さて、謎だらけ。 ブルースターやその他の猫たちはどこに連れ去られたのか? 可能性としては人間。 もしくは二本足。 でもシャドウ族の縄張りというのも妙に気になる。 でも今日は寝よう。 ここで生きるには夜型じゃなくで昼型にならなきゃいけない。 ファイヤスターには戦士部屋で寝てもいい。と言われたが、遠慮した。 一族の皆は、見ず知らずの化け物とは寝たくはないだろう。 僕はキャンプの外で寝ることにした。 茂みのトンネルを潜ると、森が姿を見せた。 とても気持ちが良い。 やっぱり、13年間も人間として生きようと、本能は残っているのか。と感心せずにはいれなかった。 キャンプを丸く囲う、シダの茂みに体を押し付け、丸くなって眠った。 すぐに眠気が襲ってきて、すぐに暗闇に入り込んだ。 『仲良くやってるわね。』 僕は目を閉じていた。 目を開こうとは思わなかった。 開いたらこの声は消えてしまうだろう。 『そうかな?』 『ええ。』 僕に体を摺り寄せてくれる。 母の温もりが、目を閉じていても、しっかり伝わってくる。 『とりあえず、ここの皆に合わせて行動すると良いわ。』 『うん。助言ありがとう。』 僕は、自分の鼻を母のほほにこすりつけた。 そして、目をあけると、鼻の先には何もなかった。 黒福母さんはしっかり見守ってくれている。 僕は自分で自分に言った。 ※ ※ ※ 『ダブルテイル?起きてるかい?』 僕は、片目を開いて尻尾を動かした。 『起きてますよ。体調ばっちり。何か用?ファイヤスター?』 『何って… 母なる口だよ。忘れたのかい?』 『…少し忘れてたかも。でも思い出した。』 体を起して、族長に向きなおった。 『今から?』 『まさか。今から行って、月が出るまでどの位待つのさ?』 恐らく今は朝の7時くらいだろうか? 少し寒い。 ほんの少し、母の香りが残っている。 『…どのくらい?』 寝ぼけたフリして聞いてみる。 『…とにかく!午前は狩りをして過ごすと良いよ。』 『了解。』 ファイヤスターは、キャンプに戻って行った。 それと行き違いで、グレーストライプがトンネルから出てきた。 後ろに、やや小さな黒い猫が続いた。足が全て白い。 『おはよう。グレーストライプ。』 『ああ、おはよう。寒くなかったかい?』 『大丈夫。平気だよ。』 『グレーストライプ、化け物と一緒にいたくないです。今日の訓練は何をするんですか?』 小さな黒い猫が口を歪めて言った。 『ばか。なんてこと言うんだ。』 『仕方ないでしょ。ホントの事なんだから。君は何て言うんだい?』 しかし、見習いは、ふいとあさっての方を向いてしまった。 『まったく… こいつはスパイダーポーって言うんだ。ちょっと生意気だけどね。』 『グレーストライプ!今日の訓練は何ですか!?』 スパイダーポーがすこし怒りながら聞いた。 『今日は、獲物を捕る練習をするよ。』 『訓練?』 『彼は見習いさ。まだ始まってしばらく経ってなくて、戦士になるのはもう少し先だけどね。』 『なるほ… じゃない。 そうなのか。』 ファイヤスターに”なるほど”の意味を聞かれて、説明できなかったので、そう簡単に、難しい単語は使えない。 『グレーストライプ!!』 スパイダーポーが怒鳴っている。 『うるさいぞ!だいたい何でそんなにダブルテイルを嫌がるんだい?』 『嫌に決まってるじゃないですか。こんなどっかの流れものと一緒に暮らすなんて!』 『どっかの流れもの…』 『スパイダーポー!』 グレーストライプが怒鳴った。 怒鳴られたスパイダーポーは縮みあがってしまった。 『お前はいつからそんな口の悪い奴になったんだ!そんなもの流れものの方がいくらかマシだぞ!』 スパイダーポーがうつむいて、前足をモジモジやりはじめた。 『グレーストライプ、言いすぎ。 確かに、一族に無理して居るのはおかしい事だよ。なのにスパイダーポーを責めすぎだよ。』 『…ああ。分かった。済まなかったよ。』 グレーストライプは、スパイダーポーの頬に自分の頬をこすりつけた。仲直りの証拠だ。 『すみませんでした。ダブルテイル。』 スパイダーポーも謝ったが、こちらには近づいてこなかった。 そして、スパイダーポーがほんの一瞬、僕を睨んだのも見落とさなかった。 『あ、そうだ。グレーストライプ、狩りの訓練を少し見せてくれよ。』 『僕はいいよ。どうだい?』 スパイダーポーに聞いた。 『…いいですよ。別に。』 そっぽを向いてしまった。 『だってさ。来いよ!少し教えてやる!』 そう言って、グレーストライプが走って行き、それを追ってスパイダーポーが駆け出し、グレーストライプの脇に並んだ。 僕は、後から追っていったが、スパイダーポーが時折振り返り、僕を睨んでいた。 …べつに、力を見せれば大人しくなるが、そういうやり方は好きでない。 それに、黒福からの助言もある。 皆と合わせて行動するように。と。 行動を起こすならもっと先だな。 とりあえず、2匹を追って駆け出した。 ※ ※ ※ 『ここがサニングロックス。リヴァー族との縄張り争いがよく起こるけど、格好の狩り場だよ。』 グレーストライプは、僕によく説明をしてくれている。 その度にスパイダーポーに睨まれる。 さすがにここまで睨まれると、裏に何かある気がしてしまうが、何もしないように見張ってる事にしておいた。とりあえず自分は怪しい猫ですから… 『さあスパイダーポー。狩りの腕前を見せてもらおう。』 グレーストライプは、スパイダーポーに目を向け、そう言った。 サニングロックスは、《ロックス》という名前が付いている通り岩場だ。 かすかにネズミの臭いがする。 スパイダーポーがこちらをちらっと見てから、獲物を探し始めた。 グレーストライプは見習いの様子を見ていたので、その横に座って、彼の様子を見た。 『あんなに疑われて平気なのかい?』 グレーストライプは、顔をこちらに向けずに囁いた。 『あれ、気づいたのね。』 こちらも前を見ながら答えた。 『そりゃそうだよ。君も一族に忠誠を尽くさなきゃね。』 どうやらこちらとは仲良くやっていけそう… 『君は信じるのかい? 僕が悪さしないって。』 『さあ。今のところは信じてると思うよ。』 『ありがとう。』 目を合わさずに会話していたが、信じてよさそうだ。 その内に、スパイダーポーがネズミを咥えて戻ってきた。 『良くやったな!スパイダーポー!』 グレーストライプとスパイダーポーが鼻を触れ合わせた。 そして、僕の方を見てフンと鼻を鳴らした。 さらに心の声が飛んできた。 《へっ 化け物め。 ネズミの捕り方も分からないくせに。》 あちゃぁ。 ここまで嫌われちゃったか… 『僕もネズミ捕ってみていいかい?』 『えっ?できるのかい?』 『さあ。本能で行けるんじゃない?』 『お前なんかには無理だよ!』 スパイダーポーが怒鳴った。 『おいおい。悪口は心の中だけで勘弁してくれ。直々に言うなよな。さすがに傷つく。』 『なんてこと言うんだスパイダーポー! 見損なったぞ!』 『すみませんグレーストライプ。(棒読み)』 謝る気持ちは全くない。 『いいよ。僕も慣れてる。ちょっとネズミを追ってみるね。』 『ああ、別に構わない。頑張れよ!』 グレーストライプに見送られ、ネズミの臭いを探し、追った。 ネズミが1匹、岩の上に出てきている。 僕はそれに狙いを定めた。 ネズミ狩りをした事は無いが、やり方はなんとなく分かる。 いける! 跳びかかろうとした瞬間、後ろで物音がして、ネズミがそれに気付き、逃げた。 僕の後ろにはスパイダーポーが立っていて、いまにも笑いそうな顔で立っている。 彼はそこまでして何がしたいのだろう? 疑っている、というかからかっているのだろうか? なんで気付かなかったんだろう…。 ここはひとつ、圧力をかけておいて良いだろう。 僕は彼に無言で歩み寄り、睨んだ。 彼は笑いそうな表情を消し、ぞっと怯えたような表情に変わった。 『たしかに僕は化け猫かもしれない。 でも僕は猫だ。ネズミでもウサギでもない。猫だ。それなのに、あんたにここまで邪魔される筋合いはないね。』 近距離まで顔を寄せ、睨みながら言った。 『す… すみませんでした…』 スパイダーポーは、完全に怖気付いている。 『まあ良いよ。あんまり言いすぎないようにね。』 そう言って、彼と鼻をこすり合わせた。 『仲良くできるかい?』 『…やってみます……』 小さく呟いたのを聞いて、僕は普通に座りなおした。そして、彼に向けて優しく笑ってやった。 『あれ、仲が良いのかい?』 グレーストライプが入って来た。 『てっきり悪いもんだと思ってたけど…』 驚いてこちらを見ている。 『さあ。どうだったかな。』 僕は、スパイダーポーを見た。 『僕たちはもう仲間ですよ!』 見習いは目を輝かせて言った。 |