がぼやける…
何よりも、痛い…!!

『うああああああああああああああああぁぁぁぁぁ・・・ぁ・・ぁ・・・・…ぁ……』



体が何も感じなくなった。




腹の底から出た悲鳴も、小さくなっていって、消えた。



体が軽くなって、全ての痛みから解放され、それに合わせて僕は何も考えられなくなった。



















『………………!』





『ダ………イ…!』







『ダブルテイル!』



ダブルテイルって誰?



『ダブルテイル!!』



僕は… 吉祥だよ…

ダブルテイルって…




『ダブルテイル!!!』




…あれ、

その知らない名前も、僕に向けて言われてないぞ…?



そりゃそうだよ…


僕は 吉祥だもん。
ダブルテイルって言うのは赤の他人じゃ…



『ダブルテイル!!』


『はいっ!?』



体が鞭打ったように起き上がった。


そして、足を着くのに失敗して見事にひっくり返った。


『いてて…』


『ダブルテイル起きろよ!!!』


『・・・』


頭がぼうっとしているが、だんだんはっきりしてきた。


ダブルテイルって僕じゃないか!

誰だ赤の他人なんて言った奴は!


…僕か。




『ダブルテイル!!!』


ちょっと先から切羽詰まった声が聞こえる。


『何さ何さ?』

呟きながら歩いて行くと、オレンジの猫。(ああ、ファイヤスターだった。)が、黒い毛の塊に向かって叫んでいる。


『ダブルテイル! ダブルテイル!』

・・・え〜っと?
これは…


『お帰りなさい、陛・・・ ダブルテイル。』
今度は背後から。

振り向けば、脚があり、見上げれば、竜人が、(あ、レオンか…)立っていた。


『うん。  えっと、そこでマジで叫んでる彼はどうしたの?』
『ファイヤスターさんは、ダブルテイルが最後の悲鳴を上げた途端に振り向いてしまって、ダブルテイルが倒れたのを見て、急いで駆け寄って、アナグマの親子を追い払ってしまって、それからあの調子です。』

説明は長いが、状況をつかむのにはもってこいだ。

『んじゃぁ… アナグマの子供は無事だったの?』
『はい。アナグマのお母さんは、アナグマの言葉で何回もありがとう。って言ってましたけど、ファイヤスターさんに追い払われて、やっぱり猫は信用できない。って愚痴ってましたよ。』
『あちゃぁ…』

『ダブルテイル!!! ダブルテイル!!!』

アナグマと猫との和解をぶち壊した当の本猫(ほんにん)は、未だに抜け殻に叫んでいる。


『教えずらいね…』
『ですね…』

『ダブルテイル!!』

察する様子は無い。
教えてあげなくてはいけないか…


『あ〜 オホン! ファイヤスタ…』

『ダブルテイル!!』

聞いてない。



こうなったら…

あの時、族長の部屋でファイヤスターはホワイトストームの事を先輩。って読んでたな…


ホワイトストームさん、声、お借りします。

『おい!ファイヤスター! 何やってんだ!』
ホワイトストームの声でファイヤスターに怒鳴った。

ファイヤスターが飛び上がった。
先輩から怒鳴られると族長もビビるのね…

ファイヤスターは、尻尾を膨らまして周りを見回した。

しかしもちろんホワイトストームはいないし、いるのは僕とレオンだけだ。


ファイヤスターは、やっとの事で僕に気づき、驚いて、抜け殻と僕を交互に見た。

『…どうなってるんだ!? ダブルテイル!無事だったのか!』


…嗚呼。哀れ。 ただ単純なだけに見えるよ。族長さん。

『じゃあこっちのは…』

『それは抜け殻。ホラ。そっちは尻尾1本だけど、今の僕には尻尾が2本ある。』
そう言って尻尾を見せた。

『え? …どういうこと?』


ダメだ族長…


『ねぇ、僕よりも真っ先に心配するべき仲間がいるんじゃない?』

そう言い切る前に、息が上がってしまったグレーストライプが、サンドストームに支えられて歩いてきた。

『さっきからダブルテイルダブルテイル言ってたけど何事? 森じゅうの獲物が驚いて逃げちゃうわ。』
サンドストームが冗談がらみで言った。

『何があったんだい?ファイヤースター。あと… ホワイトストームも来てるのかい? 声が聞こえたけど…』

さあ族長。どうする?
族長を見たが、物凄くうろたえている。

仕方ない。俺が話すか。

『特にどうってことないさ。まずね・・・』

そうしてグレーストライプとサンドストームが狩りに行ってから起こったいろんな事を説明してやった。
レオンがいきなり現れた事。
二本足と遊んでたんじゃなくて、じゃれ合い(ケンカ)だった事。
ファイヤスターは見守ってただけだという事。
そして、どうやってアナグマの命を救ったのか。

『…つまり、そこに落ちてるのは、化身術の抜け殻。あの中には魂は残ってないよ。』

化身術の説明も終わった所だ。

聞きおわったグレーストライプが僕に向きなおって、真っ直ぐ座った。

『ピンチを助けてくれてありがとう。本当に感謝するよ。』

『なぁに。どうってことは無いよ。』



なんとか丸く収まった。

あと、ファイヤスターの名誉のために言っておけば、彼がこんなにペースを乱してしまっているのは、僕のせいだろう。
僕が輪を乱すから、どこかでひずみが生じているんだと思う。

多分ね…。

『んじゃ俺は遺体処理に… あ、レオン、来てくれる?』
『はい。へいk・・・ ダブルテイル。』
また間違えそうになってる。いずれ慣れるだろうけど。

僕は、自分の抜け殻の前に座った。


酷く傷ついている。
血も流れていて、黒い毛に血の跡が付いている。


…自分は、猫股でなければ、いずれこうやって死んだかもしれないんだ。

そう心の中で呟いた。

『ダブルテイル。これを処分したいんだけど…』

少し間をおいてズバリ聞く。

『コレ、食べる?』
『ハイ♪』
即返事が返ってきた。待ってました!と言わんばかりに…

『彼らに見られないように食べてよね… できれば僕も見たくないから…』

そう言うと、レオンは僕の抜け殻を持ってどこかへ歩いていき、戻ってきたころには腹が膨らんでいた…


ああ… 僕もそのうちあの膨らみになってしまいそうな気がする…
そう遠くないうちに… 


   ※         ※         ※

そうしてしばらく経った頃。


『よし、真夜中だ。』


ファイヤスターが言った。



『母なる口へ行こう。』

 

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