綺麗に整備されている森の中につくられている一本道に
ザッザッザ!と地面を蹴り走っている狼のようなポケモンがいた。
自分が巻き起こす風でサワサワと美しい黒い毛並みが風でなびいている。

「少し遅れたな……エーフィーさん、怒ってないかな?」
「怒ってます。 遅いですよグラエナさん!」

走っているグラエナの目の前にヒュンとエーフィーがテレポートで現れた。

「うわっ! エーフィーさん危ないよ!」

いきなり森の道の真ん中に現れたエーフィーを蹴飛ばしそうになり、
グラエナは驚きの声をあげて、慌ててジャンプして飛び越える。
綺麗な放物線を描いてグラエナが、自分の頭上を飛び越えていくのを
エーフィーは逃げもしないで、顔を動かして目で追っていく。


スタッ!


少しつまずき加減に歩いてバランスを取りグラエナは、何とか転けずにすんだ。
内心……ホッとため息をつき、グラエナが後ろを振り返ると……
二つある尻尾をユラユラと動かして、紫色の体毛をしている子猫のようなポケモン……
エーフィーがプクーと頬を膨らませてグラエナを見ていた。

「…………むー……グラエナさん。」
「え、え、エーフィーさん……。 怒って……るよな……やっぱり。」
「当然です。 今日、朝早くから起きて……
 一緒に散歩しようって、最初に行ったのはグラエナさんじゃないのよ!」

グラエナをむくれたまま責めるエーフィー……
それにシュンッとグラエナが頭を下げて、

「俺が悪かった! すまない!」
「ふー……もういいわ。 さぁ、グラエナさん一緒に歩きましょ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……エーフィーさん!」

先に歩き出したエーフィーにグラエナは早足で歩いて追いつく。
横に並ぶとエーフィーに歩幅を合わせながら歩き出した。

「……エーフィー……さ……。」

グラエナが小さくエーフィーの名前を呼ぼうとするが、
ツンとした表情のエーフィーにさすがにバツが悪くて、言葉が言い切れずに消えていく。
だから、エーフィーの隣を歩きながらもグラエナは……
シュンとしたようにうつむき加減に歩いていくしかなかった。

(どうやったらエーフィーさんの機嫌が直るんだろ……)

どうやって謝って良いのか分からないグラエナは、
エーフィーの様子が気になって、何度も……
チラリ、チラリと隠すように横目で様子をうかがっていた。

するとなぜだか最初は……
ムスーっとしていたエーフィーの表情が次第に綻んでいく。

グラエナは気づいていなかったが、超能力を使ってその様子を覗き見ていたのだった。

(少し……意地悪だったかな? ふふふ、一緒に歩くの楽しいな〜。)
「エーフィーさん……どうしたんだ?」
「ヒャウッ!!! な、なんでもないわよ。」

いきなり顔をグラエナにのぞき込まれて真っ赤になるエーフィー。
その時、心の内を覗かれたような気がして……
グラエナを誤魔化すようにエーフィーは苦笑いを浮かべた。

急に態度が激変したエーフィーの様子に、
キョトンとした表情で、グラエナが不思議そうに見ている。

今だけは自分の顔を見て欲しくないエーフィー。
スタスタと足を速めて歩いていく……が、
グラエナとそもそも歩幅が違うので、どんなに速く歩いてもその差は広がらず……
しばらくの間、エーフィーの顔は赤くなったままだった。



十数分間の2匹だけの幸せの時間。



2匹並んで歩いているとき……
先に気が付いたのはエーフィーだった。

「あれ? あそこにいるのは……」
「エーフィーさん? あれ、あそこにいるのはミミロルさん?」

エーフィーが指した方向をグラエナが、スーと目で追っていく。
その視線の先にはピョンピョンと
スキップするように跳ねながら、ミミロップがこっちに向かってきていた。

「どうしたんだミミロルさん。あなたも散歩ですか?」
「みゅんみゅんっ お二人さん、おはよう!」

こんな朝早くから、せわしなくスキップをして跳ねているミミロルに
『何をしているんだろう』と
興味を持ったグラエナが、頭を下げて挨拶をしてたずねてみた。

ミミロルは自分を見つめるグラエナとエーフィーにペコリと礼をすると……

「みゅみゅう〜 散歩だよ♪ 
 グラエナさんとエーフィーさんも散歩してるの?」
「ああ、俺たちもそうなんだ。」

常に笑顔であることを止めないミミロルに……少し苦笑しながらグラエナが会話していく。
エーフィーは自分を置いてきぼりにして、
ミミロルと話しているグラエナをちょっと寂しそうに見ていた。

(グラエナさんと二人っきりの散歩……楽しみにしてたのに……)

そんなエーフィーの心内を知ってか知らずか……
一通り話し終わったグラエナがエーフィーに話を振った。

「やっぱり、朝早くから散歩すると気持ちいいよなエーフィーさん。」
「……あっ……ええ、そうね。 朝早くから散歩するのは気持ちいいわ。」

笑顔で話しかけてくるグラエナの表情に少し目を奪われて、
エーフィーはポーとその表情の虜になり顔が赤くなった。
……だったが、すぐに我に返って返事をする。

「……エーフィーさん? どうしたんだ、また顔が赤いぞ。
 もしかして、熱でもあるんじゃ!」
「……あっ……。 ちちち、違うわよ。 そんなんじゃないの!」
 
いきなりグラエナに額と額を押し当てられて……
自然と声がもれて、次の瞬間……ポッとさらに真っ赤になるエーフィー。
慌ててグラエナの額から逃れると慌ててグラエナの誤解を解こうと
両方の前足を目の前でパタパタと降りながら元気にふるまう。

それでも、心配そうに見つめてくるグラエナを見て……

「もう……だから、そんなに心配そうな顔をしないで……」
「え、エーフィーさん……いきなり何を……」

固まるグラエナの頬に頭をすり寄せるエーフィー……
しばらく、そのまま二匹だけの時間が流れて、

「みゅん! お二人さん仲がいいの〜
 ねえねえ、私も一緒に散歩させてもらっていい〜みゅう?」

それを見事に打ち壊したミミロル。
グラエナとエーフィーは正気に戻り。
バッと離れて、照れ笑いを浮かべながら話だした。

「あ、ああ、いいよなエーフィーさん? あははははは……」
「え、ええ、いいわよグラエナさん。 はははは……」
「わ〜い。 みゅんみゅん、ありがとうね。」

こうして、グラエナとエーフィーは何処かぎこちなく、
ミミロルは相変わらずに元気にスキップしながら……

3匹は一緒に朝の森の並木道を散歩していくのでした。



その3匹をこっそりと隠れてのぞく、大きな影が2つあった。
こっそりと……

「ルギア、少し抑えろ!
 まだここではダメだ、ここは我慢だー!」

こっそ……

「放せ、カイリュー! 
 ここは穴場だと誘ったのはお前だろ!」

隠れている割には、まったくこっそりする気がない大きな二つの影……

一番大きく騒ぎ立てている片方は、
真っ白な羽毛を持った大きな体の持ち主……ルギア。
数十メートル先に広がっている、並木道を散歩している3匹に向かって、
森の木々をなぎ倒し、今にも突進して行きそうに息を荒げている。

「だから、まだ我慢だって言ってるだろー!!」

それを押し止めようとしている……もう片方の影。
ルギアの半分以下ほどの大きさの体にもかかわらず、
怪力でルギアの口が歪みそうになるぐらい力一杯に掴んで、
踏ん張っている竜の姿をしたポケモン……カイリュー。

「ぐう……今日は色々あって時間がないのだ。ちょっとだけでもダメなのか……?」
「ダ〜メ〜俺だって我慢してるんだから……色々な用って何なんだ?」

しばらく、ルギアとカイリューの二匹で、押し合い引き合いを続ける。
最初におれて妥協したのはルギアだった……
カイリューにグニューと引っ張られている口を喋りにくそうに動かす。

「うぐぐぐ……仕方がない、ここは我慢しよう。
 だから口を引っ張るのは止めろ…いや止めてくれ伸びてしまいそうだ。」

そんな地響きを起こして、
騒ぎ立てるルギアとカイリューの重量級の大騒ぎを……
不思議と気づきもせずに並木道を散歩している3匹。

グラエナとエーフィー……お互いが今だ顔を赤くして、
仲良く並んで歩いていく後ろ姿を、ジッと見つめているミミロル……
正確にはフリフリと揺れ動く二匹の尻尾を、
興味深そうな目で見つめながら、ミミロルは後をついて歩いていった。

そのうちにミミロルは我慢できなくなって、
グラエナの前に回り込み……

「みゅ…みゅん…… グ、グラエナさん……尻尾……さわってもいい?」
「え?あ、ああ、いいが……」

思いがけないミミロルのお願いは、特に問題もなかったが、
さすがにグラエナも少し戸惑い目を白黒させる。
それでも、グラエナは自分の尻尾をミミロルの方へ動かした後、
尻尾にさわる許可をだした。

「みゅふふ……ありがとう。」

黒く艶やかな体毛に覆われているグラエナの尻尾を
ミミロルは『ふふ』と小さく笑いながら、
モフモフと顔に当てたりと……とても楽しそうにじゃれついていく。

「うくく……ミミロルさん……ちょっと、くすぐったい…」

それがとてもくすぐったく感じているグラエナ。
今にも吹き出しそうになっているが、エーフィーの前だと言うことで必死に堪えている。

ミミロルはそれが聞こえないほど満喫していた。
そして、今度はグラエナの尻尾を掴んだまま、エーフィーに近寄っていき……

「みみゅう……エーフィさんも シッポさわらせて〜」
「いいですよ?」

そう言ってエーフィーも自分の二つに分かれている尻尾をミミロルに差し出す。
それにミミロルは目を輝かせて尻尾にじゃれついていく。
それをあきれたようにグラエナが見ていて、

「尻尾フェチ……?」
「グラエナさん……聞こえますよ。」

そんなグラエナとエーフィーのひそひそ話に気づかずに
ミミロルは二匹の尻尾にじゃれついていて遊んでいた。
その内、二匹の尻尾を口に近づけて……


ペロペロ


「うわっ!」
「ひゃうっ!」

尻尾をミミロルに舐められて、
仲良くビックリしてお互いに叫んでしまったグラエナとエーフィー。

「いきなり何をするんだ!」
「いきなり何をするのよ!」

グラエナとエーフィーに睨まれたミミロル当人は……
ご満悦の表情で二人を見返し、

「みゅんみゅん。 グラエナさんもエーフィーさんも
 尻尾からいい臭いがするよ〜舐めてみたら美味し〜味がしたよ〜」

その視線を気にした風もなくて
今も楽しそうに両手でグラエナとエーフィーの尻尾を持ってプラプラと振っていた。

……グラエナとエーフィーは気が付かなかった。
一瞬だけ2匹の尻尾を舐めていた時のミミロルの目が、
は虫類のような瞳孔に変化したことを……




そして、再びあの重量級の二匹は……

「いい臭い……美味しい味だと……あのミミロル、羨ましい……」

今だにカイリューに口を捕まれたまま、押さえられているルギアは、
美味しそうな3匹が並木道を楽しそうに話して歩いていくのを
口惜しそうに見ていることしかできなかった。

その口からはダラダラと唾液が流れ落ちていき、カイリューの手にかかる。

「もう少し……あそこを過ぎたら襲いかかるぞ。ルギア……って涎出し過ぎだ!」

それに気が付いたカイリューは慌ててしまい、思わず手を放してしまった。
自分の手を思いっきり振って、付着した唾液を飛ばしている間にルギアは……

「いかんいかん……いつの間にか垂れてしまったみたいだ。」

ジュルジュルと唾液を啜っていた。
そして、首から提げていた懐中時計を見て難しい顔をする……

「むう……あと十分ぐらいしか、ここにいられない……
 せめて、誰でもいいから誰か食べて……」

だんだんとルギアの目が血走り始めていた。
それに気が付いていないカイリューは迂闊にも……

「そうか、ここだと……まだ逃げられる可能性があるが……
 ルギア、いいぞお互いに何奴か一匹選んで襲いかかろう。
 残りの一匹は早い者勝ちと言うことでいいな?」

そう迂闊にも手を触れ、声をかけてルギアの気を引いてしまった。
刺激を受けたルギアは血走ったままの目でカイリューを見た。
そこには美味しそうなカイリューがいて……

「もう……お前でいい。 カイリュー私に食われろ!!」

ルギアは大きな口を広げて唾液をまき散らしながら飛びかかる!
そのままの勢いで、カイリューの顔に喰らいかかった。

「グベェェェ……気持ち悪りぃ。 ルギア何しやがる!!」

顔面に食らいついてきたルギアの巨大な口を、
かろうじて掴んで受け止めたカイリューだったが、
その中の唾液の滴る舌に顔を舐められて、気持ち悪そうに顔を歪めた。

そのまま両者は押し合いへし合いに森を破壊しながら
平和に散歩しているグラエナとエーフィー、ミミロルに突き進んでいった。


すぐ近くまで危険が迫ってきているとは気づいていない3匹……


ミミロルに尻尾を舐められた出来事はどうなったかというと……
ミミロルの余りにもの脳天気さに、グラエナもエーフィーもあきれて、
何も言えずにうやむやになってしまっていた。

とりあえず気を取り直して散歩の続きを始めた途端……
グラエナが周囲をキョロキョロと警戒して見渡し始めた。

「な、なんか嫌な視線を感じるんだが…気のせいか?」

今にも不安そうにソワソワと体を動かしているグラエナは、
真剣な表情でエーフィーとミミロルに問いかける。
それをミミロルは特に気にした風もなく……脳天気に受け答えをする。

「そーぉ? なんにも感じないよ〜
 みゅう……エーフィさんも 嫌な視線なんか感じませんよねっ」
「ちょっと……2匹とも黙ってて……
 何か、近づいてくる気配を感じる……」

精神を集中しているエーフィーの体から、
超能力を使っている証である青い光が発し始められていた。
その力で自分たちの周囲を探っていき……

「あっちからよ!」

いきなり、ある方向へと顔を向けた。

その瞬間……

バキバキと木々をへし折り、ルギアとカイリューが暴れなら3匹の目の前に現れた。
2匹の戦いの激しさは凄まじく、
森の木々を全てをなぎ倒さんばかりに森を荒れ地に変えていく。

ズンッ!


どちらかの巨大な足が踏み下ろされ、凄まじい地響きと共に
すぐ近くにいたエーフィーを衝撃で跳ね飛ばしてしまった。

「きゃっ!!」

土煙と共にズシャア!と地面を滑るエーフィーの姿を見ていたグラエナは、


「エ、エーフィー!! 大丈夫か!!!」

思わずエーフィーを呼び捨てにして、グラエナが側に駆け寄る。
運良く踏みつぶされずにすんだエーフィーは、ヨロヨロとしながら何とか立ち上がる。

「危なく踏まれるところでしたっ……」
「よかった……エーフィー…さん。
 くそっ! いったい何なんだ今のは!!」

怒りに牙をむき出しにして『グルルルゥッ!』と
うなり声を上げグラエナは、突然の来訪者達を睨みつけた。
しかし、グラエナの威嚇など……
気にも止めている暇もない、ルギアとカイリューは壮絶な戦いを続けていく。

凄まじい力で自分を食べようとするルギアに対抗して、カイリューも全力で
口を掴み押しのけようとするが……

若干、ルギアの力が勝っていて、徐々にルギアの口が迫る。
唾液の滴るルギアの口内が、カイリューの頭を覆い始めて……カイリューに焦りが生まれる。

「あぐぅ! ルギア……」

この状況を打開するために……
ルギアの口を掴んでいるカイリューの手が、
次第にビリリリィと幾本の電流を纏って光り始めた。

「いい加減に正気に戻って止めんかい!!」

カイリューの豪腕による『雷パンチ』が、
バッコーン!とルギアの横っ面を跳ね飛ばした。
その衝撃で唾液をまき散らして、ルギアの顔が大きく横に跳ね飛ぶ!

「ぐふぉっ!」 

電流とパンチによるダブル攻撃で、一瞬怯むルギアだが……
その目は怒りの感情が交じりつつも、しっかりと光を宿していた。

「……カイリュー、よくもこの私に!
 甘く見るな! そんな物で私が負けるわけがないだろ!!」

すぐにそのダメージから抜け出してきてルギアは、カイリューに向かって大きく口を開くと
口内に凄まじい力を集中させていき……風の力の固まりを作りだした。

そして、暴風を圧縮したような力の詰まった風の剛球を吐き出す。

『エアロブラスト』

風の固まりがまともにカイリューの腹部に命中して、

「ごはぁ!」

今度はカイリューが口から唾液の飛沫を吐き出し、大きく吹っ飛んでいく。
しかし、さすがにそれだけでやられるカイリューではなく。
両足はしっかりと地面を捉えたまま、大きく地面をえぐりつつも何とか衝撃を吸収した。

「ぐぅ……ルギアの奴……本気で俺を食う気か!」

しかし、ダメージはしっかりとカイリューに重くのしかかる。
咳き込み苦しそうに自分の腹部に手を当てて息を吐いた。

まるで台風のような重量級の2匹の戦いは、
呆然と見守る軽量級の3匹にも巻き添えにして、大きく土煙を巻き上げる。

「私達を守って……光の壁っ!」

3匹を包んでいた土煙が消えた後、光り輝く壁が現れた。
これまでの、激しい戦いの巻き添えを防いだのは……エーフィーの超能力の御陰だった。

「ひやっみゅう! いつの間にか怪獣が!!」

一瞬、驚いたように飛び退ったミミロルだが、
今まで見てきた普段のミミロルとは違い……

「……でもこっちに気づいてないみたい。」

その表情は冷たく冷静な……まったく別人のように変化していた。

「……そろそろ……この姿も潮時か……
 このまま、あの馬鹿どもにこんな美味しい奴らを横取りされたくねえしな……」

ミミロルが小さく独り言を言った。
しかし、その口からもれた声は、明らかに今までのミミロルのものではなくて……

その変化にグラエナとエーフィーは、気づく事が出来ず……
未だに続いているルギアとカイリューの仲違いを呆然と見つめている。

「何やってんだあいつら…」
「……グラエナさん……今は早く逃げた方がいいわ。」

エーフィーは光の壁を維持しつつ、
惚けているグラエナにこっそりと近寄って、小さくグラエナの耳元で話しかけた。

ミミロルさんも早……あら……ミミロルさんがいない……何処に行ったの?」

つぎにミミロルに注意をうながそうとしたエーフィーだったが、
さっきまでいたはずのミミロルが何処にもいない。

そんな三匹の動きをカイリューは横目で見つけて『チッ』と軽く舌打ちする。
このままでは、獲物が逃げてしまうと焦るが……

「っち!気づかれたか!って やめろいってるだろうが!!」

しつこく自分を食べようと、襲いかかってくるルギアから目を離すわけにもいかず。
イライラといらだちだけが募っていく。

「時間がないんだろ!! ルギア!!」

このままだと、どうしようもないと判断したカイリューは、
ルギアの隙をつき、バサッ!!と翼を広げ羽ばたく。
その巨体が軽々と宙に舞い上がると、一目散にルギアから逃げ出した。

そのカイリューをすかさず飛んで追いかけるルギア。
一瞬、懐中時計を見て時間を確認すると、ムゥっとうなり声を上げる。
そして、何かを我慢するようにカイリューに向けて声を絞り出す。

「し、仕方がない。 カイリュー……今はお前を食べるのは諦めるから!
 変わりに少しで良いから……ちょっと舐めさせて味見をさせろ!」

時間がないゆえに断腸の思いで、条件を下げたルギア。
速度を急速に上げていき、一気にカイリューとの間合いをつめていった。

そのルギアから逃げ切ることも出来ずに、カイリューの顔が恐怖に引きつり……
ついにカイリューの体がしっかりとルギアに捕らえられた。

「うわぁぁっ!! 止めてくれルギアー!!」

叫びながらカイリューがルギアと共に地面に落ちていく。
その下にはあの3匹がいた。



落下してくるルギアとカイリューにまだ気が付かず……
グラエナとエーフィーは手分けしてミミロルを探していた。

そして、最初にミミロルを見つけたのは、やはり超能力の使えるエーフィーだった。
自分で自分の肩を抱きしめブルブルと震えているミミロル。
怖がっているようだが……
無事にミミロルを見つけることが出来たエーフィーは安堵のため息を漏らした。

「ふぅ〜。 ミミロル……無事でよかった。
 さぁ、一緒にここから……って……えっ?」

震えるミミロルに近寄りながら声をかけたエーフィー……
その足と声がミミロルから異様な気配を感じて、途中で戸惑うように止まる。

「……何なのミミロルから何か、変な気配を感じる。」

その気配に押されエーフィーは、
一歩また一歩とゆっくりミミロルから距離を取っていく……
そこへ、グラエナがミミロルを発見できず、
駆け足でエーフィーの元へ戻ってきた。

「だめだ、こちらの方ではミミロルは見つからなかった。
 エーフィーさん、そっちはどうだった見つかったのか?」

頭を振りながらエーフィーに話しかけるグラエナ……
その声にエーフィーは何も答えることなく、惹きつけられるように何かを見ていて……
グラエナはそれを怪訝に思いエーフィーもう一度、話しかけた。

「エーフィーさん……どうしたんだ? 何を見ている?」
「グ、グラエナさん! ダメ……こっちに来てはダメ!!!」

やっとグラエナに気が付いたエーフィー。
自分の眼前に広がる危険を……
近寄ってくるグラエナに伝えようと自分が出せるあらん限りの声で叫んだ。

その声に驚き、踏鞴を踏みながら慌てて立ち止まるグラエナ。

「…!? エーフィーさん!?」

尋常ではないエーフィーの焦りように何事かと目をパチパチと瞬きをして
一瞬の間……
グラエナは心配で近づこうか……
言われたとおりに近づかないでおこうか……その両方の板挟みで動きが止まる。

そこへ、タイミングを計ったかのようにルギアとカイリューが
組み合いながらグラエナとエーフィーの真上から落下してきた!


ズッドォオオオーーン!


凄まじい落下の衝撃が破壊をまき散らし周囲を荒れ地に変えてしまった。
生じた轟音と大量に舞い上がる土煙が、
……モウモウと漂い、衝撃の地点から辺り一帯を包み込んでいく。

その原因のルギアとカイリューは……

「ぐふぁ! ……痛すぎて体が……上手く動かねえ。」

その凄まじい衝撃を……受け身も満足にとれず全身で味わった。
意識もかなり朦朧としいて、しばらく満足に動けずにいるカイリュー……

倒れているカイリューの腹部にルギアがズシッ!と
足を押し付けて、完全に身動きを封じてしまった。

「はあ、はあ。 やっと捕まえたぞ、カイリュー……
 もう大人しく私に舐められて……味見されろ!!」

さすがのルギアも少し疲れたように荒く息をしている……
いや、もうすぐカイリューの味見が出来ることで興奮して息が荒くなっていく。

……そして、ルギアの口が……グパーっと、
唾液の線を引きながらゆっくりと大きく開いていく。
早く味わいたいとばかりに、だらしなく垂れている舌から唾液を滴らせて、
カイリューの頭に向かって近寄っていき……


ガブリッ! ……ペロペロ……ベチャベチャ……
 

大きなルギアの口がカイリューの頭を丸ごと咥え込んでしまった。
その中で大きくて柔らかなルギアの舌が生々しい音を立てて、
カイリューの顔を嘗め回していく。

「うっぷ! ぐべぇっ! 唾液だらけで汚ねぇ……だあー!!
 だから、なぜ俺を食おうとするんだ!!」

ルギアの口の中でカイリューは舌を手で押し止めて、味見をしようとするルギアと戦いつづける。
その戦いで再び地面が衝撃で揺れ始めた。

その間にもグラエナとエーフィー達の時間も進んでいく。
あの時……ルギアとカイリューがバランスを崩し落ちた場所……
そこはエーフィのいた場所……のはずだったのだ。

あの一瞬の間にエーフィーは、
ギリギリ落ちてくるルギアとカイリューに気が付き……

「ぅ、ぅあっ……テレポートッ!」

エーフィーの焦る声とと共に
鮮やかな青い光がエーフィーの全身から発せられ……


シュパァッ


不思議な音を立ててエーフィーがその場から消え去り
そこから少し離れた場所にテレポートしていた。

それをすぐ側で見ていたグラエナは……
エーフィーが何とか無事にテレポートでその場から消え去り、
ルギアとカイリューに踏みつぶされる瞬間に、逃げ出したのを見届けた後……
落下の所撃で巻き起こった爆風に包み込まれる。

辺りに充満する土煙の中、グラエナは咳き込みながら
何とか抜け出し……今も暴れ続けるルギアとカイリューの側から逃げ出す事に成功した。

「ゲホッ!、ゲホッ! くそ、エーフィーさんは何処行った!?
 こいつらが争っている内に一緒に早くここから逃げないと……」

自慢の綺麗な毛並みが土煙でボロボロになっていたが
今のグラエナは、そんなことを気にしている余裕はなく必死にエーフィーを探している。

そこへ……

「っち……あの馬鹿どもが……
 彼奴らのせいで、せっかくの獲物が一匹どっかいっちまだぜ……」

土煙をかき分けて、謎の声と共に大きなポケモンがグラエナの目の前に姿を現した。
カイリューとはまた違う姿をした真っ赤な翼を持った竜のようなポケモン……ボーマンダ。

「な、なんだお前は! ……一体何処に隠れていた!」

突然現れたボーマンダにグラエナは驚き後ずさったが、
すぐに気を取り直し、牙をむき出しにして、
あの時と同じようにボーマンダを威嚇し始めた。

そんなグラエナの威嚇を気にも留めず、品定めをするように見つめるボーマンダ。
あることを思い出すと……
口から、あふれ出した唾液をジュルリと啜る。

「まあ、エーフィーの方は、後から見つければいい。
 グラエナ! まずはテメーだっ!! 」

その雄叫びの後、ボーマンダの姿がいきなり消え去り、
次の瞬間にはグラエナの側に移動していた。
いきなりグラエナの真上に、
ボーマンダの大きな足が高々と上げられ……踏み下ろされる!


ドシャッ!!


「ガッ…!? グゥ…!?」

胴体をまともに踏みつぶされて、
グラエナの口から呻き声と一緒に肺に残っていた空気が絞り出される。
強く地面に押し付けられたグラエナは、
ボーマンダの足の下で、四肢を動かし……何とか逃げだそうと抵抗を続けた。

ボーマンダは自分の足の下で足掻いているグラエナを嬉しそうに見ながら……
再びジュルリと唾液を啜り、舌なめずりをした。

「へへへ、あっさり捕まりやがったな。
 どれ……もう一度、じっくりと味見をしてみるか……」

ボーマンダはすこし、奇妙なことを口走ると……
軽く口を開いて舌を伸ばしながらグラエナに向かって首を伸ばしていく。

しかし、グラエナもこのまま大人しく黙って、味見されるつもりは更々無かった!

「クソ……誰が、お前なんかに!! 喰らえ、シャドーボール!!」

近寄ってくるボーマンダの顔に向けて大きく口を開くと、
口の中に黒いエネルギーが球状に集まり始め……黒い球をボーマンダに向けて発射した!


バッシュン!


グラエナの放ったシャドーボールは違わずボーマンダの顔に命中し
大きく爆ぜる音を立てて破裂した。
衝撃でボーマンダの頭が後ろに少し押し戻される……しかし、それだけだった。

「痛っ、何をしやがる! 無駄な抵抗をしやがって!」
「それはこちらの台詞だ!!」

殆どダメージを受けた様子もなく、ボーマンダは殺気だった目で
グラエナを睨みつけ、牙をむき出しにしながら怒りの声をぶつける。
それに負けじとグラエナも牙をむき出しにして、怒りにまかせて言い返した。

しかし、グラエナの必死の抵抗も……
ボーマンダにとっては何の役にも立たなかった。

「その口もすぐに聞けなくしてやるぜっ!」

言い終わるのと同時にボーマンダは大きく口を開いた。
そして……


バクッ!!


今度は抵抗する暇すら一切与えず、いきなりグラエナの頭に食らいついた。
いきなり訪れた暗闇と自分の顔にベッチャリと舐める柔らかな舌を感じて、
一瞬遅れて襲いかかる痛みにグラエナは悲鳴をあげた。

「キャン!?ギャインッ!?」

グラエナの悲痛な鳴き声がボーマンダの口の中から辺りに響き渡った。
ボーマンダの口から暴れるグラエナの下半身が見えている。

助けてくれる者もなく……その鳴き声だけが辺りに空しく響いていった。


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