「……ふぅ」


 大きな一息を吐きました。今、私のお腹の中にはもぞもぞとした
感触が在ります。呑み込まれてもなお、あのバンギラスは必死の抵
抗をしているのでしょう。

 そうしないと、彼は死んでしまいますから。

 しかしその抵抗も段々と弱まり、やがては止んでしまいました。
力尽きたようです。後はゆっくりと私の栄養となっていくだけ。復
讐は成功です。

 それなのに、何か物足りなく感じました。あのバンギラスに対し
て、今までの怒りを思う存分にぶつけたつもりだったのですが。

 どうして――。


「結局食べちゃったね」


 暫く振りの声。バンギラスにばかり気を取られていて、今の今ま
でアスター君の存在を忘れていました。


「……はい」

「まぁ、復讐を勧めたのは僕だから、気にしないで。それより、気
分はどう?」

「復讐を果たせて、清々しいですね」


 私の言葉に、アスター君は「それは良かった」と満足げに頷きま
した。

 しかし受け答えとは裏腹に、心の中では何だか靄がかった感じが
していました。胸の鼓動は、バンギラスを呑み込んでからずっと、
強い調子を保っています。

 そして、この沸々と沸き起こる感情の正体に気付いたとき、私は
思わず口を開きました。


「あの、お願いがあるんですが」

「ん? 何?」


 彼は屈託のない笑顔で応じてくれました。


「もう少しだけ、この姿のままで居ても良いでしょうか?」


 アスター君はぱちくりと目を開きます。


「どうかしたの?」

「実は、ルル以外の友達も、肉食ポケモンの犠牲になっているんで
す。その復讐もしたいと思って……」

「へぇ」


 ああ、我ながらなんていうことをお願いしているのでしょうか。
初めは復讐に気が進まないようなことを言っておいて、今になって
気変わりしただなんて。十中八九断られるに決まっています。

 目の前に浮かぶアスター君を、顔を赤くして伏し目がちに見てい
ました。


「いいよ」


 思いがけない返答に、私はすかさず顔を上げました。


「リムがそう言うなら、信じるよ」


 その言葉に私は幾分の罪悪感に苛まれました。というのも、先程
アスター君に嘘を言ったからです。私の仲間が襲われたのは事実で
すが、それが理由な訳ではありません。

 まだ、食べ足りない――そのような衝動に駆られて仕方がないの
です。

 しかしそのようなことを言っては、彼は了承してくれそうにない
ので、嘘を言いました。

 “狂っている”と自分でも思いました。そして、性分にも似合わ
ず、淡々と嘘を吐いてのけたことも驚きでした。もしかすると、今
のこの姿に全ての原因があるのかもしれません。尤も、やはり体を
元に戻してもらおうなどと考え直す余裕がないほど、私の頭は“食
”欲に汚染されていました。

 私は再び屈み込んで、ポケモンたちの姿を捜しました。適当な理
由を付けておいたお陰で、アスター君の目を気にする必要もありま
せん。

 ところが、いくら木を掻き分けてもコラッタ一匹出てきませんで
した。まぁ、これだけ目立つ格好ですし、ポケモンたちは驚いて殆
ど逃げてしまったのでしょう。

 仕方ありません。少し移動してみましょう。

 一歩、二歩、三歩――歩いていくにつれ、微かに声が聞こえてき
ます。もう追いついてしまいました。逃げるなら、もっと遠くに逃
げればよいものを。

 木々の隙間に適当に蔓を差し込むと、その先が何かに触れました
。それを捕まえてみると、先程のバンギラスのようにごつごつとし
た頑丈な紫の体の、確かニドキングというポケモンでした。

 毒を持つ種族ですが、幸い私も毒の属性です。それに、蜜蜂の針
にも満たない大きさの彼の角では、呑み込むのに差し支えはないで
しょう。

 このニドキングも、相当に怯えた顔をしていました。それを見た
途端、たまらなくお腹が空き、涎も湧き出てきました。

 今度は口内で転がすこともなく、そのままニドキングを呑み込み
ました。


「……ふふ、暴れていますね」


 弱らせなかったので、お腹の中で蠢いている様子がはっきり感じ
られます。でもいくら暴れてみたところで、貴方は二度と外界を拝
むことは出来ないのですよ? 無力ですね。

 悦に入っていると、視界の隅で他のポケモンを捕らえました。す
かさず蔓を伸ばして巻きつけます。

 ……一匹一匹捕まえては食べるのも面倒ですね。一気に大勢捕ま
えてしまいましょう。蔓に巻き付かれたまま、他のポケモンが食べ
られていくのをただ見ていることしかできない絶望感を味わわせて
やるのも、面白いかも知れません。

 そう決めて歩き出すと、足下で何かがプチッと潰れた感じがしま
した。可哀想に、ポケモンを踏み潰してしまったようです。

 しかし、その後も私はずんずんと進んでいきました。足下の虫け
らを気にするつもりなど、もはやなかったのです。

 足下で次々と悲鳴が起こっては消えました。

 

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