体を捻り、逆向きへ動かした。
しかし、肢が地面に着かなかった。

『え? え…?』

肢が浮いている!
いくら足を動かしても、地面に付かないので動く事ができない…

『驚かして悪かったけど… あれはにんげ… じゃない。 二本足じゃないよ。』
『だ… だって… 』
『まぁ、二本足で立ってるけど、二本足じゃなくてあれは竜人っていうの。』
[はじめまして。 私は吉祥陛下のお世話係、レオンと申します。]
レオンと呼ばれた竜人は丁寧にお辞儀をした。

しかし、何と言ったのか分からない…
『レオン、こっちの言葉喋れないの?』
[人語までしか無理ですよ。聞くことしかできないです。]
ダブルテイルは何と言ってるのか分かるのだろうか?
自分には唸り声にしか聞こえないが…
『ダブルテイル、彼、何て言ってるの?』
『レオンは、人語までしか分からない。って言ったの。でも、聞く事はできるんだって。』
[ダブルテイル?]
『ああ、僕の偽名。ここでは吉祥はNGワードね。』
[はぁ、陛下…]
『陛下もダメ。』
[え、 じゃぁ… ダブルテイル…]
『それでよし。』

[…ブフッ!]
『ああ〜〜! 笑った〜! コノヤロっ!』
ダブルテイルが、レオンに飛びつき、レオンの顔につかまった。それを振り払おうとレオンは体をくねらせている。
なかなか見ていておもしろい。


『ファイヤスター…? ダブルテイルも…』
後ろから声がしたので見てみると、グレーストライプとサンドストームが、恐ろしいものを見た顔でこっちを見ていた。
『ダブルテイルの怯えた臭いをたどったら… 二本足と…』
グレーストライプが後ずさりを始めた。
『二本足の元に戻る気なの…?』
サンドストームは、地面に顎が付くくらい低く構えている。
『違うんだ! 彼はダブルテイルの…』
『あぁっ! このやろっ! ファイヤスター手伝って!』
ああ… 最悪のタイミング… ダブルテイルは狩りに行っていた2匹に気づいていない。

2匹は、目配せをして、体を翻して走り出し、草の向こうに見えなくなってしまった。

『待ってくれ! 違…』

しかし、そのすぐ後。走って行った2匹の悲鳴が聞こえた。

走れ! という指令が頭から出る前にとっくに走り出し、2匹の所まで駆けつけていた。

そこには、森に住む全ての猫の敵、アナグマと2匹の猫が睨みあっていた。

しかも、アナグマの足元には、茶色の毛の塊が落ちている…

…アナグマの子供だ…


『違うんだ… 悪気は無かったんだ… まさかそんな…』
グレーストライプがしきりに何かつぶやき続けている。

アナグマは、ゾッとする鳴き声をあげて、グレーストライプに迫っている。
グレーストライプは、それに合わせて後ずさりするだけだ。
サンドストームも、助けるに助けられなくておどおどしている。

多分、グレーストライプが、走って行ったときに、アナグマの親子に気づかずにアナグマの子供を踏みつけ、殺してしまったのだろう…

アナグマは、グレーストライプに復讐しようとしている。
グレーストライプは、本気を出せばアナグマなんぞに負けないだろうが、子供を殺しておいて、そんな事が出来るはずはない。
サンドストームも、同じ理由で追い払えずにいるのだろう。

もちろん自分も…

そんな事を思っている間にも、アナグマは唸りながらグレーストライプににじり寄っていた。

グレーストライプは、いろいろ呟きながら後ろに下がっていたが、木にぶつかり、道が断たれてしまった。

アナグマがゾッとするような叫び声をあげ、グレーストライプに近づいて行った。
『やめてくれ… 違うんだ… 違うんだ…』
もう木があって下がれないのに、しきりに足で地面を押し、下がろうとしている。

『逃げろ! グレーストライプ!』

彼に向って叫んだが、グレーストライプはもう動けなくなっていた。


アナグマが、グレーストライプの目の前で止まり、恐ろしい声で叫び、腕を振り上げた!


『グレーストラ…』
言おうとした瞬間、目の前を何かが走った。

ダブルテイルだ!

大きく跳び、ひと飛びでグレーストライプとアナグマの間に割って入った。

そして、前足2本で、アナグマの腕を受け止めてしまった!


〈うちの戦士猫が失礼な事を致しましたっ! でも、こんな事をしていたらまさに子供が息だえてしまいますよっ!〉

ダブルテイルが、両手で受け止めたまま、訳の分からない言葉を発していた。
今度はアナグマとお喋り…?

〈あたしの子供をいそいそと殺しておいて! 失礼な事を致しました で許されるの!?〉

アナグマが甲高い声で叫んだ。

〈そこをどきなさい! 子供に与えた苦しみをあいつにそのまま与えてやる!〉


何らか言われても、ダブルテイルは全く動じない。

〈落ち付いてください。そんなことしたって何の意味も無いですよ。それに。〉

ダブルテイルは、掴んでいた腕を地面に下ろした。

〈あの子はまだ死んでません。〉

ダブルテイルが優しく何か言うと、アナグマの横を通って、茶色の毛の塊の所へ行った。

グレーストライプが、はあぁぁ… と地面にへたれ込んだ。
そこへすぐにサンドストームが駆け寄り、無事かどうかを確かめている。

アナグマは黙ってダブルテイルを見てから、横たわった我が子を凝視していた。

『ダブルテイル…』

思わず声をかけてしまった。
彼は何か危険な事をしそうな気がした…

『ん? 大丈夫。 この子を助けるだけだよ。』



…なんだろう

この言葉にいろんな感情が混ぜ込まれている気がした…

『陛下… じゃなかった、 ダブルテイルは、自分の命を全部使って、あの子の命が再び動くようにするんです。』

後ろには、レオンが立っていた。

『あれ、あなたは言葉が話せないんじゃなかったんですか?』
『ダブルテイルにはそのくらい簡単にできますよ。』

ダブルテイル、一体何なんだ…

・・・ちょっとまて。
『ねえ、何て言った!?』
『はい? だから、自分の命を全部使ってあの子の命を助けるんです。』
『ダブルテイルはどうなるんだ?』
『一回死にますね。』
『え?…  そんな! アナグマなんかのために自分の命を使うのか!?』
『大丈夫です。本物の陛下は死にませんよ。』
『…?』
『見てれば分かりますよ。』

返事はしなかった。
ダブルテイルは、踏み潰された子供の所に立っていた。
そうして振り向かずに言った。

『後ろを向いて。 良いって言うまでこっちを見るな。 もし悲鳴が聞こえても、振り向かないで。』

『でも…』
『見るな。』
反論しようとした言葉を即座に消された。

ダブルテイルじゃない…
あんなにふざけていた奴だったのに。
今は、 不思議な力を感じる…


僕は黙って後ろを向いた。

 

7 / 8 / 9

 

back

 

 

 

 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル