そうして午前は狩りをして過ごした。

僕はネズミ3匹を捕まえた。
他2匹もそこそこ捕まえたようだった。

キャンプに戻ると、ファイヤスターが立っていて、来い。と目で合図した。
僕はそれに従い、族長の部屋へ入った。

『どうだった?狩りは。』
『ネズミ3匹。あとはスパイダーポーと仲良くなった。』
『彼と!? 君はどこまで凄いんだい?』
ファイヤスターは、なんか驚いてばかりな気がする
『さあ。 で、昼になったけど?』
『そうそう。そろそろ出発しようと思ってね。』
『分かった。』
『あ、スター族に会いに行く前は何も食べちゃいけないよ?』
『そうなの?』
『ああ。一族のしきたりだ。』
『分かった。他に何すればいいの?』
『特にないけど… まあキャンプの入り口で待っててくれ。』
『いいよ。』
そう言ってから、苔のカーテンを潜り、族長の部屋を出た。
そうしてそのままキャンプの入り口に立った。

『狩りはうまく行った?』
後ろから声がしたので、振り返ればサンドストームが立っていた。
『まあね。なかなかいい感じ。』
『それは良かったわ。』
そう言って、尻尾を揺らした。
『あなたはやっぱり信用できるわ。』
『そう?』
分かるのだろうか?
『ええ。なんとなくね。』
『止めた方が良いよ?』
僕は、あえて怪しげな笑いを浮かべて彼女を見た。
『もしかしたら僕が君を殺そうと思ってるかもよ?』
サンドストームがゾッとした表情をして、聞いた。
『本当?』
『嘘。』
間髪開けずに答えた。
『なんでそんなこと言うのよ!』
少し怒ったように聞いてきた。
『イヤ… 僕は同じ手口で騙された事何回もあるから。』
『本当に?』
『うん。もしかしたらさっき言った”嘘”も嘘かも知れないよ?』
からかってみる。
『…自分でそう言うってことは嘘じゃないのね?』
『まあね。』
『でも、本当にそうやって騙された事があるの?』
『殺されはしないけど、やられた事はあるね。』
人間ならばそんぐらいの事はあるわな。
『随分と物騒な所から来たのね…』
『まあ… ここよりかは物騒かもね。』
しょうもない話をしてると、グレーストライプが歩いてきて会談の輪に加わった。
『何を話してるんだい?』
『ダブルテイルの元居た場所の事。』
『うん。ちょっとそういう話題になってね。』
『そうなんだ。』
そしてグレーストライプは座って質問をした。
『ダブルテイルの居た所には、どんな猫がいたんだい?』
『そうだねぇ… 猫股が1匹… 他は…  普通の猫がいっぱい。』
『普通の猫ってどんな?』
これを聞いたのはサンドストームだ。
『普通って言ったら普通の… じゃないっ! えっと、日本猫。』
『なにそれ?』
『…和猫?』
『それも分からない。』
『んじゃ、日本って国で育った猫!』
『ああ、で、それはどんな猫なの?』
質問漬けだ…
『和猫達は… まあ、ここと比べると平和な猫たちだな… 多分。』
『ここは危険なの?』
『僕から見たら山猫って獰猛な感じ…』
『獰猛って何だい?』
『…』
キリが無い…
そこへ丁度良くファイヤスターが族長の部屋から出てきて、会談は終了した。
『もう出発できるかい?大事な話でもしてるならもう少し待つが?』
『大事ではないけど、ダブルテイルが…』
グレーストライプがまた会談を開始させようとしたので、急いでさえぎる。
『うん。大事じゃないから出発できるよ!』
また質問漬けにされちゃたまんない…
『よし、じゃあ、行こうか。”母なる口”へ。』
全員、真剣一色な顔で族長を見た。

『…ハクシュンッ!』
…このタイミングで鼻が痒くなるのは何かの嫌がらせだろうか…?
全員こっちを見ていた。
『ごめん… つい…』

どうも気の抜けた始まり方だ。


    ※      ※      ※

4匹は、キャンプを出て、森を進んだ。
しばらくすると、木が減っていき、森を抜けた。
すると、小さな崖があり、その先には大きな木が4本立っていた。
『あれが4本木。満月の夜に4つの部族が平和的に集会をするのさ。』
ずっと仲が悪いわけではなさそうだ。
その崖を降りて、(普通に下りれる斜面だった。)4本の木を見ながら通り過ぎた。
4本綺麗に生えている。
4本の木に囲まれた中には大きな岩があるのが見える。
『グレートロックって言うんだ。あの上で僕ら族長が立って話をする。』
演説台?まあいいや。
4本木を通り過ぎたら、開けた平地が見えた。
そして、見えない一線を前に一同は足を止めた。
『ここからウィンド族の縄張りだ。戦いは免れないかもしれない。』
見えない一線には、全く別の猫の臭いが付いている。
縄張りの境目だ。
『…そこまでして行く物なの…?』
そう聞くと、ファイヤスターが答えた。
『ああ、緊急事態だ。仕方ない。』
『緊急事態なんとかしたら?』
『なんとかって… 今から何とかしに行くんだよ。』
『スター族からのお告げで?』
『ああ。君にスター族の事を信じてもらうためにもね。』
『お〜い。そんなところで日が暮れちゃうぞ〜!』
やや先からグレーストライプが声をかけた。
『確かに。』
そう言ってファイヤスターを見た。
『それじゃ、進もうか。周りに気を配っていてくれよ?』
『できるだけね。』
そう言って、見えない一線を踏み越えた。

しばらく進むと、車の音が聞こえてきた。
全員黙って進み、道路に出た。
そう大きくない道路で、車2台がぎりぎりすれ違えるくらい。
疎らに大きな音を立てて車が走り去る。
田舎だから飛ばせるのだろうか…。

『これからこのサンダー道を渡るが、準備は良いかい?』
サンダー道… サンダー族と被ってるが… まあ、いいとしよう。
『準備なんている?』
そう言って、道路を横断しようとした。
『やめろっ ばかっ!』
ファイヤスターが飛び乗ってきた。
『危ないだろ!?』
『こんな小さい道路… じゃない、 サンダー道を俺がいままで何回渡った事か! 慣れてるから平気だって!』
『怪物に轢かれたらどうするんだい!?』
『轢かれないから下りて。重いって。』
ファイヤスターはまだ上に乗っかっている。
『勝手にわたるなよ?』
『分かった分かった…』
ファイヤスターが下りたので立ち上がって毛繕いをした。
『ダブルテイルは慣れてるからやっただけよ。責めちゃいけないわ。』
サンドストームが補助を入れた。
『でも危ないだろう?』
『ダブルテイルは育った環境が違うんだから平気なんだよ。』
今度はグレーストライプが答えた。
『いいよいいよ。勝手に渡ったのが悪いから。』
『…気をつけて渡るぞ。』
そう言った所に、車、改め怪物が走り去った。
地面が揺れ、ガソリンの臭いを撒き散らしていった。
猫姿だと以外と鼻にくる。
再び僕はくしゃみをした。
『あれが行ったら行くぞ。』
そう言った方から、怪物が走って来た。

その怪物が走り去ったら、すぐに駆け出した。
4匹まとまってサンダー道を渡りきった。
『全員無事?』
真っ先にファイヤスターが聞いてきた。
全員無事なのを確認して、ほっとした表情になった。
『もうすぐだ。そろそろ日が暮れはじめるだろう。』
そう言って歩き出し、グレーストライプとサンドストームが続いた。

空を見ると、太陽はやや傾きはじめていた。
僕は2匹を追おうと腰を上げたが、後ろから声をかけられた。

『大分楽しんでんじゃねぇか。』
びっくりして振り返ると、僕をここに送り込んだ張本人、

ニタ公が座っていた。 しかも煙管も持参。
『びっくりした… 何やってんの?』
『うん?見物。 遠くから無てるだけじゃつまんねぇからよお。』
『遠くからって… 見てたの?』
『おう。何って暇だからよう、あんたの部屋に居たっておもれえ事はねぇし。』
『あ、俺の部屋で変なことしてないでしょうね?』
『さあ?知りたきゃ帰ってきて調べるんだな!』
そう言って、嘲笑うかのように煙管を一服した。
『ああ、それと…』
プゥ〜〜ッ と煙を吐いてこう言った。

『お仲間がピンチだぜ?』

ニタが煙管で、3匹が歩いて行った方を指した。
その方向には…

僕は急いで駆けだした。
ファイヤスター達が5・6匹の野良イヌに囲まれていた!

 

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