こんな所で犬に…! この数じゃ3匹で太刀打ちできない! ダブルテイルもいるけど、彼は戦いの経験は積んでいない… 逃げるにも、囲まれていて逃げられない… 全く油断していた! 今は3匹肩を寄せ合って犬に向かって唸る事しかできないなんて! ファイヤスターは、今まで沢山の戦いを経験したつもりだった。 しかし、こんな簡単に相手の戦略に落ちようとは! 犬たちは、下品に涎を垂らしている。 自分どころか、グレーストライプやサンドストームが、あの牙にやられる所を想像すると毛が逆立つ… 何か考えろ! 何かを… 次の瞬間、野良犬たちが飛び掛かって来た! 自分は、何もできなかった。 … …… ……… …あれ? 痛くない…? 『ばーか。族長さんが少し甘いんじゃない?』 え…? これは… 周りを見ると、野良犬たちが、睨みながら唸っている。 しかし、飛び掛かってこない。 『誰が戦いの経験積んでないって?』 犬たちの間に、優雅に座ったダブルテイルが見えた。 『ダブルテイル! これはどうやって…?』 『まあ見てなって。』 そう言って、何か話しだしたが、聞いた事のない発音ばかりだった。 【きみたちは食べる物がないんだろう?猫なんて襲って… 食べ物あげるから見逃してくれ。】 …何て言ったのかサッパリ分からない… 【こっちについてきて。】 ダブルテイルがなにやら言ってから、そのまま歩いて行ってしまい、犬たちがそれに付いて歩いて行ってしまった。 『はぁ… 死ぬかと思った…』 自分のすぐ後ろで、グレーストライプが息をついた。 そして伏せるように座ってしまった。 『私も… なんでこんな所に野良犬がいるのよ…』 サンドストームも座って、グレーストライプのグルーミングに取りかかった。 『ああ、ありがと。ファイヤスターも。酷い顔してるよ?』 『え? そんなにかい? にしても、ダブルテイルはどこ行ったんだ…?』 まだ緊張は抜けない。 今すぐにでも、ダブルテイルが犬どもに追われて逃げてくるか分からない。 『…なにやってんの?』 後ろからいきなり声をかけられ、跳びあがってしまう。 『わわっ! だ、ダブルテイル!? びっくりしたなぁ…!』 とりあえず、座りなおして気持ちを落ち着かせて聞いた。 『あの野良犬たちはどうなったんだい?』 『今頃、生肉にがっついてる。』 『へぇ…』 あいつらは、自分で獲物が取れないのか? 『さっきは、君ら3匹が獲物だったんだよ。』 『え…』 『あの犬たちは、二本足に可愛がられてたんだけど、いきなり捨てられて、狩りの方法なんて学んでないから、獲物が狩れないんだよ。 ただ同じ仲間を見つけて、猫と喧嘩して飢えをしのぐしか生きる手段がなかったんだよ。』 『そうだったのか… なんだか可哀想…』 『さあ、それが運命だったんだよ。 さ、日が暮れるんじゃないのかい?』 『…何か出来る事無いのかい?』 『え? 彼らに? 例えば?』 『いや… 分からないけどさ…』 『全く、言ったなら何か案出してね… 彼らには食べ物あげたから良いんじゃない?』 『ああ…』 ダブルテイルは、優しくて、犬にでも何でも優しくしそうだが、犬には冷たい奴なのだろうか…? 『俺はね、犬を幸せにしてやる事も出来るんだよ。』 『えっ?』 いきなり、思っていた事に対する返事が来て驚いてしまう。 グルーミング中の2匹に目で合図して立たせ、先に進むように鼻で示した。 『でも、それによって、今まで成り立っていた輪が壊れる事があるんだ。』 『輪…?』 先を歩く2匹の後ろを、少し離れた所でダブルテイルと並んで歩いて行く。 ダブルテイルの話は続く。 『僕が術を使う。それによって犬がいた所に犬がいなくなる。それによって、どこかがおかしくなる。術を使うっているのはそういう事なんだよ…』 『君は術で犬たちに食料を与えたのかい?』 『ああ。食料だけなら、自然の輪を壊さない。って判断した。でも、そこまでしかできない。っていうのも判断した。』 『…』 難しいが、何となく分かる。 『だから、僕が術を使うのは、一線を越えない程度だって事を分かっておいて。』 『ああ、分かった。』 『あ、ちなみに、一線を越えない程度なら好きに使うよ。』 『え?』 『一線を越えなきゃ、やりたい放題だよ。俺も俺の師匠も。特に俺の師匠は一線の内側で暴走してる。』 『そ… そうなのか…』 少し、困った表情で、ダブルテイルを見ると、悪戯に笑った表情が返って来た。 『うん。ま、僕も負けてないからね。』 『は… ははは… 一線を越えない程度にな…』 『もちろん。さ、置いていかれてるよ!』 『え? あ、ホントだな…』 気づくと、2匹はかなり先を歩いている。 それに気づかぬくらい彼の話に引き込まれていた。 彼の話し方には、そんな惹かれる話し方がある気がした。 『追いかけよう。もうすぐ到着だ!』 『おう!』 返事を聞いたら、先を歩く2匹に向かって走り出した。 ※ ※ ※ 『もうすぐ着くよ。』 『さっきもそれ聞いた! ホントにもう着くの?』 『そこの丘越えれば”母なる口”さ!』 『さっきもそう言う事言ってたけど〜?』 『…もうそこだってば!』 『うるさいよ2匹とも!』 どうしようもない言い争いをしていたらグレーストライプに突っ込まれた。 そして、その小さな丘を越えると、先に目的地が見えた。 母なる口。 この洞窟の奥には、あの月の石がある… 『あれが母なる口?』 ダブルテイルが訪ねた。 視線は、洞窟の奥深く。暗闇をじっと見ていた。 『ああ。』 そうとだけ言って、グレーストライプとサンドストームの方を向いて、指示を出した。 『中へは僕とダブルテイルだけで行く。2匹は見張りを頼む。』 『わかった。』 『いいわよ。』 『よろしく。 じゃあ真夜中になるまで君たちは狩りをしていいよ。』 『あれ? 僕は?』 ダブルテイルが訪ねてきた。 『だめだよ。月の石と対話する者は何も食べちゃいけないんだ。』 『えぇ… ダメなのか…?』 『まあ、しきたりだからね。』 『ちぇ。 あとで食べれるの?』 『あとでだからな。』 なんかいじけてる… 『まあ、真夜中まで待ってて。』 『はーい…』 ダブルテイルは、返事をしたら前足を組んで落ち付いてしまった。 グレーストライプとサンドストームは狩りをしに母なる口の方へ歩いて行った。 『んじゃ僕も少し…』 ダブルテイルに寄り添って少し眠ろうとした… 『やべっ!』 ガバッ! 『うわぁぁっ!!』 ダブルテイルが急に飛び起きて、寄り添っていた僕が突き飛ばされてしまう。 『何?何事?』 しかしダブルテイルは聞いていない。 『洞窟に… レオンが…』 『レオン?』 『龍だ… なんでここに…』 『りゅう?』 『ここで待ってて!』 そう言って、母なる口の方に走って行った。 『あ! こら! まだ真夜中になってない!』 待てと言われたが、彼を止めなくちゃいけない! しかしダブルテイルは、真っ直ぐ洞窟へ走って行った。 しかも速い… 必死に走って追いかけたが追いつけ… ダブルテイルが目の前で止まった。 僕はそれに思いっきりぶつかった。 『『うわぁぁっ!』』 2匹同時に叫んで、洞窟の前に転がった。 『…ついてくるなよ…』 『まだ真夜中になってないから入っちゃいけないんだよ… それを止めなくちゃいけないから…』 『そういう問題じゃない… 僕は…』 ダブルテイルが言葉を切った。 洞窟から、なにやら音が聞こえてくる… ズン… ズン… ズン… ズン… 音は少しずつ大きくなり、ついにはすぐそこまで来ていた… 洞窟から… 母なる口から… 『レオン… なんでこんな所にいるんだ…』 [陛下こそ、なんでここにいらっしゃるのですか?] 洞窟の暗闇から聞こえたのは、ヴゥゥゥッ グゥゥッ という唸り声だ… …自分の毛が逆立ってくるのが分かる。 逃げるべきか? 『こっちが聞いてる。答えろ。』 ダブルテイルは身動きせずに暗闇の唸り声に向かって聞いた。 [陛下、最近威厳がありますね…] そして、暗闇から、その”レオン”が姿を見せた。 『二本足だ!』 そう。”レオン”は二本足だ… 捕まる! 体が無条件で反応し、後ろに駆け出した! |